第10話 生存者
――朝だ
「痛てて……」
腕が痺れて痛い。段ボールや雑誌を敷いただけの粗末な布団では満足に休むことなんかできなかった。寝床だけでいうなら、まだレストランの方がマシだったかな……
今日もマヒロさんは私を襲うようなことはなく、ずっと出入り口を見張っていたみたい。
マヒロさんはいったい何者なんだろう。ゾンビの変異種であることは間違いない。もしかしたらウイルスの抗体を持っているのかも。
だとしても私には何も言えないし、何も聞けない。あの人は紛れもなく化け物なんだから。
マヒロさんは相変わらず出入り口の近くで通りを見ている。
いつ化け物の本性を表すか分からないけど、今はこの人に頼るしか私の生き残る道はないんだろうな……
*
「マヒロさん、おはようございます」
『シッ……静かにしていてください』
「え?あ、すみません……どうかしましたか」
『通りの向かい側、あそこにスーパーがあるの、見えますか?』
「あ、本当だ。来る時は気づきませんでした」
『さっき、バンに乗った数人の男たちがスーパーに入って行きました。生存者でしょう。目的は僕たちと一緒だと思います』
「物資調達ですか……」
『はい、彼らはきっとこのコンビニにも物色しに来ます』
「……殺すんですか?」
『明らかに敵意や害意を向けるなら仕方ないですけど、もし避難所とかから来たのであれば、助けてもらった方がいいと思います』
しばらくすると思ったとおり、生存者たちがコンビニに向かって来た。僕たちはバックヤードの方でその人たちのことを観察することにした。
そして、店内に3人の男たちが入って来たのが確認できた。皆、槍のような物を持っている。
「何もないですねこのコンビニ……どうしたんですか篠田さん?」
「このゾンビ、目を刃物のようなもので突かれてる。いつのものか分からないけど、もしかしたらこのあたりに生き残りがいるのかもしれないな」
見た目50歳くらいの篠田さんって呼ばれた人、鋭いね。
他の2人は篠田さんの言葉にしたがっているから彼がリーダーかな?みんなで警戒度を上げたみたいだ。
「俺、裏も見てきます」
「ああ、気をつけろよ」
若い人がひとりこっちに来る。
『新藤さん、あの人たち、見た目はただの生存者っぽいし、まずはコンタクトを取ります。いいですか?』
「……分かりました」
少し怯えた様子だけど、まぁいいか。この人たちが救助してくれるなら浦和まで一緒に行く必要もなくなる。
『こんにちは〜』
「うわぁ!なんだお前?!」
「どうした?!」
みんな集まって来ちゃった。
『驚かせてすみません。僕たち、避難の途中でこのコンビニに立ち寄っただけなんです』
「……そっちの女もか?他に連れはいないのか?」
『はい、僕たち2人だけです。あなたたちは避難所とかから来たんですか?』
「そうだが……お前たちは今までどこにいた」
『中央区にあるビルにいました。でも食料がなくなってしまって。埼玉県の方に避難所があると聞いて、少しずつ移動して来たんですけど……できればあなたたちがいる避難所に連れて行ってほしいです』
ウソは言っていない。
あとはこの人たちがどう判断するかだな。
「……分かった。少し待っててくれないか?」
そう言って篠田さんと若い男2人はバンに戻って行った。
「本当に大丈夫でしょうか、あの人たち……」
『分かりません。でも今より安全な場所に移った方がいいとは思いますよ』
新藤さんはもう何も言わなかった。
バンにまだ誰かいるのかな?
篠田が助手側に立って誰かと話をしているみたい。
少しすると、こちらに戻って来た。
「よし、お前たちを俺たちの拠点に連れて行く。その代わりと言ってはなんだが、もし何かの物資を持っていたら分けてもらいたい。俺たちもいろいろと物入りなんだ」
「分かりました。これを」
新藤さんがOL姉さんのリュックを迷いなく篠田に渡した。
仕方ないか。
バンに乗り込むと、篠田が助手席に座っている男にさっきのリュックを渡す。
「
渡嘉敷と呼ばれた男はリュックの中身をチラリと見たあと、後ろを振り返り僕たちをジロジロと見た。
コンビニに来た3人と違い随分とチャラついた格好だな。態度も気に食わない。
「とりあえず縛っとけ。目隠しも忘れるな」
「……はい」
縛る?目隠し?やはりこいつら……
「悪いな。以前助けたやつが野蛮人の仲間でな。みんなの安全のために拠点を知られる訳にはいかないんだ。それに、野蛮人どもじゃないにしても、お前たちが感染者かもしれない。そうじゃないと分かったらすぐに外すからそれまで我慢してくれな」
ああそういうこと。
『分かりました。お手数おかけします』
「いや、こちらこそすまない……」
この篠田っておじさんは良い人っぽい。
それになんか渡嘉敷ってヤツに抑圧されてるフシがある。
今さらながら面倒事に首を突っ込んだ感が否めないなぁ。
彼らの言う拠点とやらに着いたら、新藤さんを預けてさっさと旅を続けよう。
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