第4話 田中 太郎 ③

太郎は知ってるような街中を暗闇に乗じて彷徨っていた


 ーーーなんだ?・・・なんとなく何処に何があるか分かるぞ

    異世界転生特典か?


そんなよく分からない既視感を覚えつつ、公園のような場所にたどり着く


公園内の魔道具の照明の下にある、木製のベンチにオーガが4匹、煙の出る魔道具のようなものを吸いながら「グガー」「グガー」と何か話していた

見つからないように気配を殺しながら、近くの植え込みの茂みから観察する

相変わらず何を言っているのか理解できない


 ーーーどうせなら異世界言語は標準装備して欲しかったな・・・っても魔物の言語じゃどうしようもないか・・・


そんなことを考えながらどうするか悩む


 ーーー4匹か・・・殺れるか?


そっと辺りを窺う


 ーーー4匹以外は周りに魔物の姿はないか・・・


どうしようか悩んでいると1匹が何かを話しながら茂みのほうに歩き出した

チャンスだと思い太郎はそっとはぐれた1匹に近付いていく


どうやら放尿のようだ


動く前にイメージする

後からそっと近づき手に持った包丁でまずは首の頸動脈辺りをばっさりと切りつける

そして声を出させないために背中から肺と心臓の辺りを刺す

たぶんこれでいけるはず


よしっとイメージが固まれば実行である


そーーーっと近づき包丁を構える

ちょうど放尿の終わりかオーガが下を向いたのを合図に太郎は右側の首をザッと切りつける

ガッっと短い言葉を発して、オーガは何が起きてるのか分からずその場に片膝をついた

切りつけた返す手で太郎はそのまま背中へ水平にした包丁を力一杯に刺しこむ


オーガは血泡を口から出しながら前のめりのそのまま倒れた


完璧だ!素晴らしい!!

太郎はイメージ通りにそして予想通りに動けた自分を自画自賛した


調子に乗った太郎はこの手応えなら残りの3匹のオーガも余裕だろうと考える


できるだけ近付いた茂みから一気に飛び出し後ろ向きの2匹のオーガの首を切って1匹の背中を刺した

死亡確認は後だと、すぐに別のオーガへ向き直るがすでに逃走なのか走り出していた


な!


「おい!オーガのクセに逃げんなよ!!」と後から叫びながら追いかけるがあちらのほうがどうやら早いようで全く追いつけなかった


 ーーーくそっ、やはり3匹同時は難しいか・・・

    まさか逃げるとは・・・


軽率に行動してしまった自分を反省し次に活かすと誓う

先程の襲撃したオーガ2匹の元へと戻り、虫の息だがまだ生きていた1匹にとどめをさす


ふぅーっと一息


死体は・・・いや、このままにしておこう

さっき逃げたオーガが仲間を連れてこられてもやっかいだと思い太郎はその場を後にする






しばらく闇夜に紛れて歩くと田んぼの横に開け放たれた小屋をみつけた

どうやら農具置きの小屋のようだ


返り血で酷いことになっていることに気づき小屋へ侵入

ペットボトルの水を飲み、残った水で洗えるだけ洗い流した


埃を被った木箱に座り持っている缶詰とソーセージを出す

どちらも文字は読めないが魚のマークと絵が書いてるのでたぶん魚だろうとそれを食べる

ちょうど最後の一口を食べた時、遠くの方で暗闇の中を赤いギョロギョロした目がすごい勢いでいくつも動き回っているのが見えた


 ーーーくそっ、オーガの仲間か!

    やはりさっき逃したのは失敗だった

    仕方ない・・・街中からは離れていった方が良いか・・・


うっすらと夜が明けだした空を見ながら、黒く写る山の方を見ながら太郎は決断する


 ーーーサバイバル知識もある

    山で暫く身を潜めて、他の街へ移動しよう


小屋の中を使えそうな物はないかと物色する

小さなスコップと草刈りガマを見つけたので、何かの役に立つだろうとそれらを鞄につっこみ山へ向け、移動を開始した


テクテクテク・・・


今の時間は・・・


4時頃か・・・


太郎は少し焦っていた

思った以上に山までの距離があり明るくなる前に逃げ込むのが難しいのではと感じだしたからだ


周囲は徐々に明るくなりつつあり、さらにときおり単騎で走り回るゴブリンライダーを見かけるようになったからというのも一因かもしれない


他に手はないだろうかと思考しながら、山への最短だろうと思われた雑木林を抜けた時、太郎にとってそれは突如と思えるような現れ方をした


「そ、それは魔道銃か!」


通じないだろうと思いながらも、叫んでしまった


そう、太郎の目の前にはゲームでよく知る濃紺の鎧を身にまとったデスナイトが6体と今は赤くないがあのギョロギョロ目の大きな魔物が3体

そして、そのうちの3体のデスナイトの手には魔道銃と思われる筒状の物を持ちこちらを狙っていた


自分たちが優位であることもあり、命乞いをさせたいのか何かをこちらに呼びかけている

相変わらず魔物の言葉は分からない


太郎は心でチッと舌打ちし、何故もっと警戒を強くしていなかったのかと自身の油断を悔やみつつ包丁を二刀流でゆっくりと構えた


不思議と恐怖はない

実験施設を飛び出してからとうに覚悟はできている


ふぅぅぅぅ・・・と息を一度吐ききる


異世界特典と思われる恐怖耐性に感謝しつつ、やってやる!と覚悟を決めて一番近い右側の透明なラージシールドと鉄の棍棒を持つデスナイトへ走り寄った


ダァンッッ!!


後数歩ってところで大きな音がして左足に激痛が走ったが、知ったことかとそのまま後数歩のデスナイトへと斬りかかる


体重を乗せた右手の初撃はシールドで弾かれ包丁も取り落とすが、そのまま左肩からショルダーチャージをかます


倒れ込んだデスナイトにすかさず馬乗りになり左手の包丁で首元を3度、めった刺しにする


手にまとわりつくような瘴気の様な物が大量に溢れだした


次の獲物を狙うべく視線を彷徨わした時、左肩に魔道銃による攻撃で激痛が走る


馬乗りの姿勢から崩れるように思わずそのまま地面を転がる


包囲するためか盾持ちの2体のデスナイトを前衛にして3体の魔道銃持ちデスナイトもゆっくりと距離を詰めてくる


左足と左肩の激痛に顔を顰めながら太郎はその場にゆらっと立ち上がった


 ーーーこれは・・・厳しいか・・・

    ワンチャン・・・死に戻りスキルあるか?


突破も難しく、生存も期待薄なこの状況

あるかないか分からない一縷の望みに希望を見いだすのも致し方ないことか


ふぅぅぅぅ・・・とまた息を吐ききり、太郎は諦めず突貫の姿勢を取る


と、同時に盾持ちデスナイト2体が走ってきて挟み込むようにシールドバッシュ


左足の踏ん張りもきかず勢いのままにぶっ飛び、そのまま地面に倒れ込む


このまま魔物に死ぬより辛い目に遭うぐらいなら・・・


倒れてもなお離していなかった包丁で太郎は自身の胸を刺した


そう、一縷の望みにすがり・・・


まさか自害するとは思わなかったのか、慌てふためくデスナイトたちに「ざまぁ・・・」と声にならないつぶやきと共に、やがて太郎の視界は瞼を閉じるように暗転していった


 ーーー次は・・・失敗・・・しな・・・い・・・ぜ・・・

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