第23話 戦力把握
俺たちは勇気と四人で探索を進めていった。
扉から東のエリアを、小鬼の跡をつけて拠点の位置を探り、様子を確かめ、落とせそうなら攻めた。
ときには尾行に失敗して巻かれたり、戦いになったりした。拠点の入口に見張りをたてている集落では、奇襲に失敗して撤退することもあった。
四人だと、だいたい四、五十体までの規模であれば制圧可能なのがわかった。それ以上になると、拠点自体も広くなり、設備もよくなる。
歩廊のような、高い位置に複数の射手を配備していたり、櫓のような高台がある拠点を攻めるのは、俺たち四人では厳しそうだった。
そして、今日が勇気が加入してから一週間目だ。
「射手がいるっ! 光弾に気をつけろ!」
「小賢しいのがいるぜェ! 短剣使いだァ!」
「弓ゴブは倒したよっ!」
そこは、岩壁がU字型に奥に引っ込んだ形の小規模拠点だった。正面は二〇メートル以上の幅があって、入口以外を瓦礫や岩を積み上げバリケードのように封鎖していた。
入口の見張りを碇の弓で倒し、奇襲で六、七体始末した。
敵ゴブの動きは迅速で、二十体以上が武器を携え、俺たちを囲み込んだ。身なりがいい小鬼は二体いた。皮装備を身に着けている短剣ゴブと、ローブを纏った杖ゴブだ。
俺と仁と勇気は、それぞれ三、四体の村ゴブを相手にしながら、ジョブ持ちと思われる短剣ゴブと杖ゴブにも気を配らなければならない。
短剣ゴブは、手を地面について、四足歩行のように身をかがめて混戦状態の拠点内を右へ左へ動き回り、警戒が薄くなったメンバーを横から襲ってきたりする。
杖ゴブは、杖にマナを収束させて光弾を発射してくる。光弾はバットでぶん殴るくらいの威力があるし、あたりどころが悪ければ骨くらいは折れてしまうだろう。
どちらも気の抜けない敵だ。
だが俺達も、勇気が加わったこの一週間で、拠点攻めの経験を積んできた。時に失敗し、撤退こともあったが、一回一回の戦闘を振り返って反省し、次はこうしてみようとか、ああしてみたらどうかと、戦い方や連携を練ってきた。
例えばこんなのだ。
「勇気! アレをやるぞっ!」
俺は相手にしていた三体のゴブを放りだして勇気の方に向かって走り出し、勇気が相手にしていた小鬼を横から突き倒した。チラリと横目で見ると、勇気が頷ずいて、小鬼のいないスペースに移動し、バスターソードを高く掲げる。
「ダイヤの雫! 桃色苺! 無数の希望を探してっ!」
大声で叫びだした勇気に小鬼たちの注目が集まる。
俺と仁と碇の三人が勇気に駆け寄り、背を向けて集合する。
「
瞬間、一面を白く染めるような光線があたりを包む。
「ギャシィイ、シャシィ!」
小鬼たちは顔を覆ったり、当てもなく走り回り、転んだりぶつかり合ったりする。
衝突して転んだ小鬼を、目を押さえてしゃがみ込んでる小鬼を、目を閉じながら剣を振り回してる小鬼を、四人でどんどん無力化していく。
これが連携技だ。
光による目潰し攻撃は、小鬼に対して効果が高いことがわかった。たぶん洞窟の乏しい光量になれて、光への耐性が退化したものと思われる。
勇気をフリーにし、合図の呪文を唱える。別に必須ではないのだが、敵の注目を集めるのと、マナを込めるまでのラグを利用して何か唱えた方がカッコイイと、勇気が考えてきたものだ。意味はわからない。
村ゴブを倒しながら杖ゴブと短剣ゴブを探す。
……いた。
短剣ゴブは入口の瓦礫によじ登り、外へ逃げ出そうとしていた。ヤツはすばしっこい。逃げられたら、俺では追いつけるかどうか……。
「ゥォオオオオイッ、チョコマカとテメェエ!」
瓦礫のてっぺんに手をかけ、登り切るすんでの所で、助走をつけ瓦礫を駆け上がってきた仁に、背後からズパァッと斬り付けられた。
「グェァエエ!」短剣ゴブが瓦礫の山から崩れ落ちる。
仁もどんどんマナの体内制御を上達させている。瓦礫の山は足場も悪いし、俺たちの背丈の倍ほどの高さがある。それを一瞬で登って短剣ゴブを仕留めた。
残りは数体の小鬼と杖ゴブだ。
敵の視力は回復したようだ。杖ゴブは状況を把握して明らかに混乱しているし、戸惑っている。こんなはずでは、という思いが察せられる。
俺は槍の穂先をヤツから見えないよう隠しながら、散歩でもするように杖ゴブに向かって歩いていった。杖ゴブも俺に気付く。一瞬の戸惑いの後、杖の先を俺に向けて、マナを込め始める。
収束されたマナが淡く光り、音もなく、光弾が発射される――。
パァアン!
