第16話 いざ、帝国士官学校へ!

十十十十十

 

 帝国士官学校……帝国軍の将校を養成する学校。


 帝国中から集まるエリートたちは、将校を目指すため勉強だけでなく戦闘に関することも一流でなければならない。


 そのため、入学試験では学科だけでなく実技試験も設けられている。


 しかし、貴族の中には寄付金などによる裏口入学が存在し、ウランはハイド・ローレンの財力で試験をパスすることが出来た。一方、ネオンであるイルミナ・ローレンは入学試験をトップの成績で合格した。


 厳選された合格者は100名。そして、この士官学校の最高権力者は三機将の一人……『無限のバークリウム』である。


 期限は一年……それまでにウランとネオンは『バークリウム』の懐に入り込むことが任務である。


十十十十十


 ヒソヒソと話し声が聞こえる教室。わたしは成り上がりの子爵令嬢『ガウラ・ウラジール』として入学している。


 ネオンちゃんは、凛として一点を見つめ、無表情で座っている。クールビューティーな彼女は入学時の成績順位1位。噂になっても仕方がない、なんせ歴代最高の成績での合格らしいのだ。


「可愛い」「カッコいい」「綺麗だ」と噂されている。ネオンちゃん……尊すぎる。

 

 わたしは、入学時の成績順位……無し。おカネのチカラで合格しているので「あれが?」「成金のヤツ」「不正入学らしい」などと違う意味で噂されている。どこから情報が漏れたのやら……。


 わたしたちは潜入していることもあり、主従関係を隠している。寂しいが、初めは距離を置くことにしている。


「イルミナ様、歴代最高成績での合格というのは本当ですか?」


「あのハイド・ローレン様に、これほど美しいご令嬢がいらしたなんて……感激です!」


「雰囲気も似ていらっしゃいますよね〜」


「ローレン家のパーティにぜひ招待してほしいですわ」


 なんだかネオンちゃんの周りに取り巻きのような女の子たちが集まっている。入学早々のポジション取りが始まったか……まずは将来有望で可愛く綺麗なネオンちゃんに白羽の矢が立ったか……。


 そして、わたしはぽつねんと取り残される。


{ウラン……前世での引きこもりが尾を引いてるのか?}


「失礼な!わたしは不登校だったけど、イジメられてたわけではないんだけど!」


 暇なのでヘッドホンを使用して隊長たちとお話しすることにする。


{裏口入学バレしてますからねぇ〜そりゃ、誰も近付かないでしょう}


「ダルさ〜ん、わたし普通入学すれば良かったぁ……そしたら、みんなとおしゃべり出来たのに〜」


{それじゃあ入学出来てませんって……なんせ学力は……でしょ?}


「はいはい、わたしはどうせバカですよ!うう……ミポリン……隊長とダルさんがイジメるよぉ〜」


{実技はともかく、学科はダルくんにやってもらえば良かったのにねぇ〜ウラっちはマジメだからねぇ〜}


「――は!思いつかなかった!えぇ……何それ、教えてよぉ〜」


{うふふ、定期試験で挽回すればいいのよ}


「――それいいね!授業中もAUTO モードにしておけば、ノートもダルさんが取ってくれるし、わたしぼぉ〜と出来るじゃん!」


{……ウランちゃん、勉強する気ゼロじゃないですか。まぁ、僕は勉強好きなんで嬉しいですけど}


「へへへ……適材適所だよね!」


{調子のいいヤツだ……}

{しょうがない子ねぇ〜}

 

 机に突っ伏していたが、俄然やる気が出て燃え上がっていると、みんなに囲まれたネオンちゃんが困ったようにわたしを見る。


 そっか……ネオンちゃんにとってこういう環境は初めてだもんね。わたしは前世で慣れてるけど、彼女にとっては未知の領域。ここは、学校という環境の先輩としてわたしが一肌脱ごうかね!


{引きこもりマスターが役に立つとは思えんが……}


 う……それを言われると……。隊長がそんなことを言うが、ネオンちゃんが困ってるし!


「ねぇ、イルミナさんが困ってるからそれくらいにしてあげたら?」


 わたしは、その場で立ち上がり声を上げる。一瞬、静まり返る教室内。だが、今後カースト上位になるであろう、ちょっと怖い女の子たちがジロリと睨む。


「……はぁ?アンタ、裏口入学したくせに、生意気なこと言うのね!どうせ、イルミナ様とお近付きになろうとでも考えてるんでしょ!」


「あの子、ウラジール家ね。成金の考えることはやっぱり汚いわ」


「頭悪そう」「まだ子供じゃない?幼児みたいな体型だし」「あの身体つきじゃ、財力あっても婚約者なんていないんじゃない?」「ふふ、言えてる」


 ――えぇ!怖い怖い!こんなにアウェーになるの!?ネオンちゃんを取り囲む女の子たちからのヘイトがヤバい!


 すると、ネオンちゃんから殺気のような禍々しいオーラが放出されている!


 ――!ネオンちゃん、わぁ〜ストップ!ストップ!マズいよ!全員を殺しかねないほどの圧がビリビリと空気をひりつかせる。


 ――が、その空気を打ち払うかのように爽やかな声が響き渡る。


「そういう、人をおとしめるような発言は良くないと思うよ!」


 少しタレ目がちな優しい目、薄い青髪のサラサラしたマッシュヘア、おそらくクラスで1番のイケメンであろう男の子がわたしを庇うように立つ。


 はたして、この人は善意でこういう行動を取るのか……ついつい疑ってしまうのは、あまりこういう事をされたことがないからだ。


 ニコリと愛嬌のある顔立ちでわたしを見る。「大丈夫?」と肩に触れる手は温かく、すごくいい人なんだと感じた。


「ねぇねぇ、あの人って……」

「うん、きっとそうだよ!」

「『セシウム・ロンド』様……三機将『灼熱のクリプト』様のご子息よ!」

「入学試験では第3位らしいわよ!」 

「カッコいい!」

 

「でも、どうしてあんな女を庇うわけ!?」

「きっと、誰にでも優しいのよ!素敵ね!」

 

「……でも気に食わない」

「そうね、許せないわ」


 なんか……後半怖いことを言ってる人もいるけど、この男の子……『灼熱のクリプト』の子供なんだ。へぇ〜あの嫌味なヤツにこんな誠実そうな息子がいたんだ……。


『灼熱のクリプト』といえば【幻想のオド】ではフェルミたちっていうより、ヒロインの『アメリ』に執着してたロリコン野郎じゃん。キスイベントの時に危うくアメリの唇を奪われそうになったんだよね。オジさんのくせに!


 あのオジさんは、めっちゃ強い敵だったのを覚えてる。じゃあ、この「セシウム」っていう子にもあの強力なチカラが受け継がれてるのかなぁ……。


「はじめまして、僕はセシウム。君は?」


「わ、わたしはガウラ……ガウラ・ウラジールです」


「そっか……実は僕、君に興味があるんだ!放課後に時間取れないかな?」


「――な!?」


「「「――!」!」!」


 ざわつく教室内、それもそのはず……こんな裏口入学疑惑のかかった成金貧乳娘を誘ってるんだ。こ……この男……親から受け継いだのはロリコン属性だったかぁ!

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