第04話 ネオンちゃん

 わたしの妄言が正しいかどうかは、2年後にしか証明出来ない。だけど、それまでじっと待つことなんて出来ない!


「ガウラ様、ここはダリア様の稽古場です。今はあまり使われていませんので人目にはつきません」


 屋敷の地下には、だだっ広い空間が存在し、壁や床には血の跡などがこびりついている。お父様……ダリア・ウラジールがここでどんな訓練をしていたのか……壮絶さはなんとなく感じ取れる。


「こ、ここで……お父様は訓練を……」


「それももちろんですが、拷問などにも使われていたそうですよ」


「――ひぃ!ご……拷問……」


「……それで……私と戦ってどうしようというのですか?」


 ネオンちゃんが冷めた視線で見つめる。レベル1のゴミステータスでしかないわたしは、彼女にとって単なるお世話をするだけの存在でしかない。

 

「わ、わたしが勝ったら、ダンジョンに連れていって!」


 その瞬間、空気が張り詰める!

 

「――勝つ?私に……?ガウラ様が?舐められたものですね」


「――あ……でもハンデを……」


「ハンデ……?そうですね。では私は片腕でお相手を……」


「ううん、違うの。わたしは手を出さないからネオンちゃんは攻撃してきて!それで3分間逃げ切れたらわたしの勝ち!ダウンしちゃったらネオンちゃんの勝ち……どう?」


「ほぉ……ここで拷問しろということですね!」


 凄まじい闘気で空気がひりつく!


 ――ひぃ〜!なんか怒らせちゃった!?だらんと垂れ下がった両腕、俯いて見えない表情……「では!」と構え無しから一瞬で間合いを詰めるネオンちゃん!


 ちょっ!ちょっと待っ!


「ゴフッ!」……おえぇ……腹部に強烈な一撃が入る!


 ステータス表示……HPが……1/20!?


 ハァ……ハァ……死……死ぬ!?


「安心して下さい……この拷問部屋……HPが0にはなりません。そういう特殊な仕様になってますから」


 ご……拷問部屋って言い切ってんじゃん!訓練場じゃないの〜!?


「ヒール!あ〜んど『ヘッドホンAUTO モード』!」


 HP 20/20に回復!と同時にAUTOモード発動!


「――へっどほん……?」


 ネオンちゃんは聞き慣れない言葉に首をかしげる。カ、カリキタ隊長!お願いします!


{やれやれ……始めから使っておけばいいものを……いいパンチもらってんじゃねぇか。まったく……おそらく今の攻撃は、この場所じゃなければ即死だったな}


 い、いや……いつ始まるか分かんなかったから……ごめんなさい。


 唯一の回復魔法ヒールLv1を使用したことでステータス表示がHP 20/20、MP 45/50になっている。完全回復したがヒールLv1でMP5の消費……あと9回は回復できる。


 これなら3分間耐えることも……


{ウラン……そんな心配はいらんよ}


 ――え?


{たしかにネオンの戦闘力は凄まじいが……所詮は15歳程度、ステータスに頼りきった戦い方になるだろう。まぁ、ウランを舐めているというのもあるが……ふむ……どうするか……ウランらしくギリギリのところで勝利するように演出するか……それともネオンがどこまでの潜在能力を持っているのか引き出すか……}


 カ、カリキタ隊長……それって……。


「一撃程度では音を上げないようですね。それだけでも充分評価しましょう」


 ザッ!と地面を蹴る音とともに一瞬で間合いを詰めるネオンちゃん……わたしの顔面を捉える一撃が……!


 入らない!


「――なっ!?」


 紙一重でそれを躱し、最小限の動きで背後を取る!


 すぐさま後ろ回し蹴りを放つネオンちゃん!


 鼻先で躱すわたし……いや、カリキタ隊長!


「――これも!?」


 えぇぇ!カリキタ隊長凄すぎる!