俺は短槍をスイングして打ち逸らした。穂先はスコップのように幅広に造形していた。
光弾の速度はショートボウの矢くらいだ。距離がそこそこあって、
まあ、普通に避けてもよかったのだが……。
杖ゴブは驚いたような表情をして、それからムキになって再度杖にマナを込めだした。……今だ。
杖ゴブの胸にトンっと矢が刺さる。「ギィャ……?」
杖ゴブが俺ではない、別の方向を見たあと、収束されていた光が杖先から拡散し、地面に倒れた。
熱くなり視野が狭くなった杖ゴブの胸を、碇の矢が正確に貫いていた。
すべて片付いたようだ。
後処理も手慣れてきた。四人で手分けをしながら核石を取り出し、革袋を漁る。拠点の奥に隠し穴を見つけて、掘り返したら綺麗な鉱物を見つけた。
俺たちは学校に戻って精算をしたら、一人頭一万円くらいになった。
「香取、相川、碇。三人ともありがとう。チームでの戦い方もわかったし、集落攻めの経験も積ませてもらって、なんて言ったらいいか……」
勇気のチームメンバーは順調にケガから回復して、明日からダンジョンに潜れるとのことだ。つまり暫定チームも解散で、俺たちは元の三人チームに戻ることになる。
「んなこたァいいんだよ、それより女争いガンバレよ」
「そうだよ、もし付き合えたら、しーなんにサイン頼めるかな。しーなんがまだメンバーだった頃の写真集があるんだ」
「そのときはもちろんさ。……あとコレ」
「なんだ?」
勇気から俺たち三人に
かわいい女の子が四人写っていて、桃色のジャケットに曲名とモモツメクサZの文字が可愛いらしいフォントでかかれている。
「しーなんがいた頃の記念曲なんだ! いい曲だから是非聞いてみてくれ!」
「あ、ああ。……サンキューな」
布教されてしまった。
そんなこんな、いい感じで勇気との合同チーム期間が終了した。
きっかけは長谷川教官からの頼みだったが、俺たちにとっても間違いなくプラスだった。勇気と組んだ一週間で村拠点を三つ潰すことができたし、それは俺たち三人では無理だった。
そして作戦まで残り一週間を切った。
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俺は長谷川教官から今回の作戦の中隊、『臨時ツバキ中隊』の中隊長を仰せつかっている。その役目は、作戦を成功に導くためのバランサーだ。
つまり、自分の分隊だけでなく、クラス内の他のチームにもある程度指示を飛ばして戦場を駆けずり回ってもらう可能性があるかもしれない。
というわけで、残り時間を使って、クラスの他チームの戦力把握と親睦を深めるために、一緒に探索することにした。
まずは茶山チームに声を掛けた。
「それならタイミングがよかったぜ。少し前に拠点を見つけたんだが、数が多くてな」
茶山チームは、リーダーの茶山と小野田、菊池、それから古川と迫が加わって五人メンバーで探索している。
茶山の脚のケガはとっくに治っていて、古川も一週間ほど前に復帰したのだとか。
ジョブを得ているのは茶山だけだが、小野田と菊池は一層のモンスターにはかなり攻撃が通るようになってるし、もう少しだろうとのことだった。
拠点攻めは、五日前に一拠点潰したそうだ。それから二日前にもう一拠点見つけて攻め込んでみたが、数が多かったのですぐに撤退して、どうするか迷っていたそうだ。
さっそくダンジョンに入り、案内してもらう。
