藍電気石人形(インディゴライトドール) 4
(……間違いない)
手に取って確信した。このビードロは水晶舎で扱っているものだ。見た目はビードロと変わらないけれど、ほかのビードロよりずっと頑丈で地面に落としても滅多なことでは割れない。何より吸い口近くに付けられた月のマークがそれを示していた。
マークの三日月は縁が金色で中は透明になっている。三日月の周りを取り囲む銀色の線は水晶を表していた。
(どうしてこれをあの人が……?)
手に取りじっと見つめる。淡い青色の中でパチパチと小さな光が弾けていた。それが時々白いハレーションを起こすのは、ビードロの中に精電気がたっぷり詰まっている証拠だ。
この煌めきとハレーションは普通の人には見えない。僕たち
(ちょっとくらい、いいよな)
出所がわからないものを口にするのはよくないと教わった。でも、いまは精電気が足りない緊急事態だ。
吸い口を口に含み、そっと空気を吹き出す。「ぺっこん」と音がした後、ピリピリとしたものが口の中に入ってきた。店で口にする精電気と変わらない感覚に「やっぱり店のものだ」とホッとし、何度か「ぺっこん」と音を出す。
(……はぁ。ようやく落ち着いた)
ビードロ一つで七日分はある。その精電気が半分近くまで減っていた。最後に精電気を取り込んだのは三日前だからギリギリまで減っていたということだ。
(外套だけで何とかできればと思ったけど、そううまくはいかないか)
精電気は元は少年が発するものだからどこにでも漂っている。外出時でもそんな精電気を取り込めるようにと作られた外套だけれど、それだけじゃどうしても足りなくなる。そこで最後に博士が作ってくれたのがビードロだった。
特別なこのビードロには集めた精電気を貯めておくことができる。店でのエネルギー補給も、もっぱらこのビードロを使っていた。外出時には必ず携帯するように言われていたもので、エネルギー切れを起こす前に口にするようにも教えられた。僕は店に黙って出てきたため、今回このビードロを持ち出すことができなかった。
(そしてこれは店でしか手に入らないはず)
それに精電気を集めるのは博士が作った機械でしかできない。それをビードロに詰めることができるのもその機械だけだ。このビードロだって中身が空になればただのビードロに戻ってしまう。
(わからないことばかりだ)
博士がいた頃と違い、在庫の僕たちは外に出ることが許されていない。どこかでエネルギー切れを起こしたら大変だということもあるけれど、好事家に持ち去られるのを防ぐためでもあった。だから今の世の中がどうなっているのかわからないままでいる。
(取りあえず、残り半分でもしばらくは持つ)
あとは外套を着て少しずつ精電気を集めるようにしよう。あまりいいやり方じゃないけれど、それで半月くらいは何とかなるはず。それだけ隠れていれば、僕を引き取りたいという客も諦めるに違いない。店主には説教されるだろうけれど店から出て行くよりはずっとマシだ。
そんなことを考えているうちに男が帰ってきた。
「あぁ、よかった。まだいてくれたんだね」
「黙って出て行ったりはしません。それに、ちゃんとお礼も言ってませんでしたし」
「お礼なんていいんだ。それより、きみが部屋に留まってくれていてよかった」
ニコニコと笑いながら男が向かい側に座った。
「ビードロは気に入ってくれたかい?」
「あ、……っと、」
手にしていたビードロを見て、咄嗟に言い訳が出てこなかった。「気に入った」と言ってもらっておけばいいだけなのに、
「あの、これなんですけど」
「間に合ったようでよかったよ」
男の言葉に「え?」と言葉が止まる。
「迎えに行ったときでかまわないのに、きみに繋がるものがほしくて先に手に入れていたんだ。まさか、こんな形で役に立つとは思わなかったけどね」
僕はパチパチと目を
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