第25話 五人
「で、どうするの……? ざ・ふぇいかー……」
「どうもこうもねェよ、ウザすぎてムリだろォ」
夢見と五木の戦いを見せてもらった翌日、校舎の屋上で二人について話し合った。
夢見は俺たちのチームに入りたがっていた。五木は無口なので何を考えているのかよくわからないが、この先もずっと二人で続けていくのは厳しいと感じているのではないだろうか。
「純くんはどう思ってるの?」
碇が俺を見る。
「俺は――」
五木の力は間違いなくチームの役に立つ。あの力は凄い。おそらく本人は相当不器用なのだろうが、そこを割り切って、刀剣や槍ではなく鈍器を選んだところがいい。
刃先がある武器というのは、なんだかんだ技術が要求される。ただ力任せに振り回すだけでは武器の性能を十全には引き出せないのだ。
握り方、振り方、力の挿れ方、抜き方、タイミング。すべてが合わさり一回の攻撃が完成する。
とまあ、そこまでは求めないが、武の道には果てがないのだ。
それから、武器によっては雑に扱ってしまうと武器自体が破損してしまう。刀剣は刃に対して垂直方向からの衝撃には案外脆い。
不器用なら不器用なりに、他の戦い方を模索したほうが良いに決まってる。
そういったアレコレまで考慮したのかは不明だが、実用性重視で戦棍を選んだことに好感が持てる。
一般的な高校生なら、向き不向きよりロマンや格好良さを捨てきれずに武器を選んでしまいがちだ。五木だってそういう気持ちがゼロというわけではなかっただろう。打撃武器に憧れをもって選んだわけではないと思う。
それでも、戦棍には戦棍のメリットもある。重装備の敵に対して防具を気にせず攻撃できる点だ。五木ほどの力があるなら、装備の上からでもダメージが期待できるだろう。
そして夢見だが――。
「――組んでみてもいいと思ってる」
「えーっ」
「マジかァ?」
二人は嫌そうだ。
「まず、五木の力は魅力的だ」
「五木くんの力はたしかにすごかったけど……」
「まあなァ……」
二人ともそこに異論はないようだ。
「そして夢見だけど、俺はアイツは斥候に向いていると思う……」
「そうかァ?」
「そうかなぁ……」
二人は納得しかねるという反応だが、俺には夢見は使えるという確信めいたものがあった。
「まず油断している敵はしっかり倒せていただろ?」
夢見は一体目の弓ゴブと二体目の槍ゴブを背中から急所を突いて殺しきっていた。
「でもよォ、五木があれだけ注意を引いていて、敵がゴブなら誰だってサクッと殺れるはずだぜェ?」
「それに、最後の剣ゴブは、先手を取ってたのに倒しきれてなかったよ」
「まあね。たぶん夢見は短剣を扱いきれてないんだと思う。だから代わりに千枚通しを使ってる。でもそれは大した問題じゃない」
短剣の扱いは見た目ほど簡単ではない。人体には骨があるし、基本的にどんな動物でも心臓の周りには肋骨があるからだ。それに加えてダンジョン生物はマナのせいで防御力が高い。
使いこなせない短剣を諦めて、殺傷力は低いが、扱いやすく刺突性能の高い千枚通しを選んで、武器として仕上げているというのは悪くない判断だと思った。
なぜなら、夢見はおそらく非力なタイプだし、そもそも斥候役は軽装備だ。敵に近づいても、ダメージを与えられなければ一気に劣勢に陥ってしまう。
斥候役に関わらず、癒し手や支援士など、近接戦に不向きな役回りは徹底して近接戦を避けるべきだし、変に正義感や思いやりが勝って、敵を真正面から引き付けてやろうなどと考えるのは危険だ。
夢見は、例え仲間が劣勢に陥ったとしても、自分の命を最優先に考えるだろうし、斥候はそういう自分本位な人種の方が向いていると思ってる。
「別に、全員が全員、戦闘で敵を倒しきる必要はない。敵の注意を逸らしたり邪魔をしてくれるだけで十分役に立つ、だろ?」
二人は渋い顔をしている。敵を倒せないよりは倒せるヤツのほうがいいと思っている顔だ。まあそれはもちろんそうなのだが。
「今は相手が小鬼だから、倒せて当然と思っちゃうけど、強敵と戦うなら中途半端な強さより、気を逸らせるタイプの方が良い。敵の注意を引くことにかけてアイツはかなりの才能だと思う。真面目な戦闘中に奇声を上げたり、フザケたりって俺たちには出来ないだろ?」
