第30話 駆除戦④
左側から回り込もうとしていた近衛兵ゴブは四体。全員が四角い盾と弩を持ち、背に槍や剣などの武器も背負っている。
そんな四体が、暴れまわる爆竹から距離を取って、囲むような位置取りで驚いている。無防備にも、俺に背を向けてしまってるヤツすらいる。そいつに狙いを付けて全力で接近する。
「ギッムップゥァ! グヘァ!」
俺の方を向いていた奥側の近衛兵ゴブが注意を促すが、もう遅い。
短槍を全力で延長して突き刺す。
背を向けていた近衛兵ゴブが、まさに振り向いたその瞬間、首を貫いて頭を切り飛ばした。
頭が放物線を描いている間に次に取り掛かる。
二体目は背中に剣を背負った近衛兵ゴブで、右手に盾、左手に弩を持っていた。
俺との距離は四メートルほどで、左手の弩を射るか、剣を取るか、ほんの一瞬迷って弩を向けてしまった。
それがよくなかった。
小鬼の体格から、俺に弩を狙うならこのあたりだろうと見積もっていたその空間に、『片鎌槍』に造形していた穂先を突き出す。
「ゴギャッ!」
小鬼の左肘から先が切り離れる。
続いて首を狙った一突きを、相手は左腕を失いながらも、上半身を横に曲げることで回避した。
「おお……」反応が速いし切り替えも速い。
片腕ゴブは盾を捨て、残る右手で背中の剣をとり、体勢を立て直すべく一歩後退した。
そのタイミングで俺も避けられた槍を引き戻す。
「グェ……ッ?」
頭が空中を舞う。
相手は何が起こったのかわからなかっただろう。
俺は、避けられた片鎌槍の片鎌部分を長くして、逆刃に造り直していた。
突きではなくて、引きで切断できるように。
俺が一体目を倒した時点で、仁が。そして今、五木が追いつき、一体ずつ受け持ってくれた。
余裕ができたことで戦況が把握できる。
敵も味方も防塁からでてきて完全に乱戦になった。
敵の数は、俺たちと同じかそれより多いくらいだ。俺たちは二十四人でここにきた。美細津たち、負傷者二名を除いた八人を合わせて合計三十二人いるはずだ。
もともと、近衛兵ゴブは一般兵ゴブの十%、二十体ほどだと予想されていた。なのに、敵は俺たちより多い。三十五から四十体ほどだろうか。予想の倍くらいいる。
しかも、今までの戦いとは違い、みんな瞬殺というわけにはいかない。ここには戦いに自信のある者たちが集まったし、ほとんどがファーストジョブを得ている。それでも、近衛兵ゴブとは互角の戦いをしている者ばかりだ。
というか、たぶんここの近衛兵たちは、小集落にいたジョブ持ちの村ゴブよりも強い。
戦った感触としても、奇襲もどきで瞬殺はできたが、二体目は反応もよかったし、ずいぶん戦い慣れしているように見えた。
そんななか一人だけ、近衛兵ゴブをものともせず処理していく味方がいた。
彼は武器を二本持っている。二刀流と言えるかもしれない。
左手に厚手の刃にギザギザの凹凸がついた短剣。たしか、ソードブレイカーと呼ばれる武器破壊を目的とした剣だ。
そして右手にはレイピア。
「ギィルシュカー!」
剣ゴブが美細津に斬りかかる。
美細津は左手の短剣の溝で、ガチッと剣ゴブの斬撃を受け止め、ぐねっと手首を外側に回すような動作をした。
すると、己の剣に引っ張られた剣ゴブがつんのめって、美細津が右手に持つレイピアに、まるで吸い込まれるように頭を貫かれ絶命した。
続いて、槍ゴブが警戒したのか、間合いのギリギリから美細津を突く。
美細津は踊るようなステップで槍を躱し、ソードブレイカーで穂先を絡め取ると、ぐるっと身体ごと回転しながら、短剣を持つ腕を円を書くように回して槍をねじり上げた。
