異世界剣聖記

深村美奈緒

~プロローグ~『剣聖への道のり』

 読者の皆さまこんにちは。


 初めにこの書籍を手に取って頂きありがとうございます。


 これは私が異世界へ転生して、『剣聖への道のり』を書き綴った物語になります。


 それでは、私が異世界で『剣聖』になるまでの冒険譚を綴っていきます……。



20XX年・11月―――白崎しらさき高校―――剣道部・県大会


 山口県岩国市の市総合体育館で秋の高校生剣道部試合が開催されていた。


 白崎高校1年生の私、天満桃華あまみとうかは、秋の県大会に選手として出場していた。

 団体戦でも剣道の実力を発揮し、団体戦で2年、3年生のレギュラーを退け、団体戦の1年生ながら”先鋒”の座に選抜されたいた。

 土、日、月を使って開催された3日間の県大会団体戦の結果は、山口県47校参加して19位で中の上と言った成績で終わった。

 うちは個人戦で、45校中12位の成績を残し今大会が終わった。

 秋大会が終わった私は同じ部活の同級生達と帰路に就く。


 「惜しかったね~。あそこで小手判定が入ってれば桃華の勝ちじゃったのに」

 そう言って同級生が自分の事のように悔しがる。


 「そうじゃね。でも、相手が強かったよ。まだまだうちの練習不足じゃね」

 うちの代わりに悔しがってくれている同級生に私はそう答える。


 「でも、桃華はすごいよね。秋大会って40校くらい参加しちょったんだっけ?そんな中1年生で個人戦12位ってすごいよね~」

 もう1人の同級生がうちの戦績を称賛してくれる。


 「ありがと。うちの高校は柔道部の酒井さかい先輩が有名じゃから、柔道部に負けずに剣道部も有名にしていきたいね」

 うちは白崎高校柔道部に所属している酒井勘九郎さかいかんくろうに、畑は違えど負けたくないと成績を残したいと思っていた。


 「酒井先輩も初めはそんなに成績残しちょった人じゃないし……」

 と、フォローとも思える一言を言う。


 「そうじゃね。でも、優秀なのは柔道部だけじゃないって思ってもらいたいから、うちは頑張る!」

 白崎高校に入る前から勘九郎の噂は聞いていた。

 それに敵対心を抱いてではないが、柔道部で勘九郎が名声を上げていくのなら、うちはうちにできる武術で勘九郎に追いつき追い越そうと、白崎高校剣道部の名声を轟かせたかった。


 「うんうん。桃ならできるよ!」

 と、同級生から期待とも思える言葉を貰う。

 色々と話しながら帰路での信号待ちをしていると、反対の歩道でキョロキョロとしている小学生くらいの少女が目に付く。

 信号機が『青』に変わると、反対の歩道に居た少女が手を上げてこちらへ渡ってくる。


 (あれ、あのトラック減速しちょ……らん?)

 信号が赤になっているのにも関わらず、減速する様子の見えないトラックの運転席に目を向けると居眠りをしている様に見えた。

 トラックは勢いを落とさずそのまま少女が渡っている横断歩道に向かって行く。

 

 「危ないっ!渡っちゃダメ!」

 うちは荷物を投げ出し、叫びながら少女が渡っている横断歩道に全速力で駆けていく。

 その叫び声に同級生達も異常に気付く。

 少女も私の叫び声に突っ込んでくるトラックに気付き、今自分の置かれている状況を把握し、横断歩道の途中で委縮してその場で固まってしまい足を止めてしまう。

 うちが横断歩道に入ると、急に辺りの時間がゆっくり流れて、スローモーションの様な感覚になる。


 (速く……。もっと速く!)

 そう思いながらうちは必死に足を動かす。

 時間の流れが遅くなった世界で、少女の元までたどり着いたうちは、向かってくるトラックの方に視線を向ける。

 トラックはもううちと少女の目前まで迫っていて、少女を抱えて避けるのが無理と判断したうちは少女を突き飛ばす。

 少女を突き飛ばし安心した次の瞬間、身体に強い衝撃が走り身体が宙に浮く。

 宙に浮いている間、頭の中にこれまでのうちの人生がコマ送りで流れる。

 

 (あぁ……、これが走馬灯ってやつか……)

 そんなことを薄れゆく意識の中で思っていると、身体が堅いアスファルトに叩きつけられる。

 

 痛い……。


 痛い……のかな……?


 身体が動かないから分からない……。

 

 『あんた!大丈夫?』

 『桃華!桃華!!しっかりして!』

 『早く救急車呼んで!』


 薄れゆくうちの耳に、少女の泣き声と同級生達の逼迫した声が遠くに聞こえる。

 途切れそうな意識の中、うちは突き飛ばしてしまった少女に視線を向け、少女が無時だったことに安堵してそのまま意識が消えていき、救急車のサイレンが聞こえてきてうちの意識は途切れる。



 「先生!あの子は!?」

 母が私の術後、うちの容態を執刀医に尋ねる。

 

 「……」

 うちを執刀した執刀医は申し訳なさそうな表情を浮かべる。


 「全力は尽くしたのですが……。お嬢さんの身体は損傷が激しく。もし、意識が戻ったとしても……」

 そう言って医師が言葉を濁す。

 "もし"目覚めたとしても満足に身体が動かせない植物状態になるかも知れないと、医師が説明を続け両親はその説明を聞いて絶望したような表情を浮かべる。

 それを聞いた母は、その場に泣き崩れ自分も涙を流していたが父は悲しみを押し殺しながらも母を支える。

 

⚔⚔

 

 居眠り運転でうちを跳ね飛ばした運転手は、過失運転致死傷罪で7年の懲役が下ったが、母さんも父さんも悔しそうな表情をしていた。

 

