第9話 集落

 俺と仁、そして碇の三人での探索は順調だ。


 小鬼は四体から六体の集団で行動していることが多い。

 それで集落の周りを哨戒したり、獲物を狩ったりしているようだ。


 今までは、俺と仁は近接戦闘を行いながら、遠距離攻撃にも気を配って戦っていた。

 一応、敵の弓ゴブも、同士討ちを避けて、味方が近距離で戦っている間に矢を放ってくることはなかった。だけど、前衛ゴブを倒してしまえば、遠慮なく弓で狙われてしまうため、常に遠距離ゴブの位置を把握しながら戦う必要があった。


 碇が入ったことで、小鬼の射手は優先して碇を狙うようになった。

 そして、普通の弓ゴブは、矢の精度はあまり良くない。技量の問題か、武器性能の問題か、あるいは両方かはわからないが、だいたい二十メートルも離れると、かなり外してくれる。


「弓道だと二十八メートルの距離から、直径三十六センチの的を狙うんだ。ダンジョンだと、競技並に時間も掛けられないし、弓具も違うから、二十メートルと少しかな。――それくらいなら止まってる獲物なら外さないよ」


 碇が使用している弓は、短弓ショートボウといって、あずさという樹木製の原始的な弓なのだとか。威力と飛距離はそれほどでもないが、良く言えば、速射性に優れ、取り回しが良く、騎馬戦闘で活躍した弓種らしい。悪く言えば、初心者用の弓だとか。


 俺も仁も、近接ゴブ二体までなら苦にならない。三体になるとギリギリだ。だから、二人で探索していたときは小鬼六体の集団だと危ないときもあった。

 碇が入ったことで、弓ゴブの注意が碇に向くようになったし、負担はかなり減ったと感じる。




 昨日は順調だったので、推奨エリアの奥の方まで探索してみた。

 そして、それを発見した。


「おい、見ろよ」


 岸壁から少しだけ顔を出して覗き見る。


「当たりだなァ……」仁がニヤッと笑う。

「けっこう多いね……」碇は顔が強張っている。


 その集落は、岩壁の亀裂を進んだ先にある空隙にあった。

 広さは学校の体育館くらい。バスケットコート二面分ほどだと思う。

 『大広間』と名付けたその空隙には、小鬼たちが二十体くらいはいて、猫のような小動物を捌いたり、石を打ち合わせたり、皮を干したりしていた。寝そべって怠けているヤツもいる。


 大広間の先には四つの洞穴が見えた。

 全体像としては、四本指の手のような形だろうか。手のひらが大広間で、指が洞穴、腕が岩壁の亀裂だ。


 大広間と洞穴では小鬼たちが往来している。

 小鬼には腰布を巻いているオスと、加えて胸布も巻いているメスがいるが、メスゴブが食事のようなものを運んで出入りしている洞穴があるので、奥にも小鬼がいると考えられる。


 だいたい四十体くらいの集落なのではないか。俺たちはそう予想したが、はっきりとはわからない。


 攻めるか、という意見は出なかった。

 俺たちはまだ、急造の三人パーティーだし、最大で六体までの小鬼としか戦ったことがない。十体までならやりようによってはやれるんじゃないか、という感触はあるが、数十体の敵を相手に、敵の拠点に攻め入るという無謀な考えは浮かばなかった。



----



「あと二人くらい面子がいりゃどーにかイけそうなきがするけどなァ」


 お昼休み。俺たちは一、二年の東側校舎の屋上でお昼を食べていた。

 話題は昨日発見した小鬼の集落についてだ。


 カフェテリアで食べると、どうしても女子が来てしまう。贅沢な悩みではあるが、人に聞かれたくない話をするときは、こうして屋上を利用するのがいいそうだ。

 俺たちと同じように、屋上にはちらほら生徒がいるが、全員男子だ。


 それと、屋上の隅の方に茶山のグループがいた。茶山は俺たち一年C組のクラスメイトで茶山派のリーダーだ。彼に対するイメージは『できるチャラ男』だ。

 茶山と小野田と菊池、それから、古川とさこが五人で固まって、何か相談しているようだった。


「そうかなぁ、敵の数が四十体だとしても、敵は防衛、僕らは攻撃だよ。攻撃側は守り手の三倍の戦力が必要って言われているんだ。難しいよ」


 仁の意見に対して碇が疑問を投げる。


「それは城攻めみたいに、お互いにやる気満々で、よーいドンの戦いだろォ? 初手は奇襲なんだから、場を荒らしちまえば関係ねェよ」


 敵が油断してるところを奇襲する。

 最初に大きく敵の戦力を削れればいける……だろうか?


「ゴブリンだってさ、僕らや襲撃者の対策はしてるはずだよ、じゃなきゃ安心して暮らせないよ」

「対策ゥ? 例えばどんなのだよ」

「それは……」碇が顎に手を当てる「落とし穴……とかさ……」


 洞窟で落とし穴か……。硬い岩を頑張って掘る小鬼達……。天然か。


「落とし穴ァ? ていうか碇、おまえ、ちゃんとメスやガキどもを殺せるんだろうなァ?」

「え……、メス、ガキ?」

「集落なんだから、ガキだっているに決まってるだろォーが」

「そ、そうか……。そうだよね。うーん……」


 碇は善良な人間だ。

 戦いは人の本性が出やすい。嘘をついたり、一方的に誰かを傷つけたり、そういう猜疑心や暴力性は、命のやり取りの場でははっきり可視化される。

 たった数日の付き合いだが、碇が平気でそういうことができる人間には見えなかった。


 だから、碇が郷田の意図を汲んで行動してる線はまずない。

 とすれば……。


 俺は屋上から校舎の外側を見下ろす。

 校舎の北側にガラス張りのコンテナ型喫煙スペースが見える。

 現代でもタバコは嗜好品として一定の需要を獲得し続けている。

 とはいえ二十才以上の法律があるので、教官や研究者専用の施設だ。

 中にいるのは黒髪をポニーテールに結っているスーツ姿の女性教官……。


「スモーカー女子か……」


 男性団体の軍組織に、女性で居続けるのはストレスがたまるのかもしれない。とはいえ、この学校の女性教官率はかなり高いように感じるが。


「どのみち、まだ三人じゃ無理だ。様子を見よう」



----



 ダンジョンの入口から、南方面に早足で歩いて四、五十分ほどの地点。直線距離的には四キロほどだろうか。

 小鬼を標的とする俺たちの推奨エリアは、南エリアか北西エリアが近いのだが、俺たちは最初からこの南エリアを探索している。

 ちなみに方角はあくまで便宜的に定めたものだ。この世界の地軸やら磁針がどうなっているのかは不明だ。


「ギャギャゥグ!」

「四体、やるぞ!」


 小鬼の集団と岩壁の曲がり角で鉢合わせする。


「弓ゴブ一!」


 碇がターゲットを伝えてくる。

 俺と仁は左右から集団を挟撃する。それは碇に射線を空けるためであり、なるべく三人で敵全体を視野に収めるためだ。


「ギャッ!」


 近距離からの戦闘開始だったが、早打ちで勝った碇が、弓ゴブを射る。

 俺と仁がそれぞれ槍ゴブと剣ゴブを相手する。残った槍ゴブがどっちに加勢すべきか迷いを見せる。


「浮いた槍ゴブ!」


 その隙に碇が再度矢を放ち、槍ゴブの腹に当てた。槍ゴブが矢の衝撃で尻もちをつく。

 俺も眼の前の槍ゴブの首を突き絶命させた。


 周りを警戒して問題ないこと確認する。

 碇は素早く駆け寄って、先に射た弓ゴブの首を短剣で突き刺して殺し、それから槍ゴブにもトドメを刺した。


 色々試している所だが、碇には戦況の報告をしてもらうようにした。

 今のところは問題ないが、この先も、前衛の俺や仁が戦況を把握できるとは限らないからだ。

 碇は片手剣ではなく短剣を装備するようになった。弓と矢筒、それからウェストポーチだけでもけっこうかさばってしまうので、短剣を購入したようだ。


 戦闘時間は二十秒もかかっていない。余裕をもって戦っても、このくらいの時間で殲滅できるようになった。

 パーティーとして、順調に成長している、というのはもちろんある。でも、このあたりの小鬼は、元々、もっと深いエリアの大規模な集落、それこそ、階級が存在するような街からの、はぐれ者の小鬼らしい。だから、装備も貧弱だし、なんとなくみすぼらしく見える。


 後処理を終えて移動する。

 目的地は、昨日発見した小鬼の集落だ。


 今すぐ攻める気はないが、とりあえずは集落の偵察をして、それから、その付近を探索しながら、敵戦力を削れないかと思っている。


 出待ち作戦だ。


 仮に集落の人口が四十体だったとして、四体倒せれば、一割敵戦力を削れる。



「なんか聞こえねェか?」


 耳を済ませる。


「聞こえるね。戦闘音だ」碇が耳に手を添えて集音する。


 甲高い金属音が聞こえる。かすかに怒鳴り声も混じっている。


「人間の声が混じってるな」


 小鬼は、餌や縄張りを巡って、小鬼同士で争うこともある。

 だけど今回は、俺たちと同じ一年生が小鬼と戦ってるとみて間違いない。

 二年生以上は、ほぼ一層にはいないはずだ。


「ていうかこの方向って……」

「まァ早いもの勝ちだしなァ……見には行くだろ?」


 二人とも気付いたみたいだ。


「ああ、行こう」


 スピードを上げ、早足で集落へ向かう。走りはしない。万が一に備えておく。


「……げき…を…ろッ……かわ……あッ」


 激しい戦闘音と切迫した声。


「うまく無さそうだなァ」


 集落までもう少し。

 岩壁の亀裂を抜ける。

 大広間に出た。



「古川ぁ! 大丈夫かぁ!? 小野田ぁ、射手を抑えられるかっ!?」

「くそっ、近づけない! 雑魚どもをなんとかしないと!」

「直久! 返事しろっ!」


 戦っていたのは茶山のチームだった。


 最前線で槍ゴブと戦っている茶山。

 茶山を孤立させないように、左右でそれぞれ二、三体の槍ゴブや剣ゴブを抑えている小野田と菊池。

 倒れているのは古川か。迫は、盾と片手剣で古川を守ろうとしている。

 他には小鬼が入口の近くで三体倒れている。


 おそらく奇襲で三体倒したところで、小鬼たちの反撃に合い、古川がやられた。

 戦況は膠着しているが、有利そうには見えなかった。

 何より、迫にも子鬼が寄ってきていて、古川が無防備になってしまっている。


「茶山! 大丈夫か!」


 一応、茶山に声を掛けてみた。切迫しているように見えるが、後で獲物の横取りだと言われてもつまらない。

 茶山は戦っていた槍ゴブから距離をとり、こちらを一瞬だけ見る。

 よく見ると、茶山の脚に矢が刺さっていた。


「……狙撃手がいるっ! ……古川を頼む!」


 一瞬悩んだように見えたが、茶山がそれだけ叫んで槍ゴブに向き直り、仕掛けられた攻撃を打ち払う。


 その一回の攻防で気付いた。茶山が戦っている槍ゴブ、動きがいい。あきらかに他の小鬼とは身軽さや槍の扱いが違う。

 服も腰布だけじゃなくて、革製のピッタリした防具を身に着けている。


 いや、今はそんなことより――。


 左……右……上……いない……後ろ……いた。


「碇、後ろだっ! 狙撃手を――」


 大広間への入口の上。ギャラリーのような、小鬼が一体分ギリギリ歩けるくらいの歩廊がある。そこに弓ゴブがいた。ちょうど、俺たちを……俺を狙っていた。


「くぉっ……!」


 すんでのところで躱せた。

 危なかった。


 碇が歩廊の弓ゴブに弓を構え矢を射る。命中した。

 弓ゴブがバランスを崩して落下する。


「仁! 雑魚を頼む……!」

「任せろッ!」


 敵の小鬼は五、十、十五、……十七かそれくらいだ。まずは――。


「古川っ! 大丈夫か」


 うつ伏せになって身を震わせていた古川に駆け寄る。


「ゴホォっ、コホッ……」


 血は流れていない。抑えてるあたり、胸をやられたのだろうか。


「こっ、光弾を撃ってくるのがいる。……ウッ、たぶん射手だ……」

「弓じゃないのか……?」

「それとは、別だ……マナを、使えるヤツ……」


 マナ……。射手……。離つ者。


 もちろん忘れていたわけじゃない。

 マナを扱えるモンスターがいる。

 だが、ゴブリンがそうである可能性。

 俺は今まで完全に失念していた。


 大広間を見渡す。

 戦況は混戦状態だ。弓を持っている小鬼はいない。ほとんどの小鬼が槍か剣を持っているが、アイツだけ違う……広間の奥の方にいる……太い杖のようなものを持っている。

 杖の先に淡い光が集まっていく。

 何だ……? そいつが見てるのは……っ!


「茶山ぁ! 避けろぉおお!」


 槍ゴブと一時的に間合いを取っていた茶山目掛けて、光弾が飛んでいく。


「くぉおっ……!!」


 間一髪、茶山は地面に身を投げだして回避した。


 速い。

 弓矢に近いくらいの速度は出ていた。

 起き上がる茶山に、異色な槍ゴブが追い打ちを掛ける。

 茶山は必死に突きを打ち払うが、矢を受けた腿からは血が滲んでいる。つらそうだ。


 どうする……。


 一次職には、『留める者とめるもの(戦士系)』、『離つ者はなつもの(射手系)』、『化える者かえるもの(術師系)』、『造る者つくるもの』の四つのジョブが確認されている。

 杖持ちの小鬼は『離つ者(射手系)』で間違いないだろう。

 先ほど見た光弾の速度と、古川をノックダウンさせる威力……。

 真正面からは得策じゃない。


「迫! 古川を任せる!」

「あ、ああ!」


「ギギャッ!?」

「悪いな」


 俺は迫が相手にしていた剣ゴブに襲いかかった。

 剣を振り回し威嚇してくる、その腕を狙って突き、そして裂いた。

 もう一方の腕も穂先で斬りつけて、手早く両腕を無力化する。


「グギャァア!」


 短槍は置いて、左手でゴブの首を、右手で腰を抱えて持ち上げる。たいした重さじゃない。子鬼は小学生程度の体格しかない。せいぜい三十キロほどだ。

 状況は乱戦模様で、他のメンバーが、敵のかなりの注意を引き付けてくれている。特に仁の影響が大きい。


 俺は杖ゴブに向かって走り出した。


 次の目標を伺っていた杖ゴブが、俺に気付く。

 杖に光が集まる。その間に、全力で走って少しでも彼我の距離を詰める。

 さあ、どうだ――。


 ドンッ

「ゴギャgyァ」


 抱えていた剣ゴブを盾代わりに、身をかがめて衝撃に備えたが、それでも一メートルほど押し戻された。


 すごい威力だ。これは生身で受けたら怪我じゃ済まない。

 でも、三秒は掛かった。

 杖に光を貯めてから、狙いを付けて発射するまで約三秒。

 ギリギリだが、間に合うか……。


 用済みの盾ゴブはもう要らない。

 口から汚い体液を吐いて失神してる荷物を捨てる。それでもっと速く走れる。俺は杖ゴブに肉薄する。

 杖ゴブは再度、杖先にマナを貯めるが、焦りが目に見える。


 よかった。

 間に合った。俺の勝ちだ。

 勢いそのまま、思い切り横蹴りで吹っ飛ばした。

 腰からナイフを抜き、起き上がる間も与えずに首をかっ裂く。


「射手を殺った!!」

「「おお!」」


 身体が暑い。緊張していたからだろうか。気分は……悪くない、むしろ今までで一番いい。難敵と戦って、ハメが外れたのかもしれない。下腹部の元気もいい。……なんだってこんなときに。

 いや、今はそんなことより……。


 残りの小鬼は……九、いや、今八体まで減った。

 小野田が茶山に加勢する。

 俺も短槍を拾って残りを倒す。

 こうなったら一方的だ。



 最後までしぶとかったのは、茶山と戦っていた異色な槍ゴブだった。

 茶山、小野田、菊池の三人に囲まれても、飛んで、しゃがんで、身を投げ出して、普通の小鬼ではあり得ない動きで攻撃を回避し、隙あらば反撃し続けていた。それでも少しずつ傷を負っていき、脚が動かなくなったところで、最後は茶山に首を突かれて倒れた。


