第5話 仮面ライダー虎鉄と未来のエンタメ事情

帰宅して家のドアを開けると、小学五年生の弟の声がリビングから聞こえてきた。


「始まった!」


どうやらテレビを見ているらしい。

いや、正確には壁一面に投影されたホログラム映像だ。

未来のテレビは完全にディスプレイの概念を超えていて、部屋全体が映像の舞台と化す。


映像の中では平安時代か鎌倉時代のような鎧をモチーフにしたアーマーをまとい、日本刀を肩に背負ったヒーローが怪人を相手に戦っていた。

その名も『仮面ライダー虎鉄(こてつ)』。


「……この時代にも仮面ライダーがあるのか」


平成時代の記憶では、仮面ライダーといえば美男子俳優が演じ、成長や葛藤を描くドラマ性がウリだった。

だが、目の前の虎鉄はそのイメージを完全に覆す、いやぶち壊している。


まず目を引いたのは、仮面ライダー虎鉄を演じる俳優の見た目だ。

筋骨隆々の体格に、太い眉といかつい顔立ち。

画面越しでも感じるその迫力は私の知る美男で優男の平成ライダーの中の人とは正反対だ。


「こんなやつがライダーなのか?」


声も低く、まるで鬼軍曹のような口調で怪人を怒鳴りつける。

戦い方も力任せで、怪人やショッカーのような雑魚を殴り飛ばしたり、片手で投げつけたり、刀でぶった斬る荒々しさ。

セリフでヒーローとしての心情を語る暇もなく、ひたすらに暴力的な戦闘が繰り広げられている。

もうどっちが悪役かわからないくらいなのだ。


「虎鉄、強すぎる!かっけえ!」


弟は画面に夢中だ。


逆に興味が湧いた私は、ウェアラブル端末で「仮面ライダー虎鉄」について検索してみた。

出てきた情報を見た瞬間、思わず声が漏れた。


「……俳優の名前、真柄信虎(まがらのぶとら)?」


まるで戦国大名のような名前だ。

調べてみると、真柄信虎という俳優はこの虎鉄が初主演作らしい。

しかし、さらに驚いたのは彼のプロフィールだった。


「年齢……24歳?」


どこからどう見ても中年のおっさんにしか見えないその顔が、実は24歳だという。

太い首と強面の表情、何より40代顔負けの貫禄……。

彼の24年間の人生に何があったのだろう。


「平成の頃のライダー俳優みたいな優男はウケないのか……」


未来の大日本帝国では仮面ライダー像そのものが変わっている。

もはやイケメン俳優ではなく、いかつい戦士のような俳優が子供たちの憧れとなっているのだと考えられる。


弟は仮面ライダー虎鉄の戦いぶりに熱狂していたが、私はその荒々しい描写にどこか戸惑いを覚えた。

ヒーローとしての強さは感じるが、そこに優しさや繊細さのようなものはない。

ただ、力でねじ伏せるだけ。


「……これがこの時代のヒーロー像なのか」


未来の日本は社会構造や物価だけでなく、エンターテインメントのあり方すらも大きく変わっているらしい。


虎鉄の戦いを眺めながら、私は未来のこの国がどこへ向かっているのかを考えずにはいられなかった。

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