{うるさいぞ、ウラン。黙って見ていろ……そして学べ!}


 は……はい……ごめんなさい。


{いいか、相手の動きを予測するんだ。身体の位置、体勢、戦闘スタイル……くると分かっているものを躱すことは簡単だ。そして……}


 繰り出される凄まじい攻撃は空を切り、次第に……


「これは!?」


 ネオンちゃんとわたしは驚愕した!攻撃を繰り出していた彼女のほうが……いつの間にかコーナーに追い詰められていたのだ!


{ウラン、これがフィジカルコントロールだ。極めれば体捌きだけで相手を追い詰める事が出来る}


 カリキタ隊長、カッコいい〜!キャ〜最強!


{ふん、まぁな}


「くっ……ガ、ガウラ様……あなたは、いったい……」


「ネオンちゃん!わたしの勝ちってことでいいんだよね!」


 AUTOモード中にわたしの意識はある。もちろん、会話をすることも可能だ。ただ、自分の意思で動くことは出来ない。意識はあるのに身体は動かせないことに気持ち悪さはあるけど、今はまだ解除するわけにはいかない。


 ネオンちゃんの額に汗が流れる……真っ直ぐに見つめる瞳はわたしを見ていない。


 わたしの中にいるカリキタ隊長……彼女はそこに恐怖を感じているのだと、一番近くで観戦しているわたしには分かる。


「くっ……負けるわけにはいきません!」


 そう言うと、ネオンちゃんの身体から禍々しいオーラが溢れ出る!


「――ネオンちゃん!?その姿……」


「もう手加減は出来ませんよ!……少々痛いですが、この場で死ぬことはありませんので!」


 その瞬間、目の前からネオンちゃんの姿は消える!


 頭上を確認すると、天井に張り付いているネオンちゃんの瞳孔は赤く、手足が……!


{{{これは!}}}


「トランスモード!?」


 魔獣のように鋭い爪と一回り以上大きく変形した手足……これは、主人公『フェルミ・エーデル』と同じ能力!つまり、ネオンちゃんは魔族の血を引いている!

 

 ダルビッシュ無さん!これって……

 

{うん、ステータスが2倍に膨れ上がる!でも、バーサク状態だから、身体能力が飛躍的に上昇する代わりに判断力が低下するよ!}


{こりゃあ、さすがにステータスに差がありすぎるねぇ〜}


 ミポリン総督……どうすれば!?


{うん、カリキタ隊長に任せよう!}


 そ、そうだね……。


{ふむ……遊んでる場合じゃないな……ウラン、ちょっと痛いからな!}


 ――え!?


 縦横無尽に飛び交うネオンちゃんの動きはまさに魔獣……予測不能な動きが、その間隔とスピードのギアを上げ迫ってくる!


{次の攻撃……あえて躱さずに俺が受け止める。その瞬間にAUTO モードを解除して「雷光Lv1」をゼロ距離で打ち抜け!お膳立てはしてやる。スキルはAUTO では使えないからな……お前がやるんだ!}


 えぇ!大丈夫かなぁ……。


{大丈夫!お前ならやれる!}


 ネオンちゃんの動きが視認出来ないほどのスピードで舞う!風切り音が近付く瞬間!


 ガスッと左手で攻撃を受け止めて血飛沫が飛び散る!受け止めた左手は衝撃により引き裂かれるが、そのまま懐に入り、トンッと右拳をネオンちゃんの腹部に当てている……。


{今だ!いけぇ〜ウラン!}


「う、うりぁぁ!……AUTO モード解除!ゼロ距離雷光ぉぉぉ〜!」


 ズドンッと稲妻がネオンちゃんの腹部を貫く!


「――ガフッ!……」


 ハァ……ハァ……HP ……1/20って……本当なら打つ前に死んでんじゃん……。


「……お見事です」


「――あ……わたし……手を出しちゃった……3分間耐えるって言ったのに……」


「ふふ……私の完敗です。素晴らしい戦闘技術でした」

 

 ネオンちゃんが笑った……その笑顔を見て安心したのか意識が途切れ……


           |

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 目が覚めると自分の部屋……。


 もちろん、橘花きつか宇蘭うらんの部屋ではなくガウラ・ウラジールの部屋だった。

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