第10話

「どう、その後怒鳴られたりしてない?」

真来は同僚の沢田絵里と、会社近くの

居酒屋に来ていた。

「大丈夫だよ。凄く穏やかで優しい人だから。色々気遣ってくれるし」

真来の言葉を聞いて、絵里は意外そうに目を丸くしている。

「優しいの?怖いじゃなくて。」

「誰だよ。そんなデマ流したの。」

「そうなんだ…… 」

真来はビールを片手に話を続けた。

「ただ、矢野さんってあまり喋らないんだ。だから車の移動中とか退屈じゃないかと思って

さ。好みのものとか分かればいいんだ

けど…… 」

「矢野ファイルにはなかったの?」

「全然」

「申し送りは?」

「遅刻厳禁、演技の事に口を出さない、大事なのは娘の寧々さん」

「それだけ?」

絵里はポカンとしている。

「それだけ」

「森口さん、情報隠匿しているんじゃない

の?」

「でもそうなったら矢野さんの言葉から拾うしかないだろ?だから物凄く注意深く話を聞くようになった」

「それで?矢野さんは何て?」

「そう言えば……最近の若い子ってどんな雑誌を読むの?って聞かれたっけ?」

絵里はビールを飲みながら、相槌を打った。

「女性だったらビビアン、男性だったらパソコン雑誌ですかね……と言ってみた」

「じゃあ、GEE渡してみたら?」

「矢野さんが読むかなあー」

「とにかく情報がないんだから、やってみるしかないでしょう」

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