第12話 物資調達

「渡嘉敷、今日はどっち方面に調達しに行くんだっけ?」


曳舟ヒキフネ方面だな。あっちの方はまだ行ってない場所がいくつかある」


「墨田は危険だ。あまり近づくな。それと川を越えたらのナワバリだ。そこにも近づかない方がいい」


「分かってるよボス。あぁそうだ。あのクソ生意気な新入りのガキを連れって行っていいか?教育してやるんだ俺直々にな」


「まぁ、いいけど……あいつなんか妙だ。油断するな」


「はぁ?珍しいな。お前がそんなこと言うなんて」


「アイツ、俺が銃を見せてもまったく動揺を見せなかった」


「ふんッ。ビビり過ぎてたんだろ。それか偽物だとを高をくくってたか」


「あぁ、そうかもな……」


いや、違う。俺は人が恐怖した時の反応も強がっている時の反応も感じ取ることが得意だ。でもあのガキにはまったくそういったものはなかったように感じた……





 

 

僕は物資調達を村上さんに任命され、篠田さんと今井さん、田村さんという男の人の班に編入された。これからすぐに出かけるらしい。


『ねぇマヒロ、なんであんなヤツらの言いなりになるのよ。とっととここから出ていけばいいじゃない』


あきれたようにダフネが言う。まぁごもっともだけど。


『新藤さんが人質みたいになっちゃってんだよ。ここまで助けてきたのにあっさり死なれたらなんか悔しいじゃん』


『あなただったらなんとかできるでしょう?なにをそんなに迷ってるのよ。私は早く旅を再開したいわ』


『……分かってるよダフネ』


ここに来てから、なんか心がモヤモヤする気持ちに苛まれている。その原因がよく分からない……

だからなのか、なんとなく流されるままの状態になってしまっている。


「おーし、今日は俺も出るぞ。おい新入り、俺と一緒に来い」


目的地のドラッグストアに到着した時、渡嘉敷がそう言ってきた。


「お前、あの地獄みたいな上野を突破してきたんだろ?その実力を見せてもらう。いいな?」


そう言って、渡嘉敷は拳銃をチラつかせてきた。やっぱり銃は一丁だけじゃなかったか。


ドラッグストアの店舗の中に入ると、数体のゾンビが徘徊していた。この数であれば僕一人でも倒せるかな。


「よしいけ」


ポケ◯ンじゃないんだから……こっちは支給してもらったバール一本だけだぞ。ま、経験値稼ぎさせてもらいましょうかね。


「篠田さん、あの新入りのガキ、なんか戦い慣れてません?バールの扱いがハンパないっス」


「ああ。それにゾンビを殺す動きに迷いがない……ガキのくせにいったいどんな死線くぐってきたんだよ」


聞こえているよ。

異世界で魔王を倒してきました、なんて言っても信じないでしょどうせ。

 

その時――


 

パリンッ!

ブゥワッ


突然店内に広がる真っ赤な炎。


「ヤツらだ!」


渡嘉敷たちが警戒している野蛮人とかいう人が来たのかな?

火炎瓶が投げ込まれたみたいだ。


「クソッこんな所にまで!おい、裏から出れるか見て来い!」


「は、はい!」


今井さんが店のバックヤードの扉を開けた途端、ゾンビがワラワラと出てきた。


「こっちはダメです!他を探さないと!」


出入り口は炎に包まれ、裏口もゾンビに塞がれた。八方ふさがりだなこりゃ。


ドッ


その時、

渡嘉敷が今井さんをゾンビたちの前に蹴り倒した。


「悪ィな、今井」


「え……うわッ、やめ、ぎゃあぁぁ!」


「今井ー!!」


あっという間に今井さんはゾンビに取り囲まれて八つ裂きにされしてまった。

それも束の間、パリンパリンとガラス窓が破られる音がして、ゾンビが店内に入ってきてしまった。


「逃げるぞマヒロ……」


僕は篠田さんに襟首を掴まれて、渡嘉敷を追うように裏口に連れて行かれた。

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