入口に二体の小鬼が見張っていたが、内部は大きな一部屋の集落らしい。上階に射手がいるとか罠の類はないそうだ。作戦は茶山チームに任せて、俺たちのチームはフォローに徹することにした。
「いくぜっ!」
茶山の合図で駆け出した。俺たちを見るやいなや、見張りが集落に駆け込んで大声で叫ぶが、お構いなしに集落に突入した。
敵の小鬼はざっと四〇体以上いて、戦いの用意を済ませて入口を囲むように待ち受けていたが、茶山たちは物怖じせず突っ込んでいった。
茶山は留める者のジョブを獲得していて、身体能力が向上していた。短槍の柄ギリギリを持って、長い手足を活かし小鬼の間合いの外から、一方的に顔や胸をどんどん突き倒していく。あれでは小鬼たちに為すすべはないだろう。
小野田と菊池も、二体相手でも怯まず数を減らしていく。
古川と迫は、二体相手だと
あっという間に数を減らし、身なりの良い剣ゴブは小野田と菊池が二人で倒した。
安心して見れるくらい危なげなかったし、茶山たちは問題無さそうだった。十分戦力として期待できそうだ。
続いて池田のチームと潜った。
池田のチームは途中から郷田のチームに加わって探索をしていたが、郷田が退学したことで、今は池田、月影、関の三人に、元郷田チームの骨皮を加えた四人で潜っているらしい。
四人とも俺と目を合わせないし、余所余所しいのではっきり言ってやった。
「あのなあ、俺は被害者だぞ? 仕掛けてきたのは郷田の方で、お前ら見てたじゃないか」
「う、うん。そうなんだけど……な?」
「ああ、それはわかるんだけど……ね?」
「まあ、頭でわかってても……ってやつ?」
「下腹部がズキズキする……ような?」
仲間内で疑問符を廻し合うのをやめろ。
とにかく彼らに付いて行って、戦いの様子を見せてもらったのだが……。
「まぁ、ビミョーだなァ……」
四人で四体の村ゴブとそれぞれ戦っているのだが、なかなか倒しきれない。
体格差で勝っている分、戦いを優勢に進めてはいるのだが、倒し切るところまで持っていけない。
最初に、月影が一体目を倒すのに一分近くかかったし、一対一で小鬼を倒しきれたのは月影と骨皮だけだった。
単純に戦闘経験が乏しく動きが硬いというのもあるし、マナを十分に得られていなくて、敵の防御力に負けているというのもある。
だが、それ以前に……。
「月影はなんで短剣なんだ?」
「あー……実は、斥候職を目指してるんだ。いずれは『忍者』になりたくてさ……」
頭をポリポリとかきながら恥ずかしそうに言う。
「だよなあ……」
まあ、そうだろう……というか、それしかないよな、と思う。
短剣が真っ向勝負に向いていないのは月影だって百も承知だろう。それでも短剣で戦う理由はジョブのために他ならない。
ただ、このチームで一番能力が高いのは月影だ。それは間違いない。その月影が、短剣で真正面から戦っていることにもったいなさを感じる。
月影は剣ゴブの攻撃を短い刃でしっかり弾いて、懐に潜り込み腹や胸を的確に攻撃していた。時間はかかってしまったが、技術と集中力には目を見張るものがあった。
せめて、他のメンバーに複数の敵の注意を引けるようなアタッカーかタンクがいるのなら、斥候としての戦い方――背後を取ったり、敵を撹乱したり――も輝くのだろうが……。
「他の誰かが盾を持つ選択肢はないのか?」
「タンクは、ちょっとなあ……?」月影以外の三人が、顔を見合わせてノーの意思を確認し合う。
