第06話 一騎当千
ゴブリンと戦ってからというもの、一向に他のモンスターと遭遇しない。調査隊のみんなも様子がおかしいと言っている……。
何か不気味な雰囲気が辺りを包み込む……そんな悪寒を感じながら、ダンジョンの5層へと進んだ。
ネオンちゃんに話しかけても「ああ」とか「ええ」しか返事を返してくれない。気のない返事に落ち込みつつもステータス画面の数字でモチベを上げる。
RPG ってやっぱステータスだよねぇ。個人的には物理攻撃を上げたいけど、やっぱ『ウラウラ』ってサポートが向いてるのかなぁ……そもそも、わたしってか弱い女の子なのに接近戦って合ってないんだよね。
カリキタ隊長が近接に慣れろって言うから接近戦で戦ったけど……魔力が高いんだから遠距離で雷光Lv1を当てたほうが早くない?
武器も装備してないから近距離の「ゼロ距離雷光Lv1」しか無いのに……武器……武器かぁ……カリキタ隊長は武器は重いからお前には振れないって言うんだよねぇ。
――ん?そっかぁ……あっ!雷光Lv1を武器にしたら良くない!?
例えばこうやって、雷光Lv1を手の中で留めておくでしょ……う……この時点で……けっこうキツイ……暴発しないように、みんなからちょっと離れていよう。
スキルは放つことで
やっばっ!わたしって天才?……へへへ……って調子に乗らんどこ。
そして、この雷光Lv1を放つんじゃなくて……留めながら伸ばしてぇぇ……うう……難っ!……くぅ……あっ!
ドゴンッ!と解き放たれた雷光Lv1はダンジョンの天井を抉った!
「「「――どわぁ!」!」!」
みんなの頭上に落石を落として大惨事!こっぴどく怒られたが落ち込んでる場合じゃない!ネオンちゃんの冷たい視線を浴びながら、やれることをやる!と肩身の狭いわたしは、めげずに頑張る。
まずは留めることだけに慣れよう!雷光Lv1を手の中に留めたままダンジョンを進む。誰にも気付かれないように……手の中に丸い球状をイメージして……ついでにもう片方の手も慣れたほうがいいね。
両手に留めるように……う……けっこう難しい……これ無理かも……いや、無理じゃない!諦めたらそこで試合終了だって安西先生が言ってたし!
7層……まったくモンスターの気配が無い。
10層……ここからは調査隊も初めてらしい。ダンジョンの調査隊の仕事は地図作りがメインで行われる。ダンジョンマップ作成は命を繋ぐ重要な仕事だ。
モンスターの強さなども細かく記していき、常に最新のものを更新しないと危険なのだ。ネオンちゃんが言ってた。ダンジョンには謎が多い、急に出来た横穴からモンスターが飛び出して……!
「「「――なに!」!」!」
ギャギャギャッと退路を埋め尽くすゴブリンの群れがわたしたちを取り囲む!
「罠か!?」
アルゴ調査隊長が声をあげる!
「ケッ!たかがゴブリンだろ?蹴散らしてやる!」
モリブデン調査副隊長が踏み出そうとすると……。
「待て!様子がおかしい」
ネオンちゃんは、みんなが孤立しないように円陣を組めと指示を出す!
数百にも上るゴブリンたちは、間合いを詰めようとせずにその場で地団駄を踏み出した!
地響きは徐々に大きくなり地面が隆起する!
「――これは!?……まずい!」
アルゴ調査隊長がそう言った瞬間……地面が割れ、吸い込まれるように下へと落ちていく15名の調査隊!
「ネオンちゃ〜ん!」
「――ガウラ様〜!」
ギャギャギャッとゴブリンたちの笑い声を聞いているのはわたしだけ……わたしだけが落ちなかった。
なぜなら、落ちる瞬間にびっくりしたわたしは、両手の雷光Lv1を解き放ってしまったのだ。
その反動で穴に落ちずに取り残された……。
ヨダレを垂らしたゴブリンたちが不思議そうにこっちを見る。これは……あれですね……いっそ一緒に落ちたほうが生存確率は高そうですね……。
今からでも遅くないので飛び降りようかなぁ……とゴブリンたちのほうを見ると、逃さんぞ的な顔でジリジリと近付いてくる。
えっと……さっきわたしは一体のゴブリンで死にかけたんだけど……これって……何体?
