第23話 ボス
デパートの5階は専門店フロアか……家電量販店が見えたけど、そこにはヤツらは少なそうだ。
「あ゙の、”イノセンス”ってヤツらだいたい何人ぐらいい゙る゙んですか?」
先を歩く女性に尋ねると、一度ビクッを身体を震わせてから
「は、はっきりとは分かりませんが、60人くらいだと思います。けが人も多いので、普通に動ける人は50人くらいかと……」
10人は僕がぶちのめしたからだろうな。思ったよりも少ない人数だけど、避難所の人たちで戦えそうなのは僕を含めても10人くらいだ。分が悪いな。
「あのっ、区役所の避難所の方ですか?何人もやられたって、ここの幹部たちが怒りまくってて、攻め落とすとか怖いこと言っているから……本当に私たち助かるんでしょうか?」
僕が原因かぁ。攻めて来られたら今の区役所は籠城には向かない。やはりイノセンスどもの内部から崩壊をねらった方がまだ現実的かも。それには人質をどうにかしないと……
「今日ごごに来だのは僕ひとりだけでず。数日後に人質の救出作戦が行われまず。そのため゙の゙偵察ですね」
「そう、ですか……あなたが凄く強いことは分かりましたけど、本当に大丈夫でしょうか。今日もここの幹部の一人から拳銃を手に入れたって話を聞いてしまって……」
避難所で無くなった拳銃、憶測の範疇から出ないけどここのメンバーに渡った可能性があるな。だとしたら、区役所メンバーに裏切者がいるということだ。
「そのボスとはどんな人物な゙ん゙ですか?」
「詳しいことは分かりませんが、留置所を脱走してきた一人と聞きました。その時にゾンビも人も関係なくたくさん殺してきたとか……とても凶悪な男です……見た目も」
そう言いながら女性はまた震えだしてしまった。
……やはりこのままボスを倒そう。さっきみたいに人質の女性が凌辱されていっている。
「お姉ざん、やはり僕、今からボスを倒ぞうと思いまず。頭が消えれば組織も瓦解するっでいうでしょ?」
「ええ?!いくらなんでも無茶です!ボスは本当に得体が知れないんです!あなたが強いことは分かりますけど……」
「ぞれについては心配いりまぜん。ぞの前に人質でずが、お面を被っでる男どもがイノセンスのメンバーっでことでいいんでずよね?」
「いいえ、必ずしもそうではありません。お面を被っている男性の人質もいますし、中には女性のイノセンスメンバーもいますから……」
それは厄介だな……見分けがつかないんじゃ簡単に助けることもできないじゃないか。ならばボスを叩いた方が手っ取り早い。
「ボスの居場所をおじえてくだざい」
「か、考え直してくれませんか……あれは本当に危険です。化け物です……毎週のように生贄と称して女性が犠牲になっていますし……人間とは思えない……」
そう感じてしまうのは分かる気がする。でもここまできたんだ。さっさとやってしまおう。
気乗りしないお姉さんを強引に説得して、僕たちは4階に降りて行った。途中何人かのイノセンスと思われるお面どもとすれ違ったけど、特に僕のことを気に留める様子もなかった。
4階は書店と家具店がある。書店には閉店時に閉められる金属製のカーテンのような柵が取り囲んであって、中にはたくさんの女性が閉じ込められていた。みんな一様に死んだ魚のような眼をしている。
「あの家具店の奥にここのボスはいつもいます。人質を配置していると思いますので、くれぐれも気をつけて……」
「分かりまじだ。ありがどうございまず。あなたは安全なところに身を隠じて」
おねえさんは一度うなずいてから書店の方へ戻っていった。
家具店に入っていくと奥の方が少し明りが灯っている。ボスや幹部どもが酒盛りでもしているかな。でも近づいていってもあまり人の陰が見当たらない。
ようやく一番奥が見える場所まで来た。棚の陰からボスの様子をうかがう。ボスはソファーやクッションをたくさん集めてその中心に鎮座していた。見た目はぶくぶくと太ったスキンヘッドのオヤジだ。
ボスの横には半裸状態の女性が座っており、その女性になにやら話しかけている。当然女性は生気を感じないほどうなだれているだけだが。
他の幹部はいないのかな?ボスと人質ひとりだったらなんとかなるんじゃ……
その時だった。
ボスから不気味な気配を感じた。
これは、アーレスで何度も感じてきた気配……魔力。
そんな、うそだろ……どういうことだ……?
『マヒロ……』
久しぶりにダフネが声をかけてきた。
『マヒロ、気をつけて。あの太った男、魔族よ』
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