「それは、そうかもしれないけど……」碇が頭を捻る。
そして今後のことを考えれば……。
「俺たちも、三人だとこの先キツイと思うんだ。ダン高だと、チームは五人前後が一番多いらしい」
五人いれば小規模拠点も攻めやすくなるし、取れる戦術の幅が広がる。三人だと一人が負傷した時点で作戦終了、即撤退だ。
軍隊でも隊編成の最小単位は五人前後か、その倍の十人前後が多いのだという。探索者は軍人よりも機動力も戦闘力も高くなるから、五人前後がいいと経験則から自然にそうなったのかもしれない。
「人数のことならクラス内に拘らなくても他のクラスと組めるよ」
「あァ。臨時でチーム組んでるヤツらいるぜ?」
怪我人や体調不良、もともとメンバーが少ない者たちが、放課後に中庭に集まって臨時チームを組む、そういう慣わしがある。でも……。
「俺たちと役割が被らない二、三人組が、そう都合よくいるかな?」
チームというのは構成も大事だ。様々な
例えば、魔法が効かない敵に、『魔法使い』五人で挑んだら勝ち目はない。
二人が思案顔になる。前向きに検討してくれているのかもしれない。
「それから、アイツは性根がネジ曲がってる」
「え、うん?」
「お、おう? どうしたァ、悪口かァ?」
ナニイッテンダコイツ、みたいな目で見られる。
「いや、そうじゃないんだ。悪口なんだけど、褒め言葉なんだ……。なんていうか、アイツは悪ぶってるとか、非行をカッコイイと思ってるわけじゃない。……かといって、本物の極悪人でもない。ただ、性根がネジ曲がってる変なやつなんだ」
「?」
「純くん、何言ってるの?」
俺自身うまく説明できないのだが、夢見という男は、いたずら好きが極まって一線を超えてしまったようなヤツだと思ってる。
「たぶんだけど、モンスターに嫌がらせするのが楽しいんじゃないかな」
昨日の戦闘を思い出す。夢見は背後から小鬼を刺して奇声を上げたり、挑発して背後から五木に撲殺させてとても嬉しそうだった。
なにかに嫌がらせをして、それが上手くハマると大喜びする性分なのだと思う。ドッキリ系の娯楽が好きなタイプだ。
「俺たちって、そういう、小賢しさっていうか、誰かをハメてやろうとか罠にかけてやろうっていう視点ってないだろ?」
仁も碇も善良な人間だ。碇は優しすぎるし、仁はアホすぎて人を騙すとか嘘を付くことができない。すぐ顔に出る。
だが、夢見は目的のためにわざわざ戦闘服を黒く染めたり、文具を改造して嗜虐的な武器に改造するような、悪知恵の働くヤツだ。そういう方面にセンスがあるのだろう。
「というわけでさ、とりあえず二人を加えてみてさ、どうなるか試してみないか。まあ、どうしようもなかったらきっぱり断るからさ」
二人は完全に納得した様子ではなかったが反対はしなかった。
夢見と五木に、少しの間組んでみるかと聞いてみたら、案の定、夢見がハイテンションでウザ絡みしてきて後悔した。
それから作戦日まで五日を切り、二人を加えて五人でダンジョンを探索したが、駆除戦の拠点となる東から南東方向のエリアでは、小鬼の数が減少しているのがわかった。たまに街ゴブの小隊と遭遇するくらいで、村拠点は見つからなかった。
一度、D組代表の坂本のチームとバッタリ出会って、話をしたら村拠点を攻め落としたところだと言っていた。
各クラスの代表たちが順調に小鬼の村拠点を潰してるのだろう。
「コロコロ名前変えられても面倒だしよォ、一つに決めろ。コブリンデストロイヤー」
コブリンデストロイヤーと名乗っていた夢見には、名前を統一させることにした。ちなみにゴブリンデストロイヤーではない。コブリンデストロイヤーだ。
「んー、ひとつかー。名前の多様性が俺という存在を暗示するアイデンティティでもあったわけだが……。まあおまえらの言い分もわからんでもねえ。ここは俺様が折れてやろう」
それからあーでもない、こーでもない、と散々迷った末にようやく『漆黒無音』に決まった。
一度、教室内で漆黒無音と呼んでみたらキレられた。
「まてまて待てっちゃ。おまえどうかしてんじゃねーの? 頭わいてんの? 暗黙のルールくらいまもれっちゃ。何考えてんだよっ」
コイツに「何考えてんだ」とか言われると無償に腹が立つ。