フロアを埋め尽くすほどのゴブリンたち……。
「ヘッドホン!みんな〜さすがに助けて〜!」
{ふむ……いい練習相手だな、ウラン}
{ざっと800以上はいるねぇ、もっと増えるかも!しかもレベルは30前後がほとんど}
{ウラっち!右の横穴で迎え撃つのよ!あの広さの横穴からなら同時に来られてもせいぜい3体……まずはあそこを目指すために、雷光Lv1で消し飛ばしなさい!}
おぉ〜!ミポリン総督の戦術だぁ!
{ウラっち!消し飛ばしたらすぐに雷光Lv1を逆側に放って反動を利用するの!今のあなたではただ走ってちゃあ袋叩きよ!雷のチカラで一瞬で移動するの!分かった!?}
「うん!やってみる!……ダブル雷光Lv1〜!」
{{{ダブル〜!?}}}
稲光がバチバチと両手に迸る!放たれた稲妻は光となりレーザービームのようにゴブリンを消し飛ばす!
{{{……}}}
数十体が消し飛んで、怯んだゴブリンたちの隙をついて逆側にも放つ!一気に横穴へと移動することに成功!ドクンと身体からチカラが湧き出す。
おそらく、レベルアップしているが、確認している暇はない。横穴へとなだれ込んでくるゴブリンたちに雷光Lv1を放つ!
ギュインッ!と威力を増した稲妻が無数のゴブリンを消し飛ばす!直撃していないゴブリンたちにも放電していく!
『雷光Lv2』……「放電能力」追加。同じ種族に対して効果大。
ドクンッとチカラが湧き出す。
「雷光Lv2!?もう!?でもこれなら一気に……」
{ウラン!実戦練習だ!お前がさっきからやろうとしていたことをやってみろ!}
「カリキタ隊長!それって……」
グレイカラーのチンチラがサングラスをキラリと光らせて、ニヤリと微笑む。
{ああ……近接だ。今のお前のレベルならそうは死なない!こんな実戦、滅多にないぞ!}
「えぇぇ!だって、まだ何百もいるんだよ!」
{死にそうになったら、AUTO モードにしろ。俺が処理する}
「鬼〜!」
{さあ、来るぞ!}
うう……鬼だこの人……ええと……雷光Lv2を手の中に留めるでしょ……ギュウッと伸ばすイメージで……
手の中の雷光が棒状に伸びていく!
お、お、おぉぉぉ!で、出来た!
「出来たよ、カリキタ隊長!」
{おい……ゴブリンが目の前にいるぞ……}
ギャギャギャッと飛び込んでくるゴブリンたち!
「いくよ〜!
※雷光セイバー……いわゆるライトセイバーだ。ウランの大好きな映画からイメージされた武器?もとは魔法系スキルなので、魔法攻撃力に依存する。
素人の太刀筋ながら、凄まじい剣閃!
「
※側撃雷……人体が樹木よりも電気を通しやすい性質を持っているために起こる現象。吸い付く能力。
「うわぁぁ〜振り回されるぅぅ〜!」
雷光セイバーがまるで意思を持っているかのように、ゴブリンたちを滅していく……わたしはただ握っているだけなのに〜!一振りしたら止まらなくなっちゃったぁ〜!
「わぁぁ!助けてぇ〜!」
{とんでもないな……助けて欲しいのはゴブリンたちだな……}
{こんなの【幻想のオド】には存在しないよ……スキルを変形させるなんて……}
{あらあら……武器は重いからスキルを武器化するなんて、発想力は天才だったのねぇ。しかも非力なウラっちにはうってつけの魔法攻撃力の依存……カリキタ隊長の出番は無さそうねぇ}
{ああ……今はただ……ウランの才能に震えてるよ}
{ですね}
{分かるぅ!}
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ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ……!チカラが漲る。レベルの上昇とともに徐々に雷光セイバーに慣れてくる。
うわぁ……グロいよぉ……猟奇的だよぉ……殺戮ってこういうことを言うんだろうね……。
雷光セイバーに意思があるわけでもないのに、吸い付くようにゴブリンを滅していく。わたしは小柄だから……いっそ逆らわないように身を預けると案外上手くいくみたい!
クルクルと回る身体はアクロバティックにゴブリンを翻弄する!
