第7話 2077年の日本史教科書から省かれている平成時代
震える指で「大東亜戦争後の日本」の項目を開くと、ホログラム画面に次のような記述が浮かび上がった。
「敗戦後、日本は高度経済成長を遂げ、世界有数の先進国となった。しかし、米軍基地が全国各地に設置され、事実上の占領状態が続いた。特に、押し付けられた日本国憲法は、国家としての独立性を損なう大きな制約となり、その影響は長年にわたって日本の国力を抑え込む要因となった」
「……占領状態が続いた?」
令和の教科書では、敗戦後の日本は民主主義を取り入れ、経済復興を遂げたとポジティブに語られていた。
だが、この教科書では米軍基地の存在が「占領」の象徴として語られ、日本国憲法も「欠陥のある憲法」として断罪されている。
さらに目を動かすと、昭和20年代から令和にかけての約80年間についての記述が続く。
だが、その内容に驚かされた。
「1945年から21世紀前半にかけての我が国は1991年まで経済発展が続いたが、同年の不動産バブルの崩壊以降国力を減退させ、国際社会での影響力を失った」
これだけだ。
その他の出来事についてはあまり触れられていない。
せいぜい東日本大震災があったことくらいだ。
「……たったこれだけ?」
昭和20年代から令和までの80年近い時間が、わずか1ページにも満たない分量で切り捨てられている。
私は思わず平成という自分が生きた時代を思い返した。
平成だけでもバブル経済の崩壊や東日本大震災以外に、阪神淡路大震災、ITの発展、携帯電話やスマートフォンの普及、さらには日本のノーベル賞受賞者が増えたこと――数えきれないほどの出来事があったはずだ。
「……35年間、俺の生きた時代って、歴史の教科書にする価値がなかったのか?」
そんなことを考えざるを得ない教科書の内容だった。
歴史に記されるべき出来事は何か、それを選別する価値観が未来の日本では私が知るものとは全く違う。
その時、インターフォンが鳴り響き、母親の声が聞こえてきた。
「新生、夕飯の支度ができたわよ!」
声を聞いて2077年、後明治8年の今の現実に引き戻される。
だが、この教科書をもっと読んで、2024年以降の日本がどうなったのか確かめなければならないという思いが強かった。
「後で行くよ!」
そう答えた瞬間、重い怒鳴り声が響いた。
「さっさと来い!!」
今の体、高階新生の父親の大声だ。
その怒気に満ちた迫力が、高階新生としての意識だけでなく、35歳の北本英利としての心までも怯えさせた。
「す、すぐ行きます!」
慌てて端末を閉じ、台所へ急行する。
どうやらこの家では父親の命令に逆らう余地はないらしい。
私は心の中で決意した。
この夕飯を済ませたら、2024年以降の日本が辿った道を確かめる。
そしてこの奇妙な未来の世界がどうしてこうなったのか、その謎を解き明かしてみせる――。
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