 ごめんなさい……。


 お父さん、お母さん……。


 親孝行できずにごめんなさい……。


 ただ、うちは自分の行動に後悔はしていない。

 

 あの子を救えたのならうちは満足だ。


 そう現世への想いを残しながらうちの意識は白んでいった……。


⚔⚔⚔


 (あれ……)

 うちは目は開くのだが、言葉を発する事が出来ない。

 どうにかしようと身動ぎするが、身体も思うように動かない。

 

 「う、う、うえぇぇぇん……。うえぇぇぇん!」

 必死に声を出そうとするが上手く言葉を発する事が出来ず、うちは泣き声をあげてしまう。


 「あらあら。どうしたの?」

 そう言いながら1人の女性がうちに歩み寄ってきて、うちを抱き上げる。


 「よしよし。ティファ大丈夫よ~。どうしたのかな~?」

 と、泣き喚いているうちを女性が宥めようとする。


 (ティファ?今ティファって言った?)

 私はイマイチ状況が読み取れない。


 (ティファって私の事?)

 泣き喚く私をあやす女性に視線を向ける。

 

 (だ、誰……?)

 見覚えのない女性にうちは困惑してしまう。


 「ほらほら、お母さんですよ~」

 そう言って”母”と名乗る女性が笑顔を向けてくる。


 (ん?え?え?どういうことおぉぉぉぉぉぉ!)

 未だに理解が追い付かないうちは、この”異世界”でティファニア・アッシュフィールドとして新たな人生を歩んでいくことになる。


⚔⚔⚔⚔


 15年後―――


 皇歴おうれき521年―――春。

 

 「こんにちは~!」

 元気な挨拶でうちの幼馴染、ミリア・スウィニーが尋ねてくる。


 「あら、ミリィちゃん、こんにちは」

 訪ねてきたミリィに、母のハンナ・アッシュフィールドが対応する。


 「ハンナおばさんこんにちは!ティファ居ますか?」

 挨拶をしつつミリィがうちの居場所を聞いてくる。


 「ティファなら裏庭に居なかったかしら?」

 ミリィの問いにハンナはそう答える。


 「”いつも”の素振りですか?」

 そのミリィの質問にハンナは「そうだと思うわ」と答える。


 「ん~、ちょっと見にいってみます」

 ミリィはそう言い残して裏庭の方へと向かう。


 「フッ!フッ!フッ!……」

 一定の呼吸を保ち、うちは日課の素振りをする。


 (96……97……98……99……100)

 頭の中で素振りの回数を数え、100になったところで一区切りし呼吸を整える。

 

 「ティ~ファ!」

 その声にうちは声がした方へと振り返る。


 「ミリィ……。どうしたの?」

 素振りの手を止め、汗を拭いながら来訪したミリィに歩み寄る。


 「ねぇねぇ、ティファはもう教本とか買った?」

 と、素振りを一区切りした私に問いかけてくる。

 私とミリィは2週間後、ラングリッサ王国首都・ランノックにある王立クロフォード学園に入学する事になっている。


 「ん~、一応3日前にお父さんと色々と買いまわったんじゃけど……」

 私は申し訳なさげにミリィの問いにそう答える。


 「えぇ~、そうなの?」

 うちの返答を聞いたミリィが不満気に声を上げる。


 「まぁ、買いに行くなら付き合ってもえぇけど」

 それを聞いたミリィは「ホント!?じゃあ行こう行こう!」と飛び跳ねながら抱き着いてくる。


 「汗かいちょるけぇあんまり抱き着かんちょって。じゃあ、着替えてくるけぇちょっと待っちょって」

 抱き着いているミリィを引きはがし、訓練用の木剣を壁に立てかけ、家の中に入る。

 自室に戻ったうちはまとめていた髪を降ろし、外出用の服に着替える。


 「お母さん、ミリィと出かけてくるけぇ」

 「は~い。竜車に気を付けてね」

 母に見送られ、うちとミリィは学園指定の教本を売っている書店に向かった。


⚔⚔⚔⚔⚔

 

 「魔術科は教本の量が多いのぅ」

 王立クロフォード学園には魔術科、剣術科、弓術科、商技術科の4科に分かれている。

 うちが入るのは剣術科でミリィは魔術科に入る予定だ。

 

 「そうなんだよ~。ティファはなんで剣術科なの?魔力がないわけじゃないよね?」

 「そうじゃねぇ。うちも女じゃから魔力はあるけど、魔術科に入るとなるとちょっと弱いかのぅ」

 この世界では魔力量は女性の方が多い傾向にあり、大体の女性はミリィと同じ魔術科に入る。

 魔術科の男女比は男2:女8で男性に魔力がないというわけではない。

 魔術科は魔法職を目指す生徒が多く、毎年他の科に比べ2倍以上の生徒数が入学をする。

 一方剣術科は魔力量の少ない男性比率が高く、私の様に女で剣術科に入るのは珍しい様だ。

 

 「それに、うちが魔法を使っちょるところなんか想像つかんじゃろ」

 「あぁ~、まぁそう言われるとティファって剣を振ってるイメージしか浮かばないなぁ……」

 うちにそう言われると魔法を使っているうちを想像できなかったミリィが同意する。


 「でもあれだね。私とティファって科が違うから寮も離れちゃうね」

 王立クロフォード学園は全寮制の学園で、科によって棟が分かれている。

 なので当然科が違ううちとミリィは別々に寝起きする事になる。

 

 「まぁしょうがないじゃろ。寮は別棟になるけど、食事は一緒に食べれるわけじゃから」

 残念そうな表情をしているミリィにうちはそう声を掛ける。

 その後も甘味を食べに寄り道をしたりしながらミリィの買い物に付き合った。

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