第3話

え?

鉛のように重い体を引き摺ながら、真来は矢野一色のマンションを訪れた。

娘の寧々が迎えてくれた。

無茶無茶可愛い。

真来は思わず顔を赤くした。

伊能まどかの現物だ。

「おはようございます。今日から矢野一色さんのマネージャーになりました。森信真来と申します。どうぞ宜しくお願いします」

完全に緊張している真来を見て、寧々は思わず微笑んだ。

「どうぞ」

確かに高級マンションだが、3LDKの極無難な間取りだった。

矢野一色である。

日本中、いや世界でも矢野一色の名は知られている。演劇界の大スターである。どんな豪邸にでも住めるはずだが……

リビングのソファーに矢野は座っていた。

「いっちゃん、新しいマネージャーさん来た

よ」

寧々に案内されて、真来は矢野の前まで来た。

そして再び丁寧に挨拶した。

矢野はソファから立ち上がると真来に握手を求めて来た。

「矢野一色です。今日から宜しく」

柔らかな笑顔だった。

真来は両手で矢野の右手を握ると、

深々と頭を下げた。

「そんなに緊張してたら持たないよ」

矢野は穏やかに言った。

真来は漸く顔を上げる。

突然、寧々が後ろから真来の頰を突いた。

「可愛いねえ。幾つ?」

「23歳です」

23歳か……直樹が私のマネージャーになったのもその年だったな。

「彼女いるの?」

「いません」

「いないのか」

矢野まで興味深く聞いてくる。

「それは……そっちも頑張らないといけない

な」

矢野は楽しそうである。

「じゃあ、真来ちゃんだね。ねえ、いっちゃ

ん」

矢野は柔らかな笑顔を見せた。

「では真来ちゃん、今日の予定は?」

「はい、11時からCMの撮影、13時から、映画の撮影、19時からテレビの収録があります。終了は22時の予定です」

矢野は満足気に頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る