第20話 避難所の日常

避難所の運営委員の人たちとの面談が終わったあと、恭介君が戻ってきてくれて簡単に区役所内を案内してくれた。

この避難所は簡易的だけど学校も診療所もあってちゃんとしたコミュニティ形成されている。個人個人にもそれぞれ役割があるそうだ。


「田村……?」


「篠田さん!良かった無事だったんですね……!」


案内の途中、拉致されていった田村さんが会いにきてくれた。無事だったんだ。良かったな。


「お前こそ、元気そうで良かった……だが……すまなかった、お前を置いてきてしまった」


「いえ……俺も千住コロニーの情報話してしまいましたし……ここの人たちは善人ばかりです。こんな俺にも親切に接してくれています」


「そうか……」


解放されたことと、仲間を失ったこと。天秤にかけられるようなものじゃない。2人は静かに再会を喜んだ。





そのあと僕たちの寝床を案内してもらった。


「悪いねぇこんな狭い所しか空いてなくて。お布団もあるから今持ってくるね」


『ありがとうございます』


「今、部屋を案内してくれた稲森さんていうおばさん、娘さんがイノセンスにさらわれたんだ。食事を持ってきてくれた吉野さんだって中学生の娘さんをさらわれた……みんなつらいのにああやって自分の役割を全うしているんだ」


なんで逃げ道ふさぐようなこと言うかなぁ恭介君は。

こんなの、手伝わなければ僕がクズ的な流れになっちゃうじゃないか……


『どう思う?ダフネ』


ダフネがずっと口をきいてくれない……


『もうマヒロの好きにしなよ。本当フェリオスもあなたも厄介ごとに首を突っ込みたがるわよね!』


『ありがとうダフネ』


『その代わり!もう私が声を出す役割、辞めるわ!自分でしゃべりなさいよね!』


『えぇ?!だって僕ちゃんとしゃべれないよ?』


『知らない!』


あああ。また悩みが増えてしまった……





翌日、僕と篠田さんは警防部門の物資探索班に配属された。篠田さんは千住コロニーの時とやっていることが変わらなかったという理由らしい。

今日は物資探索ではなくて、イノセンスの偵察に行くとのことだ。


「藤宮君!」


廊下で背後から声をかけられた。


「柏木ざん゙……」


「ど、どうしたのその声?」


「いや゙、風邪をひいでじまったみ゙だいで。ゴホッゲホッ」


わざとらしく咳をする僕。マミーの身体だし自前の声帯でしゃべるのが久しぶりだったから声がガラガラだ。そのうちに喉もなれてちゃんとしゃべれるようになるだろう。


「それは大変……私、医療部門に配属されたから、お薬がないか探しておくよ」


「ありがとう。よろじぐね」


「ところでさ、藤宮君……もしかして弘青中学校出身?」


こうせい中学校?なんだろう聞き覚えがあるような……

あ、そうだ――


「ぞれ僕が通っでた学校だ」


「やっぱり!私たち3年生のとき同じクラスだったよね?」


「え、ええと……」


どうしよう。アーレスに行く前のことあまり思い出せていない。嫌な思い出だけははっきりと憶えているのに。でも柏木さんに既視感があったのはこういうことだったのか。


「憶えてない……?仕方ないよね。藤宮君、1学期で転校しちゃったし」


転校?クラスメイトにはそう伝わっているのか。それともアーレスの転移の力が働いて、か。


「おはよう〜柏木ちゃん」


「……おはようございます細谷さん」

 

「今日もかわいいねー俺さぁこれから探索なんだよね〜」


てっぺん黒髪で金髪プリン頭のチャラ男が唐突に話しかけてきた。明らかに柏木さんが引いているじゃないか。


「足の状態は大丈夫なんですか?」


「ああ、全快じゃないけど運転ぐらいできっから」


前の任務でケガをしたらしい。ビッコを引いていた。治療しているときに柏木さんと知り合ったとかなんとか。


「おぉ。お前が噂の新入りか。俺は細谷ホソヤって言うんだ。俺もお前と同じ探索班だからな。ま、よろしく頼むわ」


「よ゙ろじぐお願いじばず」


「おいおい本当に大丈夫なのかぁ〜?めっちゃ顔色も悪いし」


少なくともあんたよりは大丈夫だよ。


「細谷さん……みんなもう行くって」


「んだよ飯島。分かってるって」


細谷さんに金魚のフンみたいについているのは飯島君。僕より一つ年上だ。ポッチャリいじられるキャラでちょっとトロいけどみんなを和ませてくれるんだとか。細谷さんと仲良しでいつも一緒に連んでいるらしい。

 

物資探索班の仕事は、安全圏を少しずつ広げていくことも含まれている。今日は偵察任務なので、昨日遭遇した河川敷周辺を中心にイノセンスどもを探した。

ヤツらの根城は駅前のデパートだということは分かっているみたいだけど、ヤツらもどこを中心に動き回っているか知りたいっていうのもあった。


そんな感じで2、3日、特に大きな変化もない日が続いた。あるとしたらたまに北館近くに迷い込んだゾンビを倒すくらいだ。


「今だ!取り囲め!」


南さんの合図とともに盾を持った人が3人がかりでゾンビを押さえ込んだ。後ろからもう1人が刺股でゾンビを転ばして、最後のひとりが大きなクイでゾンビの頭を打ち抜く。


「なかなかの連携だろ?」


予備で待機していた恭介君が言う。


「あれ、全部南さんが考えたんだ。日頃の訓練も南さんが指導してくれている」


限られた人数でよく頑張ってるな。

南さんがみんなから頼られていることがよく分かった。今さら考えてもしょうもないことだけど、なんでこの人たちに最初に出会わなかったんだろう。そうすれば余計な感情にいちいち苛まれることなんかなかったのに。


この避難所の人たちと関わりが増えてくる中で、そんなことを考えることが増えてきていた。


そんな時だった。

避難所で事件が起きた――




 

 


なんだ?朝から騒がしいな。騒ぎのある方から恭介君が怖い顔をしながら僕の方へやって来る。


「何かあ゙っだんでずか?」


「……マヒロ、聞いてくれ。岩崎さんが殺された。それに……岩崎さんが保管していた銃も1丁無くなっている……!」

 

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