「みんな〜!見て見て〜!ジェダイみたいじゃなぁ〜い!」※ジェダイ……映画「スターウォーズ」でライトセイバーを用いて戦う銀河の守護者
{舞ってるわねぇ……カリ君とは正反対の戦い方}
{ああいう、感覚で戦うヤツは怖いな……}
{疼きますか?カリキタ隊長}
{フッ……いずれその時は来る}
{そうね……いずれ……}
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ハァ……ハァ……終わったぁ……やっと……膝からくずれ落ちるのは体力が消耗したからではなく、精神的なものだった……体力自体はレベルが上がるごとに回復していたから問題ではなく、人型のモンスターを斬り殺すことに対する精神的苦痛……。
亡骸が土に還ることがせめてもの救い……。
ドクンッドクンッと無い胸が騒ぐのでステータスを確認してみる。
★1016体一気討伐……称号『一騎当千』獲得
スキル『当千威圧』を覚えた
※『当千威圧』……敵のステータスを低下させる
★称号『ゴブリンスレイヤー』獲得
ゴブリンキラーが常時発動……ゴブリンに対して攻撃力が2割増加
★雷光Lv2……『放電』複数の敵に通電する全体攻撃。同種族に対して効果大
雷光Lv3……『
★固有インベントリLv3
ポケットと名のつく物ならどこからでもアイテムを取り出せる収納能力。積載量5トン程度。
通称、四次元ポ○ット
★固有スキル『雷光セイバー』……棒状に伸びた雷光、攻撃時に加速して生物を追うように攻撃する
★ヒール中……HPが最低200回復、精神が高ければ効果上昇 (消費MP20)
★アクア……水魔法 水のチカラで攻撃
(消費MP15)
アクテラ……水魔法 アクアの上位魔法
(消費MP30)
➖➖➖➖
ガウラ・ウラジール【
Lv 31
HP 753/753
MP 1031/1031
SP 25/25【10/10】
物理攻撃力 193
魔法攻撃力 716(+10)
物理防御力 145(+50)
魔法防御力 390(+100)
チカラ 193
魔力 706
体力 145
精神 111
運 89
・魔法 ヒール小(消費MP 増加)
ヒール中(消費MP増加)
・魔法 アクア
アクテラ
・スキル 雷光Lv1 雷光 Lv2 雷光Lv3
『ゼロ距離雷光』『放電』『渦雷』
・スキル『当千威圧』
⚫︎【スキル 『オーバードーズ』】未解放
・固有スキル 『固有インベントリ』 LV3
・固有スキル 『雷光セイバー』
⚫︎【固有スキル 『
⚪︎【ユニークスキル 『ヘッドホン』】解放済み
★称号『一騎当千』
★称号『ゴブリンスレイヤー』
※ () 内は装備補正
【】内は本人にしか視認出来ない
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「――レベル31だぁ〜!みんな見てぇ〜!」
{ふむ、一騎当千……素晴らしい称号だ}
{おぉ!『当千威圧』ってデバフじゃないですか!ウランちゃん、やりましたね!すごいレアですよ!}
{ウラっち、ナイスゥ〜!『ウラウラ』は最大レベル50だから『当千威圧』はすごく使えるスキルね!}
「でしょでしょ〜!褒めて褒めて〜!」
{ウランちゃん……とりあえず魔石を回収しておいたら!固有インベントリLv3なら1000個の魔石なんて余裕だよ}
「う、うん……でもネオンちゃんたちを助けに行かないと……下の階層まで落ちてるんじゃないかなぁ」
{ほっとけ!ウランをバカにしたヤツらだぞ。どうせ助からん}
カリキタ隊長は、ふんっ!と可愛いらしくそっぽを向く。
「――でも……ネオンちゃんは!?」
{もしかすると、ここで死ぬ運命なのかもよ……だから2年後の物語には登場していない……そうも考えられるわ}
「――そんな!」
{そうですよね……『ハーフデモニウム』なんて主人公の『フェルミ・エーデル』くらいですよ。ウランちゃんが彼女を助けたら歴史が変わってしまうかもしれません}
※ハーフデモニウム……人間と魔族の混血
「………………みんな!わたしは運命を変えようとしているの!ネオンちゃんが死んじゃったら、メリーバッドエンドだよ!」
{{{――!}}}
{……仕方がない。ウランが決めたのなら従うまでだ}
{そうね……アタシたちはあくまでサポート!}
{ウランちゃん……その代わり……魔石は回収して下さいよ!あって損はないですからね!}
「みんな……ありがとう!」
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