2-7 小さな嫉妬
一安心しつつも知世達は店の外に出る。
「あたしは
「莉麻、お願いだからやめて。……んんっ、僕は宍戸
「えっ」
自己紹介をする兄妹――莉麻と咲間に、花奈は思わずといったように驚きの声を漏らす。花奈の気持ちはよくわかった。まさか双子だとは思っていなかったのだ。
「双子なのは想定外だったかな?」
花奈を見つめながら咲間が訊ねる。花奈にとって咲間は年上の男の子だ。
突然視線を向けられて「わっ」とビックリしながらもコクコク頷く。
「は、はい。でもお二人ともモデルさんみたいに格好良くて可愛いので、双子って聞いて納得しました」
「えー、兄貴はともかくあたしまで褒めてくれるなんて嬉しすぎるんですけど! ね、兄貴イケメンでしょ? 一秒でも視線が合ったら目が破壊されちゃうくらいの!」
「莉麻、表現がバグってるから。初対面の人にそのムーブするのやめて」
「事実を言ってるだけなのにぃ」
「事実だったら大問題なんだよ。……ごめんね、妹が」
心底申し訳なさそうに目を伏せる咲間。
宍戸兄妹とはたった今出会ったばかりだが、何となく兄の苦労を感じてしまった。つまるところ、莉麻はブラコンということだろう。
「えっと、それで君達は……」
遠慮がちに促され、知世と花奈はそれぞれ自己紹介をする。
知世は大学生で花奈は中学生。二人は従姉妹同士で今は一ヶ月間の共同生活をしていること。
そして――動画サイトを観ていたら偶然柚木園雫と出会ったこと。今は武道館ライブに参加するため、初めての推し活をしている最中だということ。
「ちょっと待って」
一通り話し終えると、何故か莉麻が表情を陰らせた。
「ごめん、てっきり七沢さんは高校生なのかなって思ってて。……敬語の方が良い、ですか?」
「あー、なるほど」
知世はすぐに納得する。
昔から童顔だと言われることは多いし、花奈にも可愛いと言われがちだ。身長も百六十一センチで高すぎず、高校生に見られても不思議ではないと思う。
「気になしなくて大丈夫。仲良くなりたくて声をかけた訳だから。……私も二人のことは莉麻ちゃんと咲間くんって呼ばせてもらうね」
「! わあぁ、女神っ。めっちゃ女神!」
「…………大袈裟だと思うけど」
「いやいや、大袈裟なんかじゃないよー。あ、そうだ。あたしは七沢さんのことなんて呼ぼう。花奈ちゃんは花奈ちゃんって感じなんだよねー」
言いながら、莉麻は花奈の髪をわしゃわしゃと撫でる。
その瞬間、知世は初めて花奈の表情に変化が訪れていることに気付く。……目が死んでいるのだ。確かに莉麻は驚くほどに積極的だが、こんなにも虚ろな表情をしてしまうくらいの何かを感じているのだろうか。
「うーん、七沢知世だから……ナナセちゃん、とか?」
「あ、それ……私のSNSの名前」
「えっ、そうなんだ! なら尚更ナナセちゃんが良いかも。あとで連絡先も交換しよーね」
満面の笑みで言われ、若干押され気味になりつつも頷いた。
しかしよくよく考えてみたら頭にクエスチョンマークが浮かぶ。別にあとでじゃなくて今交換すれば良いのでは? と思ったのだ。
「僕達はこれから雫さんのMVの聖地になっている喫茶店に行こうと思ってるんだけど、一緒にどうかな?」
やがて咲間の口から発せられた提案に「なるほど」と思う。
同時に、彼の眉が心配そうに下がっているのにも気づいてしまった。きっと花奈の様子を気にしているのだろう。
「花奈ちゃん、どうする? 気分が悪いならまた後日にでも……」
「ぅあ、あの、違うんです。私はただ、その…………し」
「……し?」
「…………嫉妬をしているのだと思います」
耳を澄まさなければ聞こえないほどの小さな声で、花奈は本音を零す。顔は当然のように赤いし、瞬きなんて超高速だった。
「なるほど」
「わ、笑わないでください」
「いや、でも気持ちはわかるよ」
堪え切れずふふっと笑いながらも、知世は花奈の瞳を覗き込む。
莉麻が積極的というのもあるが、早くも彼女は知世のことを「ナナセちゃん」とあだ名で呼んだのだ。急速に距離が縮まった感じがして、花奈は変に焦ってしまったのだろう。
「お姉ちゃんが誰かに取られちゃった、みたいな感覚なんだよね?」
「……あ、その…………私も莉麻さんと咲間さんと仲良くなりたいなって」
「…………そっか。そっちね」
違った。間違えた。とんでもない勘違い野郎だ。
顔が熱い。口笛でも吹いて無理矢理にでも誤魔化そうとするも、自分が口笛を吹けないことに気が付く。ここは大人しく咳払いをすることにした。
「じゃあ、MVの聖地になってる喫茶店、行ってみる?」
「はい! お二人とも、よろしくお願いします」
知世の問いかけに花奈は大きく頷き、宍戸兄妹にお辞儀をする。
知世も一緒になって頭を下げると、莉麻に「そんなに
でも、知世と花奈にとっては初めての聖地巡礼なのだ。
推し活の先輩である宍戸兄妹に案内してもらえるのは非常に助かることで、知世の胸も自然と躍っていた。
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