第17話 ガンビット
帝国士官学校というだけあって座学は退屈だ。はっきり言って帝国軍の歴史や政治思想などまったく興味がない。マニアックな話など、女子は好まないのだよ、女子は!オタクと言ってもわたしもいちおう女子なので、この手の話は頭に入ってこない。まあ、この手の話じゃなくても入ってこない……。
ということで、ダルさんに丸投げ中だ。
楽しそうに板書しているダルさん……先生からすると、まるでわたしが座学が好きみたいに思われてるかもしれない。いやぁ……それはそれで、後々困ることになりそう……。
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それにしても、学校という場所はこんなファンタジーな世界でも変わらないなぁ。同年代がたくさん同じ空間にいるだけで問題が起きる。無視したり、わざとぶつかって来たりと嫌がらせをしてくる。
「あら?いたの?ごめんなさい」
「――!」
実技授業への移動中。小柄なわたしを囲むように陽キャな女子がドンッと背中を押す。普通ならバタンッと倒れて嘲笑されるところだが、生憎とわたしのステータスは尋常じゃないようで、貴族の女の子がどついたくらいではびくともしない。
「えっと……呼んだ?」
「「「――!」」」
嫌がらせをしているようだが、身体的にはまったく問題ないので、なるべく友好的に尋ねる。
何度も突き飛ばしてくるが、動じないわたし……彼女たちがドン引きしているところ、「あの……突き飛ばすなら、もう少しチカラを入れてもらわないと……」と言ってしまった。
「「「――なっ!」!」!」
貧弱な貴族の女の子たちは怒りに震えているようだ。
そんな様子を遠くで見守るネオンちゃんは、ゴゴゴゴゴゴ……と殺気がだだ漏れだ。わたしはジェスチャーでネオンちゃんの怒りを鎮める。むしろ、こっちのほうが大変。ネオンちゃんを怒らせたら殺戮が起きる。
だけど、もう大丈夫。あまりにもイジメがいのないわたしに愛想を尽かしたのか、彼女たちは諦めるように周りからいなくなってしまった。ふぅ……危ねぇ。
「ガガガ、ガウラ様……だだだ、大丈夫ですか?」
そんなわたしに声をかける男の子……爽やかなセシウムとは違い、ちょっと挙動不審な雰囲気で心配してくれる。猫背で前髪が長く、身なりもそれほど良くない。いかにも陰キャという感じで、貴族でないことはすぐに分かった。
この学校には、ほぼ貴族の子が通っているが、稀に平民の子が通っていることもあるらしい。
そういう子はたいてい能力が高いのだという。
「うん、心配してくれてありがとう。えっと……」
「ぼぼぼ、僕は、ビスマスといいます。すすす、すみません!こここ、こんな、僕が話しかけて……」
前髪で顔は隠れてるけど、照れたように頬を染めるビスマス君。きっと、女の子と話すのが苦手なんだ……それでも、心配してくれるなんて……くっ……いいヤツかよ!
「ううん、嬉しいよ!一年間よろしくね、ビスマス君!」
「――かはっ!……ままま、眩しい!ガウラ様……なんて心が美しいんだろう。イルミナ様を庇ったときもそうですが、ととと、とてもカッコよかったです!しかも、貴族の方達に目を付けられても物怖じしないその胆力と気概……あああ、憧れます!」
興奮したビスマス君は、オタクのそれのようにまくし立てる。周りの目もあるので、あまり熱弁されると恥ずい。とりあえず、たははっと受け流していると、セシウムと目が合う……わたしを気にしているようだ。
これは……まさか……モテ期!?ふむ……前世でまったく縁のなかった恋愛フラグが立っている気がする。
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実技授業はというと、魔法演習や模擬戦などをするようだ。士官なる者、強くなければ誰も上には立てないらしい。
でも、ここは機械の国『帝国アリウム』……ただの模擬戦でないことは分かっている。
ゲーム【幻想のオド】で帝国兵と戦ったとき、魔法の国【王国ブバルディア】の魔法に対抗する攻撃力を有する軍隊……『ガンビット』……それが扱う武器を練習するんだと思う。
{『ガンビット』は2本の鎖を有線で扱う、多重攻撃発射装置だよ。結局は魔力を使うから『鎖魔法』って呼ばれてるね!先端が鋭利で物理攻撃にも使えるけど、結局は変幻自在の魔法ってところかなぁ}
「へぇ……ふ〜ん……」
{ウラっちに理論で言ってもダメよ、ダルちゃん}
{ウラン……つまり、鎖チェーンを振り回すんだ}
「――なるほど!」
{ダメですよ、隊長!ちゃんと魔力で鎖を蛇のように操って刃先から魔法を発射するって言わないと、ネオンちゃんはチカラ任せに……}
「では次……ウラジール!」
ダルさんが何か言っていたけど、わたしの番だ。今、この鎖チェーンを一人ずつ試して適正を見ている。先生から使い方の説明を受けたが、相変わらず情報は入ってこなかったので、適当に振り回す。
「オリャオリャオリャ〜!……あで?」
「「「――!」」」
凄まじい勢いで振り回した鎖は身体に巻きつき、見事に自分自身を捕縛してしまう。これ……むずくない?
