第16話 またの避難所

「姉さん!」


「恭介!あぁ恭介……」


さっきの弟か。部屋に入ってきて姉と抱き合った。


「姉さんケガはない?!お前らよくも姉さんを!!」


あ、面倒なことになっちゃった。

パーティルームから逃げ遅れたメンバーもフルヘルメット軍団に入り口を確保され出れなくなってしまった。


「いいんだよ恭介……もうここの頭は死んだから……」


「でもこいつらも仲間だろ?この人さらいのゲスどもが!」


すごい言いぐさ……

ここまで頭に血が上っている人には何も口答えはしない方がいい。


そのあと、美咲お姉さんがなんとか恭介君を説得して、無害な人と、そうでない人(幹部だった男たち)に分けて今後のことについて話し合うことになった。

それから千住コロニーは実質解体。暫定で篠田さんが代表を務めることになった。補佐は美咲お姉さんが務める。


僕たちは拠点を放棄して、美咲お姉さんが認めた人たちだけを連れて一先ずフルヘルメット軍団の拠点に移動することになった。騒ぎに反応したゾンビたちが徐々に集まりだしてしまったからだ。


さっきの騒動で多くの千住メンバーが逃げてしまった。移動者は僕を含めても5人ほど。残った物資をまとめてさっさとヘルメットさんたちの所に行ってしまおう。


「なぁ、あんた」


意外……恭介君が僕に話しかけてきた。


「姉さんをあのクズから守ってくれたんだってな。ありがとな……」


んんん?

助けたつもりなどないが?そう見えたならそういうことにしておこう。


『いえ、お姉さんと再会できて良かったです』


「……すまない。あんたは大事な人を失ったっていうのに……」


新藤さんのことを言っているのかな。大事な人ってわけじゃなかったけど、周りからはそう見えていたのかもしれない。恭介君は気を遣って話かけてくれたんだ。良い人だな。

今さら言っても仕方ないけど、こんな良い人がいる避難所に最初に訪れていれば、こんなことにはならなかったかもしれないな。


『どこか、彼女を埋葬できる場所はありますか?』


「ああ、河川敷ならゾンビどもまばらだから大丈夫だろ。あとで連れてってやるよ」


ありがたいな。でも申し訳ない気もする。しっかりとしているけど、恭介君は10代後半で僕とあまり歳が変わらないと言っていた。


「あの……これで彼女さんを包んであげたらどうでしょうか」


そう言ってシーツを差し出してくれたのは、村上の右側にいた女の子だ。

そういえば、この子、最初に見た時から既視感があったんだっけ。肩あたりまで伸びたクセのない黒髪に人形のような整った顔立ち。特徴とは言えないけど、目立ってはいる。


「あ、あの……私になにか?」


凝視していた……


『ありがとうございます。使わせてもらいますね』


この子、やっぱりどっかで見たことある……デバフのお陰でまだまだ記憶が曖昧だ。


「私、手伝います」


『すみません、じゃぁそっち持ってもらいますか?』


「は、はいッ」


さっき凝視しちゃったから怖がられちゃったかな。

うん?凝視……?


しまった!さっきの銃撃でサングラス壊れちゃったから今何もつけてつけてない!僕の目玉、”ザ・化け物”って感じだぞ!

僕はとっさに腕で目を隠した。


『……大丈夫よ。マミーに進化したから瞳は人間に近くなったわ』


と、ダフネ。なんか不機嫌だな。


『そ、そうなんだ、それはよかった……おっとそうだ、スキルボードも確認しよう』


スキル一覧には[身体能力強化(小)]が新たに加わっていた。そういえば心なしか力が溢れているような気がしないでもない。


「あ、あの……私がやりましょうか?」


『大丈夫です。ごめんなさい』


スキルボードを見ていたから僕がフリーズしているように見えたのかな。女の子は丁寧に新藤さんを包んでくれた。


『ありがとうございました。助かりました……あ、そうだ。僕、藤宮真尋っていいます』


「藤宮、さん……私は柏木 美月カシワギ ミツキ」といいます……けど…………あのッ」


「マヒロ、準備できたみたいだな……新藤さん、俺も運ぶから」


『ありがとうございます篠田さん』


さっき、柏木さんがなにか言いかけていたけど、なんだろう?あとで聞いてみよう。


こうして僕らは千住コロニーであったカラオケ店をあとにすることになった。

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