第3話 山川 海空 ①
ガッ
肩に付けている無線が不意に鳴る
「交通事故 山川町1丁目 公園北側 電子柱での軽トラックによる単身物損事故発生 」
ガッ
「了解しました。ヤマカワ1、至急現場に向かいます」
無線を聞いて、交通事故の現場検証のため必要な道具を抱えて向かう準備をする
俺は山川駅前交番勤務の巡査 【山川 海空】
なんの冗談か山川町の山川性である
そして名は海好きの父から海、空好きの母から空をつけ そのまま【海空(みそら)】と命名される
小さいときは気にしていなかった
問題は高校生の時に両親の離婚により母の旧姓である山川になってからは名前で良くいじめられたものである
父と母をどれだけ恨んだことか・・・
そのおかげか理不尽なことが嫌いで守るという仕事の代名詞のような警察官になったので、ある意味名前のおかげかもしれない
いまでは飲み会のネタにもなっているため両親に感謝すらしている
山川は相棒である自転車の後部に備え付けられた黒い箱に必要な道具を詰め込んで無線連絡のあった現場へ向けペダルを漕ぎ出す
おおよそ10分ほどで事故現場に到着
トラックの前には事故当事者である運転手と思われる50代ぐらいの男が、保険会社か勤め先に電話でやりとりをしていた
「・・はい、・・・はい、・・わかりました。宜しくお願いいたします。失礼します・・・」
電話が一段落付くのを待ち声をかける
「お待たせしました。ご連絡いただいた運転手さんで間違いないですか?どこかお怪我などありますか??」
「ご足労かけます。はい、特に怪我などはありません。宜しくお願いいたします」
「わかりました。では免許証と車検証をまずはお願いいたします」
と、手順を進めて行く
大きな町ではないため仕事はたまに起きるこういった事故ぐらいで手慣れたもんである
単身事故ということもあり調書ももうすぐ終わる頃合いで喧噪が聞こえてきた
顔を向けると集団暴行の現場
山川は一言「すみません、すぐ戻ります」と伝え喧噪の現場へ走り出した
現場は5人の外国人により暴行を受ける男が道路で蹲っている姿
「そこ!何してる」と声を張り近付いていく
外国人達はその場から蜘蛛の子を散らすように逃げ出した
一瞬、そのまま追うか悩むが被害者の男性が気になり追跡を断念する
「大丈夫ですか?」と声を掛けるも反応はない
ガッ
「ヤマカワ1より本部。指示のあった交通事故現場検証の100m付近で04(暴行事件)発生。マル害1負傷。マル被5逃走。救急車と応援を至急お願いいたします」と無線連絡する
反応のない男性に声をかけ続ける
息はあるようだが変わらずぴくりとも動かない
何度か声を掛けつつ、20分ほどして遠くから救急車のサイレンが近付いてきた
やがて近くに止まった救急車から救急隊員が担架と救急キットを持って降りてきて状況を聞かれる
「呼吸あり、呼びかけによる反応なし」と返答
救急隊員は素早くバイタルのチェックを行い、近くの受け入れ先の病院を探し出すため無線が飛ぶ
慌ただしくそのまま救急車へ男を乗せ走り出した
危ない状況なのかもしれないと思いつつ、同じような職種である救急隊員へ尊敬と感謝の念を込めつつ見送った
そのすぐ後に応援のパトカーが到着
到着した同僚に詳しく状況を報告し引き継ぎをした
戻ったら報告書も作成しなくてはならない
交通事故の現場検証を終わらせ相棒の自転車で交番へ戻った
その日は特筆するようなことは何も起きず勤務終了となり家に帰った
翌日
先輩巡査よりシフト交代で引き継ぎを済ませ昨日の事件の後日談を聞く
「先輩、昨日の暴行事件ってどうなったか知ってますか?」
「ん?あぁ、あれな。報告のあったマル被5人はコンビニでよくたむろしてる920(外国人の隠語「マル鮮」とも言う)みたいで、すぐにヤサまで行って連行したそうだ。たぶん今頃、逮捕状の準備だと思うぞ。マル害はかわいそうなことに依然意識不明の重体で山川総合病院へ搬送されたそうだ。所持品から家族への連絡もすんでいるぞ。」
「先輩、ありがとうございます。そうですか・・・お疲れ様でした」
と、感謝を伝え勤務を終えた先輩を見送る
前からコンビニ前の外国人たむろは苦情が届いていた
気にはしていたが、申し訳ない気持ちがこみ上げる
昨今、""レイシャル""だなんだと五月蠅いこともあり対処がどんどんデリケートになっているため迂闊に動けない世知辛い世の中である
休憩時間に制服でコンビニに食事を買いに行くだけでもSNSで叩かれる
どうにかしてほしい問題である
そんなやりようのない気持ちを抱えながら1日1日と勤務はつつがなく続き1週間ほどしたときに思いもいない大事件が無線より飛び込んでくるのであった・・・
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