第5話
CMの撮影は大手紳士服メーカーのものだっ
た。
矢野は濃いグレーのスーツを見事に着こなしていた。
真来はその格好良さに思わず見惚れていた。
矢野が撮影が終わって戻るまでに、用意しなければならないものがあった。
口に合えばいいんだけど……
真来はサブレとコーヒーを用意した。
これも申し送りを受けた時、森口が笑いながら言ったのである。
「あーいっちゃん、自由だから。何でも食べるし」
「そんなー。お好みの物とかないんですか?」
「拘らないんだよね。そういう所は。自分の判断で出してごらん」
矢野が戻って来た。
「お疲れ様でした。お口に合えば宜しいのですが…… 」
「有難う」
矢野一色が僕に有難うと言った!
矢野はコーヒーを飲みながら、サブレを食べている。
「どうしてこれを出そうと思ったの?」
矢野の質問に真来は震えながら答えた。気に入らなかったのだと思ったのだ。
「今はお昼前です。もうすぐ昼食ですので軽めの方がよろしいかと思いまして」
矢野は柔らかな笑顔を見せた。
真来は映画の撮影の休憩の時にはあんこたっぷりのお饅頭と熱いお茶、テレビの収録の時間待ちの時にはアールグレイとババロアを用意したのだが、全部機嫌良く食べてくれた。
マンションの前で、後部座席のドアを開ける
と、矢野が降りて来た。
「初日疲れただろう。今日は早く休んで。明日からも宜しく。お休み」
「お疲れ様でした。失礼します」
思いがけない矢野の言葉を聞いて、真来は感激しながら深々と頭を下げた。
そして矢野がマンションの中に入るのを見送ったのである。
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