第16話

「いっちゃんの好きな事?」

寧々はキョトンとしている。

「どんな事でもいいんです。教えて下さい」

真来の一生懸命な様子を見て、寧々は思わず微笑んでいる。

「じゃあ特別に真来ちゃんにだけ教えちゃう。いっちゃんの一番好きな事」

「有難うございます」

「それは晴れた日に青空を見る事。それがいっちゃんには一番落ち着くの」

じゃあ、この間雑誌を読んでくれたのは僕に気を使って?

「だからソファが窓の方に向いているでしょ

う?いっちゃんはあのソファに座って、空を見ている時が一番落ち着いているの」

寧々の言葉を聞いて、リビングを見ると矢野がソファに座って空を見ていた。

「雨の日はどうなんですか?」

「雨の日にはね。目を閉じてずっと雨の優しい音を聞いてるの」

真来は思った。

矢野さんは空の音に耳を傾けるのが好きなん

だ……

後部座席で余り喋らず、雑誌や新聞を読んでいないからといって退屈しているわけではなかったんだ。

日頃忙しい人だから1人の時間を大事にしているんだ。

「いっちゃん、真来ちゃん来たよ」

矢野がソファから立ち上がった。

そして玄関の方に向かって来る。

「おはようございます」

「おはよう。じゃあ寧々、行ってくるよ」

「いってらっしゃい。気をつけてね。いっちゃん」

真来は玄関のドアを開けた。

矢野が外へ出て来る。

空一面に青空が広がっている。

「今日もいい天気だな」

「はい」

こうしてまた矢野の忙しい1日が始まるのである。

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