俺は口を塞ぐ夢見の手をのけた。
「なんだよ、お前だろ。漆黒無音って呼んでほしいんだろ?」
「ちっげーよ、日常生活とダンジョンの区別くらいつけろよ。学校では正体がバレないように気を使ってるってわかれよ。そーゆー秘密は仲間内だけのときしか話しちゃいけないって五歳児でも知ってんだよ。おまえ秘密戦隊ロクレンジャーみたことねーのかよ」
「ねーよ。なんだよロクレンジャーって。戦隊ものなら仮面ライダーだろ」
「ばっか! おまえっ! 仮面ライダーは戦隊じゃねーだろっ! ……ん、戦隊のシリーズもあるか……? いや、そうじゃねーんだよ、戦隊ヒーローが一般人に正体がバレたらよ、いろいろと大変だろうが!」
よくわからないが、夢見のなかではダンジョン内の自分については日常生活では隠しておきたいらしい。
一応恥ずかしい自覚はあるのかもしれない。
それから五木と話してみたが、チームに加えてもらったことを感謝された。
「いやあ、助かったよ。あのときは上手く行ったけど、二人だと失敗しちゃうことも多いんだよね」
やはり、二人での探索は大変だったようだ。
「遊くんはあんな感じだけどさ、香取くんにはかなり心開いてると思うんだよね。ほら、教室では静かでしょ? 人見知りっていうか、苦手な人には変な絡み方しないんだよね」
あんまうれしくないな、と思った。
あくまでも暫定チームではあるが、正式なメンバー申請はしておいた。
なんでも、駆除戦のような合同作戦では、基本的にはチームごとに褒賞が出るらしい。なので、作戦前日までにチーム申請をしておくように通達されていた。
おそらく例年であれば、入学から最初の合同作戦までの二ヶ月の間にチームが固まるのだと思われる。今年は幾分早まってしまったが。
それから作戦三日前にようやく碇が
『離つ者』だった。
「やったー!! とうとう僕もノービス卒業だ! 『大弓術士』への始めの一歩だ!」
碇は、始めの頃の、郷田との探索が響いたのか、ジョブ取得に思ったより時間がかかってしまった。
最近の碇は、拠点攻略でも活躍していて、俺もそろそろじゃないかと思っていたし、本人も焦っていた。ダンジョンからの帰り際には、しきりに男神像に近づいて確認していた。
経験値に関してはいろいろな考察がなされている。
基本的には、自分のジョブの役割を熟達させていくことが、次のジョブへの近道だと言われている。
例えば、術士系二次職『
ただ、ノービスから一次職においてだけは、倒したモンスターの強さと数がものを言うらしい。どれほど戦闘には向いてなかろうと、どれほど支援職の才能があろうと、最初だけはどんな方法でもいいから、モンスターを倒さなければならないのだ。
ちなみにこれが、ダン高で女子生徒がダンジョンに入らなくなった理由の一つなのだろうと思っている。
とにかく、碇のジョブ取得が間に合ってよかった。
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ダンジョンに潜ると、人肌がどれだけ
俺たちはもともと順調に探索を進めているし、夢見と五木の二人も加わってより安定感が増した。それでも、ダンジョンに潜ると気が抜けないし、気が張る。その張り詰めた糸を解きほぐしてくれるのは女子たちだ。
一体どういう経緯で、ダンジョンに身を投じる少年に対して、同じ年頃の少女を当てがおうと考え、成立させたのかは甚だ疑問だが、俺はこのシステムに感謝している。
世界的には、その道のプロの女性を雇って、探索者の相手をさせるのが普通らしい。
それはそうだろうと思う。どう考えてもその方が手っ取り早くて楽だったはずだ。
だが、日本は同世代の男女を集めて、負担軽減の名目で報酬は払うが、あくまでも恋愛の延長として、副作用の問題を解決した。
そのおかげで、少なくても俺は、同世代の彼女たちと肌を合わせながら、慰めてもらい、相談に乗ってもらい、時には弱音を吐き、そしてまたダンジョンに送り出してもらえる。
彼女たちを守りたいと思うし、そのために力を付けたいと思う。戦う者にとって、守る存在がいることが大きな活力と動機になる。
夜の方は園美にお願いして、ダメな日は詩帆にお願いしている。
