第17話 形見
荒川をまたぐ国道4号線千住新橋。
物々しいバリケードをどかして、北上する。
国道の至る所に不規則に並んだ車が放置されている。ゆっくりと縫うように進む車から見えてきたのは、黒コゲの車内から不気味なうめき声を発する、母親に抱かれた赤ん坊だった。
このまま直進すれば、彼らが拠点としている区役所にたどり着く。
『なに怒ってるんだよダフネ』
ここ最近ダフネが拗ねた態度をとっている。それにさっきから姿を消している。どうせ普通の人間には自分の姿は見えないからっていつもは顕現しているのに。
『……あの拠点から出てくるときに、この人たちから離れたらよかったのに!』
『そうだけど、新藤さんをちゃんと埋葬しなきゃだろ』
『じゃあそれが終わったら旅を続けましょ。2人でね!』
『なんなんだよ……分かったよ』
しばらくして、無事区役所にたどり着いた。
大きな区役所だ。区役所ロータリーに入るとすぐに地下の駐車場があって、入り口にちゃんと見張りの人がいる。
『大きな避難所ですね。ここ全体が避難所なんですか?』
「この間まではな……避難所のメインとなっていた中央館がダメになって、今は北館だけが生活スペースだ……その時、だいぶ殺られたよ」
運転していた恭介君が暗く影を落としたようにそう言う。
なんとなく想像はできるけど。
着いて早々、さっそくシャベルなどの道具を借りて河川敷に向かう。篠田さんも手伝いたいというのでついてきてもらった。元来た道を戻る感じで車は進んでいく。
河川敷に着くと、野球グラウンドが全てお墓になっていた。僕たちはその端の方に穴を掘ることにした。
近くに何体かゾンビがいたので、もうすっかり僕のメインウェポンとなってしまったバールでゾンビたちを屠る。
[身体能力強化]のスキルのおかげで、
『さ、あとは大丈夫そうですね。日が暮れないうちに掘りましょう』
「聞いていたけど、マヒロって見かけによらず本当に強いんだな……敵にしなくてよかったぜ」
感心したように言う恭介君。そりゃ魔物ですから。
河川敷に斜陽が差す中、僕たちは新藤さんの亡骸を穴に埋めた。こういったことは、できれば最後にしたいな……
「ほらマヒロ、これはお前が預かっててくれ」
そう言って篠田さんが、新藤さんの黒縁メガネを僕に渡した。
『ありがとうございます……』
新藤さんを失って、僕はいろいろなことを考えさせられた。
そしてはっきりしたことは、お世話になった良い人間たちが理不尽な思いをしているのであれば、僕ができる範囲でなにかをしてあげたい、そういう思いが芽生えたということだ。
それは、こんな世界にしてしまった僕の罪悪感が同時に少しだけ生まれてきたということでもある。
旅も再開させなきゃな……新たな悩みが出てきちゃった。
僕は、新藤さんの黒縁メガネをかけながらそんなことを思った。
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