第3話 君が代熱唱!異次元の学園生活
腕に巻かれたウェアラブルバンドが振動し、時刻になったことを知らせる。
「そろそろ始業式の時間か……」
この未来の端末は驚くほど多機能だ。
バンドを軽くタッチすると、小さなホログラム画面が空中に浮かび上がり、今日のスケジュールや天気予報、ニュースのヘッドラインが表示される。
何より便利なのは、これ一つで日常生活のほとんどが賄えることだ。
動画も見れるしAI検索もできるし、ゲームだってできる。
通学の交通決済や健康状態のモニタリング、さらには授業で使う教材まで全てがここに集約されている。
2024年のスマホも便利だと思っていたが、この未来の端末は、文字通り「身に着ける生活基盤」だ。
校門をくぐると、周囲はやはり異様な光景だった。
帝都興国高等学校――最新鋭の校舎と設備を誇るこの学校には未来的なホログラム掲示板やタブレットを使った授業システムがある一方で、制服や儀式の雰囲気は昭和を超えて戦前そのものなのだ。
だいたい学校名からしてそれっぽい。
始業式が始まると、全校生徒と教師たちが礼儀正しく直立不動で整列する。
壇上には教頭が立ち、威厳たっぷりの声で話し始めた。
「諸君、新たな学年の幕開けを迎えるにあたり、我が帝都興国高等学校の生徒として、常に国家の栄光を心に刻み、勉学と鍛錬に励むべし!」
その話し方はまるで昭和の映画から抜け出したようで、私の知る平成や令和の学校とは全く違う雰囲気だ。
教頭に続いて校長が演説を始めたが、その調子はさらに大時代的だった。
「我が大日本帝国が復興に邁進するこの時代、諸君が次世代の礎を築く存在であることを忘れてはならぬ! 国家、社会、家庭に尽くす人間たるべく、この一年を大いに励むことを期待する!」
話を聞きながら、未来の日本がどうしてこうなったのか改めて考えずにはいられなかった。
式が進むと、国旗掲揚が始まった。
壇上の指揮者が合図を送ると、どこからともなく重厚な伴奏が流れ出し、全員が一斉に直立不動になる。
そして「君が代」の斉唱が始まった。
驚いたのは、その圧倒的な迫力だった。
教師も生徒も声を張り上げ、まるで演説のように熱唱している。
気が付くと私も自然と大声で歌っていた。
「……君が代って、こんなに大声で歌ったっけ?」
君が代が終わると続いて校歌の斉唱が始まったが、こちらは明らかにトーンが落ちた。
国歌斉唱の熱気が嘘のように、校歌はやや静かに歌われた。
それでも式全体に漂う緊張感は途切れることなく続いていた。
始業式が終わり、新しいクラスが発表された。
これも自分のくだんのウェアラブルバンドによって目の前のホログラムで自分の名前を確認すると、割り当てられた教室に向かった。
教室に入ると新しい顔ぶれに囲まれる中で自然と自分の席を見つけることができた。
机に座ると、ふと目に入ったのは黒板に表示された時間割。
その内容に、私は目を見張った。
「0時間目から8時間目まで……?」
2007年まで高校生だった時は多くても6時間目が限界だったと記憶している。
ところがここでは1日9コマも授業があるらしい。
それだけでも驚きなのに、科目の中には見慣れない名前も並んでいた。
「金融基礎Ⅱ……AI基礎Ⅱ……量子情報科学……修身?」
「金融基礎」や「AI基礎」、「量子情報科学」という科目も2024年の高校では教えられていない新しい内容のようだ。
それに「修身」なんて、戦前の日本にあった科目?
それがこの未来の学校では復活している。
しかし、最も目を引いたのは「国防基礎訓練」という科目だった。
「……国防基礎訓練?」
信じられない思いでその文字を見つめた。
授業の一つに「国防基礎訓練」が含まれているなんて、2024年の日本ではあり得ない話だ。
この未来ではそれが普通のことらしい。
さすが大日本帝国……。
私は深くため息をついた。
これから始まる日々が、自分の経験した高校生活よりはるかに過酷になることを直感した。
「明日から地獄じゃないか……会社員やってた方がましだ……」
そんな思いを胸に抱えながら、新しいクラスメートたちと明日から初めての授業を迎える準備をした――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます