第4話 発達性ディスレクシア
翌日。天気は快晴だった。
私、涼宮雨は覚醒と共にベッドのそばに置いてあったスマホの録音機能を使って、どんな夢を見たか、それにまつわるアイデアを声に出して記録していく。
自分は発達性ディスレクシアという障害を患っている。
普通なら、文字を読んだり書いたりすることが難しい。常人なら読めるはずの文章でも、私には古代文字のようにしか見えない。つまりは読めない、ということだ。
それでも、小説を書けているのは文明の利器によるものが大きい。執筆にはスマホのスピーチライターなるものや、読み上げソフトを代替えして用いる。
小説を読むときもそうだ。ネットでコピーライターと契約し、読みたい小説の文章をWordに起こしてもらい、それをボイスソフトに読み上げさせる。値段はピンキリで、文庫本なら数千円。ハードカバーなら数万円ほどだ。中学生のわびしい小遣いではしょっちゅう利用は出来ない。はずれの作家を引いた時には癇癪を起しそうになるほど苛立つこともある。
普通に、文章を読んでみたいとどれほど思ったことか。文体から文体への視線の移動にしか味わえない、スリルや興奮があるものだと勝手に思っているのだが。
ある有名ネット小説の第三十五話の文章を読み上げソフトに読ませながら、ブレザーに着替える。ネクタイをきゅっと結んだあと、立ち鏡を見下ろした。最近太ってきたんだよな。
『勇者は言った。【君は勇敢な戦士だと】だが魔王は不敵な笑みを崩さないまま、そんなおだてには乗らないぞ、といった感じだった』
私は思わず振り返った。ノートPCは憮然としたまま単調に読み上げていく。
「どんな展開よ。それ」
KADOKAWAのウェブ小説投稿サイトには当たりはずれが大きくある。まるで振り子のようにその振れ幅は大きい。
たまらずスペースキーを押して読み上げを終了させる。
「これは作者、エタるわね」
今まで散々完結まで至らなかった作品を聴いてきた。そのたびにどこか惜しい気持ちがしてならないのだ。
自分よりも優れた能力を持っているのに。投げ出すなんてもったいない。
たとえ凡人でも、自分のようにディスレクシアなど持ってはいないのだから。
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