第3話 脱出。
「オ゙ォッ!」
このゾンビたち、動きは遅いから頭を潰せば比較的簡単に倒せる。
それにしても……
「はぁぁぁぁ~」
盛大なため息が漏れてしまった。
『ちょっとマヒロ!集中してよ!』
『ああごめん……よッ!』
ノロノロと近寄って来る女のゾンビをスッとかわして、消化器で頭を殴る。すると凝固しかかった血をまき散らしてゾンビは沈黙した。
ここのゾンビは動きが緩慢だし、なんかやる気を感じない。
アーレスのアンデッドの方がもっと凶暴だったぞ……
今はダフネによる簡易的な身体強化魔法をかけてもらっているけど効果は長くもたないらしい。
いつもであれば、僕がダフネに魔力を供給しダフネが術式を構築、それで僕が魔法を発動させるという一連の流れがある。
一応、賢者というジョブも持っているから、僕自ら魔法を行使できるんだけど、ダフネを通した方が何倍も強力だから、いつも頼ってしまっていた。精霊術と賢者との重ねがけで、僕は他に類を見ない魔導士なんだそうだ。
しかし……そんな僕がだよ、よりにもよってゾンビになるとは……
『ここよ、この扉。開け方分かる?』
ダフネに案内されてたどり着いたのは綺麗な金属製の扉だ。
『これって、エレベーターじゃん……』
そうか……マダラだけど少し思い出してきた。
僕、地球に送還されたんだっけ……
こんな化け物の姿をしてたんじゃ王国の人たちも僕を元の世界に戻したくなる気持ちになるのも分からなくはない。
でもなんでいかにも研究室ですといったような場所に僕はいるんだろう……?
『どうなの?開く?』
『ごめん、ちょっと待って……』
余計な思考を振り払う。今はそんなこと考えている場合じゃなかったんだよな。
エレベーターを調べてみるとボタンが複数あって、ここが地下5階だということが分かった。
カードキーを使わないと作動しない仕組みのようだったから、そのへんに転がっている研究員のネームホルダーを拝借した。
「ピッ」
タッチパネルにカードをかざすとボタンが光って、僕は1階のボタンを押した。
『おお、開いた!いったいどんな魔法の仕組みなのかしら』
『魔法じゃないよ。科学だから』
『なにこれ行き止まりじゃない。こんな箱みたいな所に入ってどうするの?』
『まぁ黙って待ってなよ。勝手に着くからさ』
ダフネは地球に来ても好奇心旺盛はところは変わらないな。
逆に安心する。
「ポンッ……地上1階です」
1階に到着すると狭くて長い廊下をしばらく歩かされた。
何度かセキュリティチェックの扉を通ったあと、ようやく開けた場所にたどりついた。1階のロビーのようだ。
しかし……頑強そうなバリケードが僕たちの行く先を阻んだ。
やろうと思えば取り除くこともできるだろうけど、時間も手間もかかりそうだ。
バリケードの隙間をのぞくと、無数のゾンビたちが徘徊しているのが見えた。
『仕方ない。もう日が暮れかけているみたいだし、今日はこのビルで一晩過ごそう』
『ええ、またあの白い部屋に戻るの?』
『いいや、街の全貌を確認したいから上階に行ってみよう。ここは17階建てのビルか……』
『17階?そんなある~?まさかぁ~』
あっちの世界では17階もある建物なんてなかったから信じられないだろうな。
まったく……精霊っていうのはどんな状況下でも気楽なもんだ。
エレベーターの案内板を見ると、このビルのほとんどの階は某有名製薬会社の名前が表記されていた。
僕たちはホールに行き17階のボタンを押した。やっぱりな……
ここのエレベーターの電力は断たれているみたい。ボタンを押しても反応がない。
映画やゲームでも見たことがある。地下の施設とは電源系統が別になっているのだろう。それだけ地下の施設は何か特別なことをしていたのかもしれない。今はそれが何かを知ってもしょうがないけど。
『仕方ない。階段で登って行こうか』
5階くらいにたどり着いた時、息苦しさや疲れなどがないことに気づいた。便利だけど身体の動きが鈍い。途中、何体かのゾンビに遭遇した。邪魔だったから一体残らず屠ってやった。
『階段登るの飽きてきたよ。10階くらいでよくない?』
僕はダフネにそう言ったんだけど、
『なに言ってんの!あなたがこの建物は17階まであるって言ったんじゃない。ほら、早く行くわよ!』
ダメか……まぁいいや。そんな感じで僕はゆっくりと階段を登って行った。
17階はレストランのようだ。
最上階のこのレストラン。だいぶ高貴なお方が来られるような作りになってる。全面ガラス張りで街が一望できる。
『わぁぁ高ーい!こんな高い場所なんてはじめて!』
はしゃぎ飛び回るダフネを横目に僕は確信したことがあった。
広がる街に、崩れた建物、立ちのぼる無数の黒煙。
地下のゾンビを見たときから、なんとなくそうなんじゃないかと思っていたけど、この景色。
ドラマや映画で見たことのある光景。
そう、僕の故郷はゾンビパンデミックに陥っていた。
どうしてこんなふうになっちゃったんだろう……
「だ、誰だ?!!」
もやもやと考えながら黄昏の街並みをしばらく眺めていたら、突如、誰かの声がして振り向いた。
そこには、モップに包丁をくくり付けて槍のように構える、ひどく怯えた様子の中年男性がいた。
次の更新予定
2024年12月3日 18:00
放浪のノスフェラトゥ 三国 佐知 @totikanira
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