第22話 到着到着

「失礼しまあす」

『くああ!』

「あ、やっぱダメか」

 コンチネンタルバードに近寄ったら威嚇されてしまった。距離を取るとコンチネンタルバードは大人しくなったけど、身の危険を感じさせてしまうのかなあ。

 とっくに|絶≪ゼロ≫空間の効果がきれ、魔力も回復してきたと思うのだがコンチネンタルバードはくああとあくびをし、くつろいでいる。

 そろそろ次のモンスターが襲撃してきそうなのだが、まあいいか。危なくなったら勝手に飛んでいくだろ。

「そこそこなモンスター、いえ、魔獣がきてます」

「数は……一体ぽいな」

 言ったはなから来たようだ。

 俺も襲撃に備え感覚強化の魔法を付与している。それでもペネロペには敵わないのだけどね。ハリーもまた俺より早く気配に気が付いている様子。

 どうやら、天の山麓の中でなかなかの強者らしく、他のモンスターはそいつに遠慮して襲撃を控えているようだ。

 距離はまだ500メートルほど先で、ゆっくりとこちらに向かってきている。

 木々と坂があり、そいつの姿はまだ見えない。なるほど、こいつはなかなかのものだ。過去のマナ枯渇環境じゃお目にかかれないレベルだな。

 まあ、こちらもこちらでマナ使いたい放題なのだから憂うことなんてなんもねえ。

「ほお……」

 現れたるは二本の長い角が多しい四つ足の魔獣だった。ネコ科ではなく、犬……いや、馬や牛に近いか。ただ、馬と異なり、ネコ科のように脚が短く蹄ではなく手と鋭いかぎ爪がついていて、全身がくすんだ黒の獣毛でおおわれ、波打っている。顔も馬や牛ではなく、豹のような頭部で、顎鬚が首元を覆っていた。尻尾も太く長い。いろんな動物の特徴を持つこいつはまさに魔獣と表現すべきモンスターだった。コンチネンタルバードに比べると遥かに小さく、全長は7から8メートルってところか。それでも十分巨体であるが。

 王者の風格までもつこの魔獣、子供のころ読んだ絵本に出てきたぞ。

「名前は確か……」

「魔獣ベヒモスです」

 奴は俺たちとの距離100メートルのところで止まり、それ以上近寄ってこない。

 さあ始めようと言わんばかりに気合十分で待ち構えているように思える。

 望むところだ。あいつを倒せば、周囲も大人しくなりだしな。

 一歩進んだところでペネロペが後ろからぐあしと俺の肩を掴む。

「ベヒモスならば全力で魔法を使っても粉々にはならないですよね?」

「そ、それはどうかな。できれば気絶させるくらいにとどめたいけど……」

「畏まりました」

「え、え、っと、伝説の魔獣なんだよね」

 とめようとしたが、ペネロペも今自分がどれくらいの身体能力を発揮できるのか試したいのだろう。

 その最適な相手が目の前にいるとなれば、ウズウズする気持ちも分か……るわけねえだろ! 安全に守りを固めながら行きたいのが俺の信条である。

 仕方ない。いざというときのために構えるか。

「ハリー、まずそうなら介入しよう」

『みゅ!』

 さて、山麓の強者と魔法(物理)の極みの試合が始まった。

『ゴアアアアアアア!』

 ベヒモスのとんでもない咆哮に思わず耳をふさぐ。全身が音でぶるぶる震えるほどの音量だった。

 対するペネロペは涼しい顔で腕を前にして構える。

 魔法陣魔法を使おうとした構えじゃあなくて、空手とかの構え的なアレだ。魔法だと取り繕うこともやめたらしい。

 小さなペネロペに向けベヒモスが角を前に突進する。

 しかし、次の瞬間、ペネロペの姿がブレ消えたと思ったらベヒモスの頭の上にいた。

 彼女を振り払おうとベヒモスが左右に頭を振るが、角を掴んだ彼女は足元が浮く様子もない。

 その場で角を掴んだまま跳躍した彼女が腕を回すと、ベヒモスが宙に浮く。

 シュタっと地面に着地したペネロペ。

 一方のベヒモスは角を起点にグルンと宙で一回転し激しい音を立てて背中を地面に打ち付けられた。

「うわあ……」

 変な声が出てしまったよ。あの様子ならペネロペが怪我をすることもなさそうだ。

 

 ◇◇◇

 

「随分とくつろいでいらっしゃいますね」

「終わった?」

「はい、なかなかの相手でしたよ」

「なかなかの遊……いや、なんでもない」

 タフな遊び相手と言いそうになり、お茶を飲み込み言葉を濁す。

 軽く10分くらいベヒモスとペネロペがきゃっきゃとしていただろうか。彼女が怪我をすることもないだろと安心した俺は、喉も乾いてきたのでお茶を淹れくつろいでいた。ハリーはハリーで新鮮な甲虫を捕まえてむしゃむしゃしている。

 ベヒモス? 彼は暴れすぎて伏せの姿勢のまま伸びていた。あれだけ暴れたらばてるわな、うん。

 コンチネンタルバードにベヒモスがいるからか、モンスターの攻勢が止まった。

「ペネロペもお茶を飲むか?」

「いただきます」

 ふう、お茶がうまい。お、そうだ。

「街で買ったクッキーがあったよな、そいつも食べよう」

 魔道車からクッキーを出してきたぱくりと一口。お、ハチミツの優しい甘みとローストしたナッツの香ばしさが絶品だ。

 んー、フェンブレン料理はどれもこれもおいしい。明日の分くらいまで街で買った食べ物があるので、残りのものを食べるのも楽しみだ。

「ごちそうさま」

 お茶タイムを過ごしている間にもモンスターの襲撃はなかったので、魔道車を動かすことにした。

 

 その後、魔道車に乗った状態でもモンスターが襲い掛かってくることもなく奥へ奥へと進む。

 ようやく、天の大地が突き刺さっただろう辺りまで来ることができた。

「どのあたりで根をおろすかもうちょっと探索してみよう」

「そのことですがマスター。現在も稼働している魔道具があるかもしれません」

「お? 俺にはまだ感じ取れないけど、マナの動きがあるの?」

「はい、ご案内いたしますか?」

「ありがとう、頼むよ」

 ペネロペの示す方向へ進むこと30分で、魔道具の稼働しているかもしれない場所に辿り着く。

 神殿の跡地のようになっているこの場所は、崩れた石柱が円形にならんでいて中央に祭壇らしきものがあった。

 

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