当然槍を持っていた近衛兵ゴブの腕もねじ上げられ、柄を手放したときには目前に美細津が迫り、首をレイピアで貫かれ倒れた。
まるで踊るように戦うし、恐ろしいほどのバトルセンスだ。
近衛兵ゴブだって決して弱くはない。が、美細津には為す術なく殺られてしまう。
彼の戦いに感心していると、槍ゴブが俺に迫ってきた。
武装は槍の他に腰に短剣を差している。
槍ゴブの突き出した槍を打ち払う。長さは俺の短槍とほぼ同じくらいだ。
今度は俺が敵の頭を狙って短槍を突き出す。こっそり造形して長さを延長していたが横に避けられた。
やはり簡単にはいかない。が、これくらいは想定内。
――造形を変えて、引きで仕留めるか。
と考えたら槍ゴブは一気に間合いを詰めてきた。
もはや槍の間合いではない。お互いに槍での攻撃はできない距離だ。ということは――。
槍ゴブは槍を捨て、腰から短剣を引き抜いていた。
なんて思い切りのいいヤツ……。
俺の造形と同じで、敵にとっては必勝に近い戦法なのかもしれない。
俺は短剣を突き出されるより速く、
近衛兵ゴブの体格は、人間の小中学生の域を出ないし、体重もせいぜい四十キロ程度だ。
蹴り上げた勢いで起き上がり、空中で身動きの取れない相手を槍で貫いて殺した。
「ゴァアアキシィイイ!!」
戦場に轟くような怒声が響いた。
奥から異様な小鬼が現れる。というか小鬼なのか?
そいつは他の小鬼と比べても一回り以上、二回りほども大きい。
普通の小鬼は一四〇センチとか、せいぜい一五〇センチあるかといったサイズだが、そいつはそんなもんじゃない。少なくとも俺よりデカい。
しかも武器もデカい。
そして、装備も頑強そうだ。
皮ではなくて金属製の鎧を身に着けている。手甲脛甲も金属製にみえるし、ボウルのような兜も冠っている。
だが、全身が覆われているわけではない。腕や脚は肌が露出しているし、鎧も、前面と背面の二部品を横で留める造りのようで、隙間がある。
美細津が中央に進み出て細剣をヤツにビシッと向ける。
なんだか魔王に立ち向かう勇者みたいでカッコイイ。容姿がいいとこんなに絵になるわけか。
ヤツも挑発されたのがわかったのだろう。中央に進み出て向かい合った。
やはりでかい。美細津と並んでも少し高い気がする。美細津は一八〇センチ近くあるはずだ。
背丈は美細津より高くて、胸板や肢体は倍くらい太いのだ。
長谷川教官が言っていた。小鬼には亜種がいると。ヤツがそのホブゴブリンなのかもしれない。この拠点のトップであることは間違いないだろう。
「わたしは美細津匡! 名を聞こう!」
「ゴゥフィイギ!」
「うむ。ゴウフィギ、子鬼の王よ! いざ尋常に、人類の未来と、小鬼の存亡をかけて、決着を――」
「ゴゥフィイギ! シェハーッ!」
ドゴォンッ! と大鉈を振り下ろし地面が弾けた。
「口上を遮るとはなんたる無粋!」
美細津はバックステップで避けていた。
ゴウフィギの大鉈は凄まじい威力だった。ゴウフィギという名前なのかは不明だが。
それを避けた美細津も流石だ。
お互いに身体機能に強化がある『留める者』のジョブだと思われる。
ただ、いつ美細津に、人類の未来が託されたのかは謎だ。
そして、便宜上、王とは呼んでいるが、この拠点の主であるだけで、ヤツが小鬼の存亡を握っているわけでもない。
美細津が王の攻撃をなんなく躱し、細剣で脇腹を「はぁッ!」と突き刺す。
パキンッ!
