第05話 ダンジョン調査隊
「うぅぅ!ダンジョンってやっぱり寒いんだね〜」
「すぐに温まりますよ。モンスターの巣ですからね」
ダンジョン内、隣を歩くネオンちゃんに話しかける。先日の一戦以来、彼女のわたしを見る目は変わったように思える。
そりゃそうだろう……たかがLv1の令嬢が『ハーフデモニウム』であるネオンちゃんと渡り合ったのだ。一目置かれるのは当然……むしろ、尊敬すらされているんじゃないかとツラい。
辛辣だったネオンちゃんが少し優しくなってくれたのはカリキタ隊長のおかげだなぁ……あぁ、早く強くなりたい。
※ハーフデモニウム……人間と魔族の混血
ダンジョン調査隊に参加出来たのはネオンちゃんがお父様に口利きをしてくれたおかげだ。15名の調査隊+わたしで調査を進めている。
出来ればネオンちゃんと2人っきりが良かったんだけど、さすがにそれは無理だと言われた。
なぜ2人っきりがいいのか……それは経験値だ。16名というパーティではわたしにおこぼれが貰える可能性は低い。ほぼ介護状態で進んでいくダンジョン攻略でわたしのレベルは1のまま……これでは全然意味がない。
パーティとはいえゲームと違って他の人がモンスターを倒しても経験値は入らないみたい。
2年後までに目指すは「ウラウラ」の上限レベル50……最低、ここまで上げておかないと死を回避することは難しいと思う。
「はぁ……どうしてお嬢様のお守りなんてしながら、仕事をしないといけないんだ?」
そう愚痴をこぼすのは調査隊のモリブデンさん……この大柄で目つきの悪い男は、口も悪い。調査隊副隊長でありながら、わたしを目の敵にしているようだ。
「せめてネオンぐらいセクシーなら良かったんだがなぁ!ガハハハッ!」
「――うっ!」
「「「ハハハ!」!」!」
モリブデンさんの言葉に同調するように調査隊のみんなから笑いが起こる。
たしかに、わたしは貧乳……そして、ネオンちゃんは着痩せしてるけどセクシーな体型……大人になったら違うもん!なんて言えない。だって、大人になっても少年体型は変わらないから……。
「お前たち、そのくらいにしておけ。ダリア様のご息女で、ネオン氏のお連れだ。この調査隊に参加していることに何かしら意味があるのだろう」
「お、おう……」
ザワザワとざわついた調査隊を一言で鎮めたのはアルゴ隊長……冷静で寡黙な男性だ。短髪でたくましい身体つきがちょっとカッコいい。
「アルゴ隊長……。ねぇねぇ、ネオンちゃん。アルゴ隊長ってちょっとカッコいいよね!」
「……そうですか?私は自分より弱い人間に興味ありません」
「……あ……そう」
ネオンちゃんは、相変わらずの無表情で前を見据えている。今日はメイド服ではなく暗殺者みたいな格好だ……スターウォーズに出てくるシスの黒装束みたい……いいなぁ、わたしも着たいなぁ。
「ネオンちゃん……お願いがあるんだけど……今度、ネオンちゃんみたいな黒装束作ってほしい」
「ふふ……分かりました。準備しておきましょう」
――おほぉ〜!ネオンちゃんがちょっと笑った!可愛い……可愛いすぎる!あぁ、【グロッサム】ってサイコー!この世界に来れて良かったぁ〜。
※【グロッサム】……「幻想のオド」の世界
と、そんな時間が流れているのも束の間、目の前にゴブリンの群れが現れる。
モンスターを生で見た時はびっくりした。やはり、画面越しで見るのと等身大で見るのは違う。虫が巨大化したようなモンスターもいれば、ゴブリンのように人型のものもいる。
斬れば体液みたいなものも飛び散るし、はっきり言ってこれは慣れるしかない。死にたくなければやるしかないのだ。
6体のゴブリンはギャギャギャと奇声を発し向かってくる。ネオンちゃん、アルゴさん、モリブデンさんは応戦しない。高みの見物のように他の調査隊に任せている。
「ネオン氏、ガウラお嬢様は戦えるのですか?」
アルゴさんは、わたしを通り越してネオンちゃんに話しかける。
「調査隊の誰よりも強い……私はそう感じています」
「「「――!」」」
ちょぉ〜!っとネオンちゃん!?なんてことを言っちゃうんですかぁ〜!あたしゃ〜まだLv1の雑魚令嬢ですよぉ〜!
