第9話 父の部屋の秘密
夕食が終わると、家族は自然とそれぞれの役割に動き始めた。
父親は無言で席を立ち、自室に戻る。
一方、母親と妹、弟は食卓を片付け始めた。私も手伝おうと立ち上がるが、母親に「いいから休んでて」と軽く手を振られた。
しかし、その片付けの仕方に驚かされた。
皿や食器を水道で洗うのではなく、何やら丸い筒状の機械に放り込むだけだ。
機械が蓋を閉じ、数秒後には中から食器がピカピカになって出てくる。
「……すごいな。未来の家庭用洗浄機ってやつか?」
機械の横に刻まれたメーカー名が目に入った。
「名和田電機」
「名和田……?」
聞いたことのない名前だ。
令和の日本では存在しなかった企業だろう。
未来では家電メーカーも変わっているらしい。
部屋の中を何気なく見回すと、官舎特有の質素で整然とした雰囲気が漂っている。
余計な装飾はなく、家具も最低限のものしか置かれていない。
それでもどこかこぎれいで、手入れが行き届いている感じがした。
壁には家族写真が飾られている。
よく見ると、写真が数秒ごとに切り替わるタイプだ。
いくつかの写真が表示される中で、ふと目を引くものがあった。
若い頃の父親と思しき姿だ。
だが、その格好に驚いた。
写真の中の父親は、明らかに米軍兵士のような装いをしている。
迷彩服に防弾ベスト、ヘルメット、手に構えるのは自動小銃。
そして背景には破壊された廃墟。
「……これはサバゲーとかじゃないな」
父親の鋭い表情は、遊びでは決して出せないものだ。
これが本当に父親なら、かつて自衛隊員だったのだろうか。
だが、自衛隊にしては装備が異様に本格的だ。
考えがまとまらないまま、その写真に釘付けになっていると、家の奥から低い声が響いた。
「新生。ちょっと来い」
父親の声だ。
「……な、何だろう。」
妙な緊張感を覚えながら、父親の部屋に向かう。
扉を開けた瞬間、私は足を止めた。
そこは書斎のような部屋だったが、ただの書斎ではなかった。
壁には大きな「武運長久」と書かれたテレビとかで見たことがある戦前みたいな日本国旗が飾られている。
赤い日の丸の周りには名前やメッセージらしき文字が書き込まれているが、それは戦前とは違って主にマジックで書かれており、達筆とは言い難いものも混じっていた。
そして部屋の隅には銃が立てかけられている。
それもただの小銃ではない。
「……AR-15か?」
小銃のフォルムからそれだと分かった。
照準器やその他のアクセサリーが取り付けられ、使い込まれた跡が見える。
それが無造作に置かれている様子は、まるで今でも使う準備が整っているかのようだ。
さらに机に目をやると、そこにはノートパソコンと思しきタブレットとともに、ホルスターに入った拳銃らしきものが置かれていた。
「……これ、拳銃だよな?」
ホルスターから少し見える黒い金属のライン。
その形状はどう見てもモデルガンではない。
「座れ」
父親が指示する。
私は促されるまま椅子に座ったが、背中がピンと張ったままだった。
目の前にはいかめしい父親、その背後には戦前を思わせる国旗。
そして部屋の中に散らばる武器の数々。
「……この人、何者なんだ?」
自衛隊員なのか、あるいはもっと特殊な何か――そんな疑問が頭を渦巻き、口を開く勇気も出せないまま、私はただ息を呑むしかなかった。
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