詩帆も最高だけど、園美に帰ってくるとマイホームのような懐かしさと安心感を覚える。
「はぁ……はぁ、園美、気持ちいい?」
腰を振りながら、下で俺を受け入れてくれている彼女の反応を伺う。
俺たちは、というか俺は、だいぶセックスに慣れたし、挿れただけで暴発することはなくなった。
キスして、彼女の身体を手や口で撫でて、彼女も俺に同じようにしてくれて、お互いに高まったら繋がる。俺が何回か早いうちに達してしまうけど、それで少しは余裕ができるから、セックスを味わえるようになった。
「あっん、はぁんっ。ええ……いいわ。純」
「えっ、まじで? はぁっ……ど、どこが気持ちいいの?」
「ぁんっこらっ、調子に乗らないのっ、んっ」
今日は調子がいいかもしれない。このまま彼女を満足させてあげたい。
腰の動きを少し速めて、彼女の頭を優しく撫でてキスをする。舌を絡める激しいやつだ。彼女の舌も激しくて興奮してくれてるのがわかる。彼女の手が優しく背中やお腹を撫でてくれる。……あれ。
「……んぁ、れぇ、ちょっと……まって。一旦、すとっぷ……」
「ぁんっ? ……どうしたの、純?」
腰を止めるが、これはマズったかもしれない。格好をつけて抜ききらなかったのが悪かったのだろうか。判断を誤った。
なかがキュッキュして熱いものが込み上げてくる。
やっぱりだめだ、我慢できない……。
「ぅあっ、ぁっ……っ」園美に抱きついて身体を震わせる。こらえきれなかった。
「……あらあら、気持ちよかったのね。よしよし」
彼女も、震える俺を手足でギュッと抱きしめてくれる。俺は彼女のこれが好きだ。震えが止むまで、俺の頭や背中を優しく撫でてくれる。
何回しても毎回気持ちがいいし、飽きがこない。
園美は俺に何か望んだりすることはなくて、俺の好きにさせてくれる。
こういう体位がいいとか、ああいう事をしたいと言えば、嫌な顔ひとつせずに応えてくれる。俺が気持ちよくなるのを最優先してくれて、それは本当に幸せなことだけど、俺は彼女にも気持ちよくなってほしかった。
セックスの合間に横向きに見つめ合いながらお喋りする。
「今回は勝てると思ったのに……」
「うふふっ。調子にのるからよ、せっかくいい感じだったのに」
「本当に? そうは見えなかったけど……」
「残念賞といったところね。でも気持ちよかったのは本当よ。それにオーガズムだけがセックスの目的ではないわ」
「そうだけど……」
俺は話しながら彼女の胸や背中やお尻を撫で回す。滑らかでプニプニしていて、もみ心地が最高だ。どれだけ触っても触り足りないし、手が離せない。
園美は「くすぐったいわ」と言って、俺のお腹や胸あたりをペタペタと反撃してくる。俺もくすぐったい。
「わたしは純と繋がって、あなたが気持ちよくなってくてるだけで幸せよ。一秒でも一分でもそれは変わらないわ」
「一秒はあんまりだ」
「ふふっ。そうだったわね、たしかに最初からは見違えたわ」
クスクスと笑いながら頭を撫でてくれる。
相変わらずとっても可愛いし、こうされるのも全然イヤじゃないけど、というかすごくいい。最高だ。ちょっぴり悔しさと恥ずかしさもあるけど。
今のところ園美には一勝もできていない。調子がいいと思っても、彼女相手だと、よくわからないまま
「純……」
「なに?」園美の手が俺の頬に添えられる。
「殲滅戦、気を付けてね」
「……うん」
「あなたを失いたくないの……無理はしないで」
「わかってる。ちゃんと生きて戻るよ」
死んだら二度とこの身体を抱けないのだ。まだまだ園美としたいことは山程ある。
例えばデートだ。
俺たちは身体の関係が先だったので、普通のデートというものをしたことがない。恋人と街を歩いて、食事をして、買い物をして、締めくくりに本物のラブホテルで乾杯。
そんな、普通の少年少女が経るべき経験をしないで肉体関係に至ってしまっている。
「作戦が終わったら、園美としたいことがあるんだ」
「いいわよ」
「まだ何も言ってないよ?」
「純がしたいことならいいもの。だから言わないで」
そう言って唇で口を塞がれた。舌を絡めたらムクムクしてきた。次こそぎゃふんと言わせたい。
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