「ほぉ、このモリブデンより強いってかぁ?このヒョロガキがぁ?」
「驚きましたね。ネオン氏にここまで言わせる女の子……それほどの覇気も感じられません。ぜひ、その実力を見てみたいものです」
「み、みなさん!お、落ち着いてください!わたしはまだレベル1なんです!とてもじゃないですが、みなさんのように強くはありません!」
「当たり前だ!俺がお前みたいなクソガキより弱いなんてあり得るか!」
「――クソガキって!?……まぁ……たしかに、わたしはまだ13歳ですが……ちょっとひどくないですか?……さっきはヒョロガキって言ってたし……ぶつぶつ……」
「あぁん?貴族のお嬢だかなんだか知らねぇが、ダンジョンじゃあ強ぇもんが偉ぇんだよ!」
――ひぃ!顔近いし口臭い!モリブデンさんは見下ろすように顔を近付ける!
「貴様!ガウラ様に近付くな!汚らわしい!」
ネオンちゃんはわたしを庇うように立つ。うう……尊い……。
「そんなに信じられないなら、ガウラ様の実力をお見せしましょうか!」
うう……ありがとう……ネオンちゃん、わたしの味方はあなただけです……ん?……は?……実力を見せる?
「ちょ、ちょっと!ネオンちゃん!?みんなにお見せするほどでは……ないの……ですが……」
「おぉ!ぜひ、拝見したいものです」
「そんなに言うならあのゴブリンを殺ってみろ!」
アルゴ隊長とモリブデンさんが乗っかる。
「いいでしょう!ゴブリン程度、瞬殺でしょう」
――やめてぇ〜!ハードル上がりすぎぃ〜!
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ガウラ・ウラジール(
あわあわっ……対峙すると本当に気持ち悪い!だってヨダレ垂らして、アソ、アソ、アソコが……なんか盛り上がってるんですけどぉ〜!
ジリジリと近付いてくるゴブリン……こ、怖い……息遣い荒いし……な、なんで興奮してんの!?わ、わたしはヒョロガキでクソガキで13歳だよ!
{ふん、人間よりも好かれてるじゃないか}
{どうやらゴブリンは貧乳好きのようですね。これは興味深い}
{あらぁ〜ウラっち、獣に好かれるタイプなのかしらぁ〜}
みんな冗談言ってる場合じゃないって!カリキタ隊長〜またお願いしてもいいですかぁ〜!?
{ダメだ……いくら終盤ダンジョンのモンスターといえど、相手は弱体化しているゴブリンだ。ウランがやれ!経験を積むんだ}
えぇ〜!?無理無理無理無理無理!みんなが見てるし……わたしじゃ期待に応えれない。
{大丈夫だってぇウランちゃん!このゴブリンの攻撃力はたったの15だよ!一発食らっても死なないから}
いや、2発殴られたら死ぬじゃん!ダルビッシュ
{僕は相手の簡単なステータスが見えるんだよ。スキルとかは分かんないけど簡易的やつね!}
えぇ!何それ!見せて見せて!
{えぇ〜?}
{ダルちゃんそれくらいいいんじゃなぁい}
ミポリン総督〜!大好き〜!
{仕方ありませんねぇ}
➖➖➖➖➖➖
弱体化ゴブリン
Lv15
HP 75/100
MP ――
SP ――
物理攻撃力 70
魔法攻撃力 ――
物理防御力 35(+5)
魔法防御力 ー50
チカラ 70
魔力 ――
体力 50
精神 ――
運 ――
➖➖➖➖➖➖
ちょっと待って〜!ゴブリンの攻撃力70あるよ!わたしHP20だから即死する!
{ウラっちは物理防御力が55あるでしょ〜差し引き15なのよぉ〜}
そっか……なるほど……。
{ウランちゃん、ゴブリンは右回りの攻撃がほとんどだから、相手の右側には入らないようにね。相手の左側にステップしたりダックするんだ!}
え?え?え?な、何?ダックって?ステップは分かるけど……!