気持ちはわかる。
彼らは別に、格好悪いとか、敵の攻撃が怖いとか、そういう感情論だけで嫌がっているわけではないのだ。
実際にダンジョンに潜るとわかることだが、探索というのは移動が多い。
例えば、入口から一〇キロ移動すると、平気で二時間はかかる。その距離を往復するとなれば倍の時間がかかる。敵を探して、後をつけて、俺たちは探索時間の多くを移動に費やしているのだ。
たった数キログラム、装備が重くなるだけで疲労度がまったく違う。
タンクをやるなら初期装備だけでは心もとない。盾、武器、鎧、兜、手甲、脚甲、肩当て等など……。それを身に着けての移動がどれほどの負担か……。
それから、身に危険が迫れば逃げなければならない。
この逃げる、撤退する、ということが、俺はダンジョン探索において一番重要なスキルだと思っている。
逃げ切れれば明日があるが、逃げ切れなければ死ぬのだ。
俺たちだって、逃げる敵を追いかけまわすように、敵だってなんとか追いすがって殺そうとしてくる。当然、狙われるのは一番のノロマだ。
タンクというのは防御力が高いかわりに、もっとも死に近いポジションだと言うものもいる。
チームの役割については、部外者がどうこう言える領域ではないのだ。
「しっかし、どうするよォ?」
「目標があるのなら仕方ないよね……」
碇が同情的に言う。
碇自身、弓志望ながら盾をやらされていた経験があるので、思うところがあるのだろう。
正直なところ、俺は月影が斥候や
だが、『忍者』や『盗賊』、『隠密』という斥候、間諜系の職業性能をチームとして活かすのであれば、その役割は撹乱になる。
つまり、四対四の戦いで、チームの負担を減らすために一人引きつけよう、ではなくて、四体に隙を作って三人でも戦えるようにしてやろう、というパーソナリティが斥候向きだと思ってる。
あくまでも個人的には、だが。
とはいえ斥候職でもない俺が無責任に言えることではなかった。
「拠点を攻めたことはあんのかァ?」仁が尋ねる。
「郷田くんと攻めた一回きりだよ」
そういえば、郷田はそのときの拠点制圧でジョブを得たんだったか……。
「その時はどうやって攻略したんだ?」
「郷田くんってすごい装備だったでしょ? あれ、親からのお小遣いだったらしいんだけど、それで雑魚の攻撃はほとんど通らなかったから、郷田くんが突っ込んで場を荒らして皆で叩きのめす、みたいな?」
骨皮が説明してくれた。
確かに郷田の装備はすごかった。一体いくらするんだと思った記憶がある。
アイツ、ボンボンだったのかよ……。
「うーん……」
なんだか今になって郷田という男が惜しくなってきた。いたらいたで間違いなく毒にしかならないのだが。
とにかく、村ゴブとの一対一くらい楽に倒せるようになってくれないと、拠点を攻める段階には進めない。集落を攻めれば、二体、三体の小鬼を同時に相手にすることだってあり得るし、弓ゴブやジョブ持ちなど、周りに目を配りながら戦わなくてはならない。
とりあえず、俺と仁で武器の扱いや、使えそうな技をいくつかアドバイスしておいた。
不安はあるが、戦力を把握しておいてよかった。大役を任せて怪我をさせるわけにはいかない。
最後は夢見と五木のペアだ。
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