第19話 なんかいろいろくるぞ
「さあて蛇が出るか鬼が出るか」
「マスターは時折理解できない慣用句らしきものを使いますね」
『みゅ』
三者三様の言葉を紡ぐ。いや、ペネロペは俺に対する突っ込みだな……。日本のことわざとなるとペネロペに通じないのも当然のこと。
独り言のつもりだったし、特に説明する必要もないか。
フェンブレンの街を出た翌日、俺たちは天の大地が落ちてできた山がよく見える丘の上で食事をとっている。
天の大地は水平を保ったまま落ちてきたわけじゃなく、先端部分を下にし、垂直状態で落ちたのだろう。地面に突き刺さった後、重みで崩れ今俺たちが見ている山になった。
山ができた経緯から地中に埋まっている魔道具は多いことが予想される。天の大地にあった建物も崩れ去っているだろうから、建材やらもこの時代だと高く売れそうだ。建材は魔法金属以外にも木材、石材にも魔法的な付与をしていることが多いからね。
「一日たってもこのサンドイッチおいしいな」
「冷凍しておけば更に日持ちするのでは?」
「冷蔵ならともかく、冷凍はおいしくなくなるよ」
「そんなものですか」
今日のお昼は街で買ったサンドイッチである。鳥ハムにレタスを挟んだもので、かかっているソースが絶品だ。
本日分として小型冷蔵庫に入れておいたから鮮度も問題ない。
ペネロペはあまり食にこだわりがないようで、食べれればなんでもいいのかも? 魔法生物だからなんだろうな、きっと。
過去の食事がおいしくなかったのって、食にこだわらない者ばかりだったから? いや、マナ枯渇により食材が限られていたからだと思っている。
サンドイッチを食べ終わり、魔道車に乗り込む。
「このまま魔道車で天の山に突っ込むよ」
「『動く小屋』です」
間違っちゃあいないけど、こういうのは雰囲気なんだよ、雰囲気。俺はあくまでも魔道車と言い張るぞ。
小屋・魔道車議論はともかく、準備確認をしとかなきゃ。天の山に挑んだ冒険者たちはほうほうの体で逃げてきたほどの危険地帯らしいからな。
この魔道車は大した防衛機構を積んでいないけど、使えるものは使おう。
「……『障壁』のチェックをしてもらえるか?」
「問題ありません。壁の材質はそのままいきますね」
「うん、『障壁』は任せるよ」
「畏まりました」
材質変換は街へ行く時、防犯のために使ったものなのだけど、材質を変えると重量も変わる。単に木が鉄のように硬くなるだけならいいのだけど、そう都合よくいかない。材質変換を併用するなら、重力軽減も併せて付与すればいいのだが、あいにく予算不足で……。そもそも、過去の時代には誰もが恐れる危険地帯なんてものはなかった。魔物もマナがなけりゃ強力になりようがないからね。
もう一方の障壁は、街で矢と投げナイフを弾いた魔道具の大型版になる。落石やこの世界にはないけど銃弾くらいなら障壁を通さない。
「まあ、だれかさんの強化パンチで破れるくらいなのだけどね」
「何か言いましたか?」
や、やべえ。口に出てた。取り繕うにわざとらしく咳払いし、上ずった声で続ける。
「いや、独り言だ。障壁で止めきれないと判断した時は警告をあげてくれ」
「……アラートを出しますね」
妙な間があったが気のせいだ。だがしかし、心臓がバクバクいっている。
敢えて聞かないでいてくれたんだよな? 「誰がとは誰ですか?」とか突っ込まれたらつい答えてしまっていたかもしれん。
口は禍の元、とは良く言ったものだ。
◇◇◇
空をかける毒々しい紫色の鱗を備えた飛竜が真っすぐ魔道車を見据える。
全長が12メートルほどと、大型に分類される飛竜だ。細く長い尻尾の先がボールのように膨らんでいてトゲトゲを備えている。毒々しいったらありゃしねえ。
「飛竜です。種族はドレッドワイバーンです」
「希少種! 倒しちゃっていいのか迷うが、やらねばらやられるな!」
天の山へ向かい始めてわずか30分の間にこれで二度目の襲撃だ。ここのモンスターは殺意が高すぎだろ!
ここでいうモンスターは猛獣程度の知性を持つものを指す。通常、猛獣ってのは縄張りに入るか空腹かのどちらかしか襲ってこないもんなんだ。
飛竜の縄張りに入った? いやいや、飛竜の行動範囲は非常に広いから俺たち以外にも獲物はいるだろ!
あいつの動き、この辺りを巡回して不審者に襲い掛かっているようにも思える。
「体当たりされれば、障壁を突破されそうです。出ます」
「あ、待って」
ドレッドワイバーンって猛毒持ちじゃなかったか?
止める声より早くペネロペが窓を開けて華麗に飛び上がり屋根の上へ行ってしまった。
『問題ありません。石を持ってます』
と遠話の魔法で脳内に語り掛けてくる。
ちいい、魔道車を止めて俺も出るか。
ガガガガガガガ!
魔道車が音を立てて止まる衝撃の中、俺も屋根の上へ。いつの間にかハリーもペネロペの足元にいた。
ドレッドワイバーンが空から魔道車へ急降下してくる!
降下と同時に挨拶だとばかりにドレッドワイバーンの口から毒々しい紫色のブレスが吐き出された。
これは障壁に弾かれ、紫色のブレスが直撃した地面と木々が煙をあげて溶け始める。
ドレッドワイバーンは速度を緩めず、牙を向き咆哮をあげ迫ってきた。
対するペネロペはバスケットボールより一回り大きい岩を振りかぶり――投擲する。
ドガアアアアン。
岩が飛竜の頭に直撃し、粉々に吹き飛んだ……。首から上を失ったドレッドワイバーンは大きな音を立て地に落ちた。
「ぶ、物理……」
「魔法です」
「いやいや、岩を投げたよね」
「(身体能力強化の)魔法です」
に、にらみつけなくてもいいじゃないか。
む。更に複数、空に敵意ある気配!
今度は全長2メートル以上もある鳥の群れが雷光を発しながらこちらに狙いを定めている。
「サンダーバードの群れですね」
『みゅ!』
サンダーバードの群れが一斉に雷撃を放つが、ハリーがその数倍のあたりを埋め尽くすほどの雷光で奴らを消し炭にしてしまった。
「ペネロペもハリーも暴れたくてうずうずしているのかな……」
「そのようなことはありません。火の粉を払っただけです」
『みゅ』
ま、まあいいや。殺意の高すぎるモンスターに対するは暴れたくて仕方ない一人と一匹ならちょうどバランスが取れてるんじゃないかな。
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