「なっ……!」
美細津の
美細津が呆然としていたのは、ほんの僅かだった。
ゴウフィギは右腕を横に薙ぎ払って手甲で美細津の顔を殴りつけた。
四、五メートルは吹っ飛んだと思う。
骨が折れてもおかしくないような威力だったが、美細津は咄嗟にソードブレイカーを間に挟んだのか、顔面への直撃は防いだようだ。でも口を切って血を流しているし、なかなか起き上がれないでいる。しばらくは戦えないだろう。
「小鬼王、ゴウフィギよ! 次の相手はぼくだ! おまえの首を以って我が伴侶、
近衛兵ゴブを倒した子熊が、ゴウフィギの前に躍り出る。
「子熊! ずるいぞ! まだ近衛兵が残っているのに!」
勇気がバスターソードで剣ゴブと戦いながら叫ぶ。
「誰が結婚だ、子熊ぁ! 貴様ごとぶち抜くぞ!」弓木がキレ散らかしてる。
結婚するつもりなの、おまえら……。
そりゃあ肉体関係があれば、そうなってもおかしくはないのかもしれない……。
でも俺たちって十五才だし……高校一年生で結婚かぁ。すごいなぁ。
俺も、園美や詩帆とは結婚したいくらい好きだけど、ちょっと早いかなと思う。まだ甲斐性もないし……いや、十五才にしては俺たち稼いでる方か。でも、園美はお嬢様だから、お金かかるよなあ。そういえば、そろそろ十六才とか言ってたっけ。誕生日プレゼントどうしよう……。ゴウフィギの首じゃ怒られるかな。
ていうかゴウフィギで定着しちゃったけど、アイツの名前ってゴウフィギじゃないと思うんだけどな。文脈的には「許さん」とか「生かしておかぬ」とかじゃないかな。それに、なんか呼びづらいし。……今更だけど。
子熊はヘンテコなステップを踏みながら半身でバックラーを構え湾刀を高くかざす。
これまで同様、カウンタースタイルだ。
「来い!」
「ギィッシンガー!」
ゴウフィギが片手で大鉈を振り下ろす。
子熊はバックラーを上に構え、防ぐと同時に敵の腕を斬り――つけない。
「コグゥッ……!!」
子熊は左手だけでは防ぎきれず、右手も使ってゴウフィギの大鉈を支えるが、それでも身体が沈んでいく。
ゴウフィギのやつ、とんでもない力だ。
子熊は留める者のジョブ持ちで、身体能力が向上している。
その防御に徹した子熊を、ゴウフィギは片手で上から押し込んでいるのだ。
ゴウフィギは大鉈を振り下ろしたまま、前蹴りで子熊を腹を蹴りつけた。
「コフゥッ……!」
ドンッ! と鈍い音がして子熊が吹っ飛ぶ。接地しても、ゴロゴロと数メートルは回って、防塁に当たってようやく止まった。
俺たちが着用しているのは軍用のベストとはいえ、相当なダメージだろう。
「グァアアアアアアアアアアアア!!」
ゴウフィギが雄叫びを上げた。周囲に活を入れようとしたのかも知れない。それは効果があったようで、周りの近衛兵ゴブたちも「ギャィイイ!」と応じて勢いづいた。
美細津、子熊と倒したゴウフィギが俺たちを向いた。
心当たりは、なくもない。
俺は美細津や子熊の戦いを見学していたのだが、かかってきた近衛兵ゴブは、チームで協力してほぼ瞬殺していた。俺たちのチームだけで十体は近衛兵を倒していた。
俺たちがゴウフィギを脅威と感じているように、敵からすれば、俺たちのことを同胞を殺しまくる危険な集団だと考えていてもおかしくない。
戦いたいやつがいるのなら、無理にお株を奪うつもりはなかった。だが、他の味方に任せるには危険かもしれない。
「仁、五木、碇!」
「オウ!」「うん!」「任せて!」
仕方ない、やるか。
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