第15話 お手数をおかけします
ハイドさんが、わたしに会いに来た用件はこうだった。『俺の助手として、暗躍してくれないか』
つまり、【幻想のオド】で帝国のスパイとして暗躍していたガウラ・ウラジールではなく、『ハイド・ローレン個人のスパイ』として動いて欲しい……ということらしい。
「ねぇ、みんなどう思う?」
{そうねぇ〜。ハイド・ローレンは狂気に堕ちなかった……つまり、今はただの「天才科学者」。ネオンちゃんを……イルミナちゃんを救ったウラっちは、いったい何を暗躍するのか知りたいってことぉ〜?}
ミポリンがドレッサーでお化粧をしながら、わたしの疑問を代弁してくれる。
{ハイド・ローレンは今後、ネオンさんの『ウタカタの呪い』を解呪することに全力になるでしょう。つまり『フェルミ・エーデル』の監視でいいんじゃないかなぁ。原作通りとはいかないかもしれないけど、そんなにズレはないかもしれません}
「ほぉ〜ん……ふ〜ん」
ダルさんは相変わらず冷静な分析を言ってくれているが、原作の内容をうろ覚えなわたしは、ほとんど分からない。でも怒られそうだし……分かったフリでもしておこう。
{そうだな……原作とは目的が変わってしまったが、すでに【フェルミ計画】は動いているはずだ。直属の上司が、三機将『無限のバークリウム』からハイド・ローレンに変わっただけだからな}
隊長の言葉を聞いても……
「ほぉ〜ん……ふ〜ん」
ふむふむ……なるほど、なるほど。【フェルミ計画】出ましたね。わたしが一番理解出来なかったやつですね。
{ウラっち、まったく理解してなさそうよ}
{でしょうね……}
{まぁ、コイツの場合は実際に体験しないとダメだな。口で説明してもボケっとしてる}
「いやぁ〜お手数をおかけします……テヘヘ」
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そんなこんなでヘッドホン会議も終わり、そろそろ出掛ける時間だ。ネオンちゃんが可愛いらしい水色のワンピースを着ているのがとても新鮮だ。あぁ、尊い……でもこれはわたしの指示で着てもらっている。
ハイドさんに可愛い娘を見てもらいたいというお節介だ。きっと、喜んでくれると思う。
「ガウラ様、それでは参りましょうか」
「うん!ネオンちゃん、ワンピースすごく似合ってるよ!」
「そ、そうでしょうか……少し丈が短いようにも思えますが……」
――うぐっ!ネオンちゃんが照れてる……可愛い過ぎる。普段、モンスターをバサバサ斬り殺して、恐ろしいくらいなのに、このギャップ……ハマりそう。
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ハイドさんの研究室は帝国『アリウム』の市街地から少し離れたところに位置する。家はもちろん豪邸で地下に研究室を設けているのだ。
使用人は一人もいない。全てメイドロボットがやってくれている。オタクなわたしにとっては夢のような家だ。
監視カメラが設置されているのか、門は勝手に開くわ、U-2みたいなロボットが誘導してくれるわで、ここだけ近未来化している。さすが機械の国『アリウム』の天才科学者だなぁ。
『研究室まで降りてこい』
家に入ると、どこからともなくハイドさんの声が聞こえる。
メイドロボットの案内で地下の研究室に入ると、少し見慣れた景色だ。『虚スウ』のあともここに連れて来られたからね、裸で!くっ!
「来たか、その辺に座っていてく――!イル……」
ふふ〜ん、動揺してる動揺してる。ネオンちゃん可愛いバージョンは、研究室に引きこもりのハイドさんには刺激が強すぎたかな〜?
「ローレン様、どうかされましたか?」
「ネ、ネオンだったか……そ、その格好は……」
「――はっ!このような格好で失礼しました。やはり、もう少し控えめなほうがよろしかったですね。申し訳ございません」
「い、いや……いいんだ。よ、よく似合ってる……」
照れくさそうにネオンちゃんと目を合わそうとしないハイドさん……ププ……いやぁ……わたし、いい事したなぁ。
「おい!貧乳娘、ニヤニヤするな!気持ち悪い」
「――きもっ!……そっちの方が気持ち悪くないですか!?ネオンちゃんを見て、顔なんか真っ赤にして!」
「ハァ!?俺がいつ赤くなってる!?」
「今ですよ!今!ネオンちゃんが可愛いから照れてるんでしょ!?はぁ〜33歳にもなって15歳のネオンちゃんに照れるって……キモいですよ!」
「貴様……何をわけの分からんことを言ってるんだ!ネオンにこんなフリフリを着せてきたのはお前だろうが!」
「えぇぇ……嬉しいくせにぃ〜」
「キ・サ・マ〜!」
……とハイドさんと口論をしていると、ネオンちゃんが後ろからわたしを抱きしめる。庇うようにバックハグされると、ちょうど頭の上に柔らかいものが乗っかる。わたしは、小柄だからスタイルのいいネオンちゃんの豊満な胸がその位置に来るのだ。
「ローレン様。いくらあなた様でも、ガウラ様を愚弄することはお辞めください」
「――ぐっ……!」
「ニヤリ!」
「――くっ!コイツ……ま、まぁ、とりあえず、ここに来たということは、例の件……引き受けるということだな」
気を取り直したようで、ハイドさんはいつものクールな雰囲気でそう言う。
「お父様とネオンちゃんには何も言ってないですけど、引き受けるつもりです」
「そうか……ダリア・ウラジールには俺から上手いこと言っておく。では……今から言う事はこの三人の胸の内に秘めておいてくれ」
「ゴクリ……」
「……承知しました」
「お前たち二人には『帝国士官学校』に通ってもらう」
「ふむふむ……士官学校ね……なるほど、なるほど、学校に通えってことでいいんですね……は?……はぁ!?学校〜!?」
「『帝国士官学校』というと、エリートが通う学校ですね。もちろんほとんどが帝国貴族の方が多い……ガウラ様はまだしも、私は……ウラジール家の使用人ですから……」
「問題ない……お前には『イルミナ・ローレン』という名で、私の養子として通ってもらう。つまり公爵令嬢だ」
「「――!」!」
ハイドさん……そっか……それでネオンちゃんも呼んだんだね。あぁ、なんか健気だわぁ……ってそれより前世で引きこもっていたのに学校に通えって……わたし、ちゃんと出来るかなぁ。
「イルミナ……ローレン。よろしいのですか?ローレン様のような高貴なお名前を使わせてもらって」
「ああ、能力も充分にあるしな……それよりも問題なのは貧乳娘のほうだ。お前……勉強は大丈夫か?戦闘力は凄まじいが……」
「フッフッフッ!……ネオンちゃん言ってあげて!」
「残念ながら、並以下です」
「――!やはりそうか……こうなったら裏口入学だな」
「お手数をおかけします……」
ハイドさんから言い渡された任務は、『帝国士官学校に入学すること』と『三機将である無限のバークリウムに気に入られること』……この二つだ。
バークリウムは筋肉ムキムキのオジさんで、【幻想のオド】ではガウラ・ウラジールの直属の上司。フェルミたちの動向を逐一報告していた相手だ。そして、ストーリー上ではわたしを殺すヤツなのだ。
つまり、今回わたしはバークリウムへのスパイとして送り込まれる。期限は1年。
どうしてハイドさんがバークリウムを監視してるかは、おいおい説明してくれるらしい。とにかく、気に入られて懐に潜り込めということだ。まぁ、難しい話は一気に言われても困るので助かる。
ネオンちゃんもいるし、なんとかなるでしょ!
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