生徒たちからクスクスと 失笑と嘲笑が入り混じる。
「何あれ?」
「センス無しね」
「きっと、持ってるのはお金だけよ」
う……たしかに……。基本的にわたしはこういう複雑な道具は合わないんだよね……だって練習嫌いだもん。
「では、各自2人1組のチームを組んでもらいます。模擬戦はデュオで行いますので自由に組んでください!」
自由!?先生の言葉に皆が集まるのはネオンちゃんとセシウムの周り……取り合いですなぁ。ポツンと取り残されたわたしに手が差し伸べられる。
「おおお、お願いします!ガウラ様!」
ビスマス君は、頭を下げて手を差し出す。どこかで見たことあるような告白シーンのようだ……。
「わ、わたしでいいの……?」
その手を取ると……ゴゴゴゴゴゴというネオンちゃんの視線とセシウムの視線が痛い。
「――!あああ、ありがとうございます!」
模擬戦での負傷はHP が0になることはないらしい。ここは、ウラジール家の訓練場と同じ仕様になっているみたい。
ネオンちゃんは結局、取り巻きの女の子たちの中からパートナーを選ばずに、おとなしそうな女の子とデュオを組んでいる。セシウムはわたしを目の敵にしていた中心人物の『フレロビ』っていう女の子と組んでいるようだ。
わたし➖ビスマス君
ネオンちゃん➖「スズ」という女の子
セシウム➖フレロビ
模擬戦では『ガンビット』による攻撃のみが許可されている。つまり、魔力で鎖を上手く使えないわたしはチカラづくで振り回すしかない。
普通なら重くてそんなに振り回せないはずだけど、ステータスの高いわたしは強引に振り回せる。ネオンちゃんよりはチカラは無いけど、そのへんの貴族よりは遥かにチカラはあるので、それでなんとかするしかない。
ビスマス君に迷惑はかけられない!
「あら、ガウラさん。私たちと模擬戦なんて奇遇ですね」
初っ端から『セシウム➖フレロビ』デュオとの対戦だ……フレロビがガンビットに魔力を流し込むと、フワリと鎖が宙に舞う。
「――も、もう使いこなしてるんだね」
「ウフフ、あなたとは才能が違いますの。私たちはちゃんと受験してこの場にいるのですから」
フレロビが嫌味なことを言うが、わたしには何も言い返す言葉がない。なぜなら、事実だから……。
「……」
「でも安心してください。この模擬戦ではどれだけ痛めつけても死ぬことはありませんので」
フレロビはそう言った瞬間、『ガンビット』から炎を放出する!
ボォッ!と火炎放射器のように左右から吹き出す炎……だけど……ちょっと火が出てるだけの鎖ってだけで……何これ?こんなもの深層のモンスターを相手にしているわたしにとっては、ライターみたいなもの。
問題なく躱していく。
「――ちょっ!ちょっと、全然当たんないじゃない!ちょこまかと、何なの!?」
イライラしているフレロビ。わたしから攻撃出来るのは『ガンビット』使用時のみ……つまり防御は魔法を使っていいってことだよね。
両手の中に水魔法「アクア」を溜める。ガンビットの鎖の先端をギリギリまで引きつけて、炎を放出する瞬間に両手で先端を掴んだ!
ブシュ〜!と炎を水で無力化した。ついでに、もう炎が出せないよう先端に「アクア」を留めておいた。薄い膜にしたから誰も気付かないと思う。
「――え!炎が出ない!どうなってるの!?」
テンパってるフレロビ。わたしは『ガンビット』が苦手なので、彼女をスピードで撹乱し身体を鎖で巻き巻きにした。
「――な!?何よこれ!外しなさい!」
「ふいぃ……一丁あがり〜!」
まぁ、全然デュオとして機能してないけど、ビスマス君の様子は……
「――え?」
入学試験第3位のセシウムと……互角!?
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