第13話 犠牲

店のバックヤードを通って裏口から通りに出る。

音に反応したゾンビたちが、徐々に集まってきてしまった。


「クソッ!このままじゃ車に戻れねぇ!おい篠田、お前が先導してゾンビたちを車から遠ざけろ!」


「しかし、あの数をどうやって!」


「うるせぇ!声出して引きつけるとか、何かしろ!」


渡嘉敷は篠田さんに拳銃を向けて命令した。

こうやって渡嘉敷はメンバーたちを服従させてきたんだろうな……


『篠田さん、僕が一体ずつ仕留めて進みますから、取りこぼしたのをお願いできますか?』


「え?!……くっ……すまない。子供のお前に頼るなんて。無茶はするなよ!」


気に食わない。本当にここの大人たちは気に食わない。

こんなことで心をモヤモヤさせている僕自身も。


僕はのんびり近づいてくるゾンビの口の中にバールを突き刺し、蹴り倒して抜き取ると次のゾンビの頭をカチ割った。

数は多いけど、車までならなんとかなりそうだ。

そして、何体かゾンビを倒すとようやく車までたどり着くことができた。


「よし!すぐに車を出せ!」


「田村はどうした?!」


もうひとりの若めの男性、田村さんがいない。さっきまで後ろにいたのに。


「いいから出せ!集まってきちまっただろうが!」


銃を向けて命令する渡嘉敷に篠田さんは少し抵抗するような態度をとった。


『あれ、田村さんじゃないですか?』


僕が指をさした方向、フルヘルメットを被った集団に、田村さんが拉致されていた。


「田村!!」


「チッ!ヤツらに捕まったか。なにしてんだ篠田!早く出せって言ってんだろこの野郎!」


業を煮やした渡嘉敷が篠田さんをぶん殴り、ようやく車は動き出した。





さんざんな目にあったな。

2人も犠牲者を出してしまった。特にあの若い2人は篠田さんを慕っていた。

篠田さんはこめかみあたりから流れ落ちる血を拭き取ろうともせず、拠点に着くまでずっと無言を突き通した。


拠点に着いた。もう僕に目隠しをするとかどうでもいい感じなのかな。

車を降りた時、


ドサッ


篠田さんがふらついて車に倒れかかってしまった


『大丈夫ですか篠田さん。肩貸しますよ』


「すまないマヒロ……」


相当ショックだったんだろうな……

精神的に参ってしまっている。


「おい新入り、そのおっさんは中には入れねぇ。感染してるかもしれねぇからな」


『この血はあなたに殴られた傷ですよ?』


「うるせぇ!命令を聞かないじじぃなんか必要ねんだよ!」



ブチ

――僕のなかで何かが壊れた。



気がつくと、


僕は渡嘉敷をぶん殴っていた。

殴ってから自分の行動に驚いてしまった。それと同時に最初からこうしていればよかったなとも思った。


「グッ!……て、てめぇ!!いい気になりやがって……」


僕が殴った渡嘉敷の頬からツーっと血が垂れる。

渡嘉敷はそれに気づいて血を手で拭った。殴ったときに傷をつけてしまったか。


「てめぇ……よくもやりやがったな!!」


血を見た渡嘉敷は激高して僕に銃口を向けた。


「やめろ!」


篠田さんが叫ぶ……が、渡嘉敷はすぐに引き金を引かなかった。それどころか銃口を向けたまま固まって動かなくなってしまった。


「……なんだ、どうしたんだ?」


渡嘉敷の頬の傷から黒い血管が身体中に広がっていく。転化し始めていて目から、理性が消えていくのが分かった。


「死ネ! じね、Shッ、え゙ぇぇ!」


『篠田さんは下がっててください』


僕はヨタヨタとゆっくり向かってくる渡嘉敷の顔面目掛けて釘バールをフルスイングした。

釘抜き部分が目に突き刺ささると、少し痙攣をしてから完全に沈黙してしまった。






「すまない、マヒロ……お前にこんな役回りさせちまって」


渡嘉敷だったものを見下ろしながら言う篠田さん。


『ゾンビに情けは無用です。さ、戻りましょう』


「……ああ」


篠田さんは何か言いたげだな。あえて聞く必要もないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る