第22話 不定期連絡
『こちら豊山! 南口ゲート異常ありません!』
『こちら
『こちら
「こちら梶原。青春の輝きがあまりにも強すぎて干からびそ~。誰か~、差し入れに焼酎持って来て~」
豊山と、同じく恵の後輩の女性刑事――中野
昼食を食べてからも、信吾と莉花は普通に遊園地デートを満喫していた。
その様子を、信吾に助言しながら六時間以上見させられたことで、恵の心は荒野のように干からびてしまっていた。
アラサー彼氏なしの自分にとって、高校生のデートをまざまざと見せつけられるのはちょっとした拷問に等しいことを、今さらながら思い知らされた格好だった。
そんな恵の心中を察したのか、話題を変えるようにして豊山が訊ねてくる。
『け、結局のところ、假屋は〈夜刀〉の残党ではなかったということで、いいんでしょうか? 事前の調査でも、假屋と〈夜刀〉の繋がりは見当たらなかったわけですし』
その問いに対し、恵は打って変わった真剣な物言いで返す。
「結論を下すのはまだ早いわ。仮に莉花ちゃんが本当に〈夜刀〉だった場合、ちょっと調べた程度で尻尾を見せるほど甘い相手じゃないもの。そもそも今回の件にしたって、何事もなく終わったとしても、それだけで莉花ちゃんが
『た、担任云々は関係ありませんが、肝に銘じておきます』
『なんて言ってるけど大丈夫ぅ? 豊くんってば、意外と情に流されるタイプだしぃ』
『うるさいぞ中野』
と言っているわりには豊山の声に力はなく、察した中野はケラケラと笑った。
そんな空気を無視して、岩淵が淡々と恵に言う。
『ふざけたことを言っていても、締めるところはきっちりと締めるのは相変わらずだな』
「ま~ね。信吾くんの気持ちを考えると、個人的には莉花ちゃんのことは信じてあげたいんだけど、私情で目を曇らせるのは刑事として一番やっちゃいけないことだからね」
『それを聞いて安心したぞ。一線を
「…………」
『なぜそこで黙る』
「いや~、真っ昼間からお酒呑むの、やめられなくってさ~」
『違う意味で腑抜けていたか』
「たはは……」
と笑って誤魔化してから、補足するように言う。
「それに、情には流されないように気をつけてるってだけで、情を捨てたわけじゃないわ。そういった意味じゃ、岩淵くんの言うとおり腑抜けちゃってるかもしれないわよ~?」
『どうせ腑抜けるなら、そのふざけた性根だけにしておけ。かえってまともになるかもしれんからな』
などと軽口を叩き合ったところで不定期連絡を終了し、恵は無線を切る。
本来ならば、園外に張り込ませている豊山たちとは三〇分おきに定期的に連絡を交わしておきたいところだが、そこまで頻繁に信吾との無線を切ったり、その行為に法則性を持たせたりすると、彼に勘づかれてしまう恐れが出てくる。
それゆえの不定期連絡だが、正直、ここまでしてなお信吾に勘づかれていない自信は恵にはなかった。
不定期連絡のため信吾との無線を切ったのは、これで四度目になる。
常時無線を繋ぎっぱなしにしていたらスマホのバッテリーが持たない上に、恵としても腹拵えやトイレ休憩もしたいので、実際はその三倍は無線を切っているため、普通ならばまず悟られることはない。
だが相手は、裏社会で名を馳せた〈夜刀〉屈指の実力者。
用心棒として培った勘と経験から、こちらが秘密裏に動いていることくらいは、もうすでに勘づいていてもおかしくない。
信吾にデートを楽しんでもらいたい恵としては、彼に勘づかれないようにするために不定期連絡すらやりたくないくらいだが、本当に〈夜刀〉の残党が動きを見せて、それによって園外の三人が異常を報せる
そうとわかっていてなお、いまだ四回しか不定期連絡を
それこそまさしく私情だということはわかっているが、これまで普通に生きることを許されなかった
だから恵は、
(今まで尻尾なんてろくすっぽ見せなかったくせに、こういう時だけ見せるなんて真似はしないでよ~)
莉花への疑いが杞憂であることを、今日だけは〈夜刀〉の残党が何の動きも見せないことを、ただただ祈った。
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