 おそらく、この槍ゴブもジョブ持ちだったのだろう。

 『留める者(戦士系)』だろうか。


 敵の戦闘員は片付いたが、まだ終わりではない。

 俺は仁と広間の奥の洞穴を一つずつ確認して回った。

 洞穴の奥は、寝床と貯蔵施設、廃棄物投棄所として使われていたようだ。


 右から二番目の穴を進むと、戦闘に参加しなかったメスと、その後ろに子どもの小鬼がいた。可哀想だが、見逃せない。なるべく苦しまないように殺った。


 大広間に戻ると、茶山はウェストポーチから医療キットを取り出して脚の治療をしていた。古川は、まだ胸が痛むのだろう、顔をしかめていたが、迫に支えられながら座って、上半身を起こしていた。今すぐ命の危険がある、というわけでは無さそうだ。


「もう敵はいない。奥にいた小鬼も始末した」

「……そうか」


 事務的な会話に努めた。


 別に助けてくれと言われたわけじゃない。

 声は掛けたが、勝手に助けたようなものだ。

 俺たちが参戦しなくても、なんとか切り抜けられた可能性はある。

 厳しかったとは思うが。


「……いや、助かったぜ」


 茶山はそれだけ言って、俺も「ああ」とだけ答えた。


 後処理をして、戦利品は買取額を八等分することになった。茶山チームの五人と俺たち三人の八人だ。菊池と小野田がそうすると言ったから、俺は何も言わずに受け入れた。


 小野田や菊池、迫も小さい傷を負っていたが、歩けないほどではない。それぞれが、茶山と古川に肩をかして、入口まで撤収した。

 戻って来るまでに、一度、子鬼の集団に襲われたが、俺たちが倒した。



 入口にある漆黒の球体が見えてくると、古川や迫はホッとしていた。

 俺は、入口のそばにある男神像に生徒が集まっているのに気付いた。五人ほどだ。

 そいつらも、俺たちに気付いて近づいてきた。


「おいおい、ずいぶん大怪我してるやつがいるなぁ。へへっ。一体、どんな強敵と死闘をしてきたんだぁ?」


 顔を歪ませながら大柄な生徒が声を掛けてくる。


「まさかとは思うが、ゴブリンにヤラれたなんて言わねぇよなあ、へへへっ」

「郷田、てめえ……」


 茶山が荒立つ。


「俺たちよぉ、さっきゴブリン共の集落を潰してきたんだが、つい今しがた、職業ジョブを得たんだ」


 息を呑む気配が伝わる。


「郷田くん、すごいよ。普通は早くても一ヶ月かかるところ、三週間でジョブ獲得だ。新記録かもしれない」


 骨皮ほねかわが郷田に付き従う。


「すげえ力だぜ、ジョブの有り無しで、全然違うとは聞いてたけどよぉ、今ならゴブリン程度なら真っ二つにできそうだぜ。いや、もしかしたら、人も真っ二つにできるかもなぁ。へへへっ」

「……何が言いてぇんだよ、郷田ぁ」


 茶山が郷田に噛みつく。


「……はっきり言ってやる。おまえら俺の下につけ。C組は俺が仕切ってやる」

「あぁ?」

「ダンジョン探索は、いずれクラス単位、学年単位の合同任務もでてくるのさ。そのときにリーダーが必要だ。一番強い郷田くんがクラスを仕切る。それが自然だろ?」


 骨皮が郷田を補足する。


わずらわせないなら、少しはいい思いもさせてやる。このダン高ではそれができるからな、ヘヘっ」


 郷田が顔を歪ませて笑う。

 含みのある笑い方だ。


 俺たちが険悪そうに話しているのを見て、周りにギャラリーができ始めた。

 生徒たちが探索を切り上げて帰りだす時間帯だ。


「別に、戦って白黒つけてもいいけどなぁ? なぁ、香取ぃ」


 郷田がヘラヘラしながら俺を見るが、目は笑っていない。


「……ああ、それもいいな……」

「長くは待たねえ、断るなら叩き潰す。いいな?」


 郷田たちが漆黒の球体に消えていった。



 少し時間をおいてから、俺たちも球体に向かった。

 俺はみんなを先に行かせて、ダンジョンに留まった。


「ジョブか……」


 天井に瞬く星を見上げて、ため息をついた。

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