第21話 どんどんくるぞお

 予想通り真っ先にやってきたのは空からだった。それも複数!

 一体は俺でも知っている。空を飛ぶ城と恐れられているコンチネンタルバードと呼ばれる巨鳥だ。

 なんと、その体躯は30メートルオーバーで、その異名に相応しい大きさである。鳥は体積に比べて軽いのだけど、ここまでのサイズになるとのしかかられるだけでも魔道車なんてキャラメルの箱みたいにぺしゃんとなってしまうだろう。ただし、魔道車が通常状態ならば、だけどね。材質を変えれば潰されることはなくなるだろうが、体当たりだと怪しい。実際に見るのは初めてだよ。かつてマナが豊富にあったころはこうしてコンチネンタルバードも空を飛んでいたんだなあ。

 過去では飛ぶことができない鳥で、そろそろ絶滅するんじゃないかと言われていた。

 コンチネンタルバードと反対方向からは空飛ぶ爬虫類の編隊だ。爬虫類と表現したが、翼竜か飛竜以外の空飛ぶ爬虫類は種類が少ない。

 ただ、俺のモンスター知識が過去のものな上、それほど詳しいわけじゃないからもっと色んな種類がいるのかもしれないけどね。

 件の爬虫類の編隊は翼もないのに空を飛ぶ黄金色の蛇にトンボのような翅が伸びた亀という不気味なものだった。一体どんな攻撃をしてくるのか予想がつかん。

「よおっし! 空からとなると、悪いが俺から行かせてもらうぜ!」

 ヒュン! ヒュン!

 景気よく叫んだ後ろから、風を切る音が耳に届く。

 次の瞬間、爆音が響き亀と蛇が一体づつ落下した。

 誰がやったのかなんて確認するまでもない。そう、物理を魔法と言い張る彼女である。

 ヒュン! ヒュン! ドカーン、ドカーン!

「え、えええ……」

 あんまりな光景に変な声が漏れた。やはり筋力、筋力が全てを解決する。

 ただの岩でも卓越……超越した筋力があればミサイルを凌ぐ破壊力になるのだ。本当に意味が分からんが、事実なのだから黙るしかない。

「ペネロペ、あのでかい鳥、コンチネンタルバードだったよな。あいつに岩を投げるのは少し待ってくれ」

「畏まりました。あの大きさですと、岩より直接叩いた方がよいかと」

「俺じゃあ身体能力を強化しても岩を投げるのでせいぜいだよ」

「では私はコンチネンタルバード以外を仕留めておきます」

 と彼女が言うものの、筋力の……ではなく力の差を思い知った亀と蛇は踵を返しどっかに飛んでいく。

 彼女に手をひいてもらったのは何も自分が目立ちたいとか活躍したいとかいうものではない。理由はだな、ロングロールの様子からきていた。

 うまくいく可能性の方が低いが、やってみる価値はある。

 さて、どんな魔法陣魔法でいくか。対するコンチネンタルバードは空から悠々とこちらを見下ろしている。

 生活魔道具に仕込まれた魔術回路の威力を思い知るがいい。天に両手を掲げ、魔法陣魔法を発動する。

「術式構築 |絶≪ゼロ≫空間」

 両の手のひらから目を凝らしてみないと分からないほどの薄い青色の光が漏れ、コンチネンタルバードに真っすぐ向かっていく。

 |絶≪ゼロ≫空間は生活魔道具だけじゃなく、魔道具を扱う職にとっては基本中の基本の魔術回路である。

 効果のほどは、まあ見ていてくれ。

「ぐ……巨大過ぎて、魔力が全然足らん。だがしかし、豊富なマナがあるなら、いける!」

 豊富過ぎるマナが使っても使っても体内に流れ込んでくる。そいつを|絶≪ゼロ≫空間の強化に注ぎ込む。

 よおし、ようやく|絶≪ゼロ≫空間の光がコンチネンタルバードを包み込んだぞ。

「出力の調整を誤らないように……」

 |絶≪ゼロ≫空間に包み込まれたコンチネンタルバードは、じわじわと高度を落としていき、ついに地面に着地する。

 よろよろとこちらに頭を向けたコンチネンタルバードが、「きゅうう」と鳴き座り込んだ。

 どうやら、俺の力を分かってくれたようでホッとした。

「|絶≪ゼロ≫空間とはまた面白い発想ですね」

「だろ」

 様子を見守っていたペネロペに向け親指を立てる。

 |絶≪ゼロ≫空間は包み込んだ空間の魔力を吸い込み、外からのマナの流れ込みを遮断する魔法陣魔法だ。

 亀や蛇はもちろん、巨大な鳥が飛ぶなんてこと物理的にあり得ない。しかし、魔力を使うと話は異なってくる。

 魔力を飛ぶ力に変換することで、およそどんな姿形をした生物であっても空を飛ぶことが可能になるのだ。空気中にはマナという力があり、それを体内に取り込んだものを魔力と呼んでいる。よく混じって表現されるけど、本質はそこじゃあない。

 何が言いたいのかというと、マナでも魔力でもどちらでもいいのだが、すげえってことだよ。

 マナは電気のエネルギーとはまた違った何にでも変換できるエネルギーと捉えるのが分かりやすい。電気と同じでマナのエネルギーを特定の力に変換するには魔術回路という術理が必要だ。

 魔力を使って飛行する生物は体の中に術理が刻まれていて、飛ぶことができる。

 前置きが長くなったが、|絶≪ゼロ≫空間によってコンチネンタルバードの魔力を吸い取ることで、飛ぶための魔力がなくなり地面に不時着した。

 コンチネンタルバードは地上でも走ることができるし、クチバシや脚で攻撃することも可能であるものの、獲物を仕留めるに向いていない。

 あの巨体だから向いていなくても当たったら吹き飛んで骨の数本は持っていかれるが……。

 草食であるコンチネンタルバードが空にいるならともかく、いかな巨体でももはや俺たちの脅威じゃあないってことさ。巨体に任せた攻撃なんて怖くもなんともない。そしておそらく、いや確実にコンチネンタルバードとぺネロパが体当たりをしたら勝つのはペネロペである。

 つまりだな、地上に落ちてきたことでコンチネンタルバードは無力化されたってことさ。

 奴もそれが分かっているのか、借りてきた猫のように大人しく座り込んでいる。

「うん、負けを認めたら大人しくなる」

「ただ大人しくさせただけではないのですよね?」

「そそ、ロングロールが整列していたじゃないか。強さを認めた相手には従順になってくれるのかなあってさ」

「まさかコンチネンタルバードの背に乗ろうとか考えてませんか?」

 う、分かりやすすぎたか。コンチネンタルバードを無傷にしたかったのでペネロペに攻撃を控えてもらったんだよね。

 

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