ギャギャギャッ!一気に距離を詰めて、右腕を振り抜くゴブリン!
「――痛っ!」
咄嗟に出した掌から血が吹き出す!鋭い爪で引き裂かれたがダメージは大したことない!
HP17/20……わたしが痛みに気を取られている隙に、目の前に現れたゴブリンの一撃が腹部に突き刺さる!
「――がはっ!」
HP 2/20……!やばい!
「――ヒール!」
と同時にもう一撃が腹部を襲う!回復がギリギリ間に合う!
「おりゃ〜!」と瀕死の状態から放った右フックがゴブリンの顔面にヒット!
「――!?」
ゴブリンはまったく効いていない様子でゲラゲラと笑い出す!……舐めている!?わたしの攻撃が弱すぎて、あと一撃で殺せるわたしを無視して高笑いしている。
良かったぁ……三撃目がきてたら死んでたから……でもこれで撃てる!
「ゼロ距離雷光Lv1〜!」
ドンッ!とゴブリンの上半身を吹き飛ばした!
ハァ……ハァ……か、勝った……自分のチカラで……ひぃ〜!ゴブリンがグロい〜!わたしがやったんだけど……と、あわあわしていると、土に還るように崩れ落ちていくゴブリンの亡骸……。
{よくやったな、ウラン!}
{初討伐、おめでとう!}
{うふふ、偉いわぁ〜ウラっち!}
みんなぁ〜!その瞬間ドクンッと身体がざわつく!チカラが漲る……これは?……これがレベルアップ!
➖➖➖➖➖➖
ガウラ・ウラジール【
Lv 5
HP 70/70
MP 150/150
SP 12/12【10/10】
物理攻撃力 25
魔法攻撃力 130(+10)
物理防御力 59(+50)
魔法防御力 115(+100)
チカラ 25
魔力 120
体力 9
精神 15
運 34
・魔法 ヒール小(消費MP増加)
・スキル 雷光 Lv1
『ゼロ距離雷光』
【スキル 「オーバードーズ」】未解放
・固有スキル 「固有インベントリ」 LV1
【固有スキル 「
【ユニークスキル 「ヘッドホン」】解放済み
※ () 内は装備補正
【】内は本人にしか視認出来ない
➖➖➖➖➖➖
レベル5!早っ!……って最初は上がるの早いよねぇ〜レベル15のゴブリン倒したし……へへ。あ……ステータスも回復してる!ふむふむ、レベルアップ後は全回復するんだね。
魔石も回収して……へへへ……これがエネルギーとして高く売れるんだね。
「ネオンちゃ〜ん!勝ったよぉ〜!」
「……」
――ネオンちゃん?……ネオンちゃんは俯き目も合わせてくれない。
「ネオン氏……あなたが何を思ってガウラ様に期待されたのか、分かりませんが……気を落とさぬことです。最後の攻撃は、まぁ光るものがありましたが……いえ、あなたほどの者でも見誤ることがあるのですね」
「……」
「ガハハハッ!凡人凡人!所詮はガキンチョだ!この程度のモンスターに苦戦とは……ガハハハッ!これではネオンの面子が丸潰れだなぁ!いやぁ、愉快愉快!まぁ、せいぜい頑張れ!小娘!」
「「「ハハハハッ」」」
調査隊の人たち全員がわたしの戦いを見て笑う……。
「……くっ!」
ネオンちゃんは悔しそうに俯く……。
「ネオンちゃん……わたし……」
「……どうして手を抜くのです!私を追い詰めたガウラ様はどこにいったのです!……それとも、今回は私に恥をかかせたかっただけですか!」
「ち、違っ!違うの、ネオンちゃん!……これが……これが、わたしなの……」
「黒装束の件……なかったことにして下さい」
――!ネオンちゃん……ごめんなさい。弱くてごめんなさい……。
{失望させてしまったか……}
{充分だと思うけどなぁ……ウランちゃんレベル1なんだよ?}
{認めさせるしかないでしょ?これから成長して……ねっ!ウラっち!}
う、うう……うん……でも……褒めて欲しかった……ネオンちゃんにもよくやったって……うう……いつか……いつか、みんなのチカラを借りなくても認めてもらえるように……強くなる!
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