第18話 イノセンス
「そろそろ帰ろう。夜は危険が増す」
道具をまとめて、車に戻ろうと土手を登っているときだった。
「はぁ、はぁ!そこの人たち、に、逃げろ!」
土手を駆け下りてくる男女5人くらいの集団が僕たちの方に向かって来てそう叫んだ。
ゾンビの襲撃か?僕は身構えた。
――すると
土手の向こう側からピエロのお面や仮装パーティでつけるようなお面を被ったおかしな人たちが、次々に現れ走ってこっちに向かって来るじゃないか。
「[イノセンス]どもだ!相手にするな!逃げるぞ!」
恭介君が叫んだ。
イノセンス?ゾンビではなさそうだし、ただの人間だと思うけど……
「獲物はっけーん!」
「ここにもいたぞー!ゲハハハ!」
恭介君がそう呼んだヤツらは雄叫びや笑い声をあげながら向かってくる。手にはそれぞれ鉄パイプやバット、ナイフを持っているヤツもいる。
さっきの人たちはこのおかしなヤツらに追われていたのか。まぁ逃げろと言うなら逃げるけど。
「あっ」
前を走っていた女の子が転んだ。
父親かな。引き返してきたけど、このままじゃヤツらに捕まっちゃう。
……仕方ない。
「おい、マヒロなにしてんだ?!」
『篠田さんは恭介君と先に戻っててください。僕はあの人たち片づけてから行きます』
「だーれを片づけるってぇぇ!!」
先頭のピエロ頭が僕めがけて鉄パイプを振りかぶっていた。
動体視力も上がっている僕にはスローモーションにしか見えない。
鉄パイプを振り下ろしたと同時にパイプの先を足で踏みつけて地面に突き刺してやれば、ピエロは勢い余って鉄パイプを手から離してしまった。
鉄パイプを奪ったならあとは簡単だ。少し振り回したらピエロは簡単に意識を飛ばした。
「おめ、やりやがったなー!」
仮面舞踏会マスク男がバットを振り回して近づい来たので、鉄パイプでバットを殴ったら、持っていたバットごと顔面を直撃。仮面野郎は気絶してしまった。
他のハロウィンモドキどもが全員僕の方を向いた。これでみんな逃げられるかな。
「おいガキ、お前、区役所のモンだな?俺らに手ぇ出した意味、分かってんだろうな?」
オペラ座に居そうな怪人の人が言ってきた。
『いいえ分かりません。先に攻撃してきたのはそっちでしょ?』
「ナメてんじゃねぇぞガキが……どっちが先に手を出したかなんてどうだってイイんだよ。俺たちに手を出したってことが重要なんだよ!」
サバイバルナイフを向けて突進してきた怪人お面。ナイフの扱い方がまるでなっていない。手の甲を狙って鉄パイプを振り下ろしたら、簡単にナイフを手放してしまった。あとはアゴを砕いておしまい。
さすがに敵も一対一じゃ敵わないと思ったのか、僕を取り囲んできた。囲まれたなら飛び越えて外に出ればいい。僕はジャンプして某ネズミのお面をした男の頭を踏みつけて囲いから出ると、お腹とか延髄とかを叩いたり蹴ったりしてやったら、みんな簡単に倒れていった。
10人くらい倒したかな。まだ2人くらいいたけど、逃げていっちゃったな。
イノセンスってヤツらに追われていた人もいつの間にかどっかに逃げ去っていた。
「……殺したのか?」
『いいえ、骨くらいは折れているかもしれませんね』
「このふざけたお面の連中……俺たちも前に襲われたことがある。てっきり、あんたら区役所避難所のグループかと思ってたよ」
「被り物つながりで一緒にしてもらっては困るな。コイツらは”イノセンス”って名乗ってる盗賊まがいのことをしているグループだ」
倒れて動かないイノセンスどもを見て恭介君が言う。
「ばハハハッ!お、お前らもこれで終わりだナッ!」
気絶してなかった美少女戦士のお面が苦し紛れにそう言った。うるさいから蹴り飛ばしてやったら、勢いよく飛んでいって川に落ちてしまった。
『なんなんですコイツら』
「おい、殺すなよマヒロ……留置所の脱走囚人の集まりだとも言われている。俺たちの区役所の避難所もコイツらのせいで壊滅しかけたんだ」
「脱走囚人……厄介なことになったな……」
本当にどこにでも湧いて出てくる、この類いのヤカラどもは。
僕は戦いながら、異世界アーレスで野盗と戦った時のことを思い出していた。
あれと比べたら、本気で殺しにかかって来ない素人同然の犯罪者どもなんて取るに足らない。でも、また区役所の人たちに危害を加えないとも限らないからな。
すっかり日も暮れた河川敷。
車中に不安感を漂わせながら車が発進した。
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