第17話 修理屋の本領を発揮するのだ

 手持ちの修理道具は出張修理時とかメンテナンス時に持ち歩くものだけ。ここまで古くなった冷蔵庫を見るのは初めてだがやることはいつもと変わらない。

 大型の魔道具は設置場所まで赴いて修理可能か見てから運び込むことが殆どなんだよね。日本でも冷蔵庫とか水道の調子が悪いとかだと修理屋さんを呼ぶだろ。

 それと同じような感じだよ。

 さあて了解をもらったのでさっそく開けてみますか。

 まずは外側から調査をする。俺の場合は設計図があり過去に修理したことのある魔道具であっても念のため調査から入る。

 取り出したるは虫眼鏡みたいな形をした魔道具。形は虫眼鏡であるが、ガラスははまっておらず薄ブルーの金属光沢な素材でできている。

「いや、道具じゃなく」

 取り出したところで何もせずそのまま袋の中に虫眼鏡型の魔道具をしまい込んだ。

 いくらでもマナを使っていいなら、魔法陣魔法でやってしまおう。魔法陣魔法なら魔道具全体を一気に調べることができるからな。

「術式構築、アナリシス。いでよ」

 光の魔法陣が紡がれ、冷蔵庫へ光が降り注ぐ。

 すると、冷蔵庫の背面に魔法陣が浮かび上がってきた。背面だけじゃなく、側面下部と中の上部にも小さな魔法陣が浮かんでいる。

「これが冷蔵庫だったか? 冷蔵庫を稼働させる魔法陣なのだな!」

「うん、魔法陣魔法と区別するために魔術回路と呼んでいる」

 興奮した様子のイデアに浮かび上がった魔法陣……魔術回路を示す。対する彼女は深く頷き、顎に手をあてる。

「言い得て妙だな」

「魔法陣は発動したらすぐ消えるけど、魔術回路は刻み込んだものだからずっと残るんだ」

 さて、魔術回路の位置は分かった。

 浮かび上がらせた魔術回路の効果時間は10分程度である。こうして魔術回路を外に投影すると魔術回路に破損があるかどうか調べやすい。

 虫眼鏡の魔道具だったら当てたところに魔術回路があればその場所だけ浮かび上がる方式なので、全体像を掴み辛いんだよな。

 虫眼鏡の魔道具の利点は安価なこと。これに尽きる。魔法陣魔法「アナリシス」と同じ効果を持つ魔道具もあるが、虫眼鏡の100倍高いから手が出なくてな……。

「おや、魔術回路はどこも壊れていないな」

「ほお、それならば動くはずだが」

「魔術回路が壊れていなくて動かない理由は一つしかない。たまに例外もあるけど」

「私にも察しがついた」

 おお、さすが魔道具屋を営み、魔道具の研究をしているだけはある。ってめっちゃ上から目線だった……反省。

「お察しの通り、魔石が原因で間違いないと思う。どこかに魔石を装着する箇所があるはず」

「それならおそらくここだ。ここがスライドするようになっている。モノを入れるには小さすぎるから、何かしらのパーツが抜けているのだと推測している」

「おお、これは探すのが手間な作りだったよ」

 電池を入れるようなくぼみは魔石設置箇所で間違いない。魔石が入っていたらマナ切れであっても魔石から場所を特定できるのだが、何もないとなるとなかなか手間なんだよな。といってもしらみつぶしに探すわけではない。魔術回路を読んでいけばだいたいの方向は分かる。あくまでだいたいってところに注意を要す。

 喜色をあげる俺とは対称的にイデアの顔が曇っている。

「やはり魔石を収める場所だったのだな。しかし、私の手持ちの魔石ではどれも合わないようだった」

「大型の魔道具は出力が。あと、この窪みにはまるものじゃないと効率が悪くなってしまう」

 魔石は電池と違って魔道具に接触させるだけでいい。なので、この窪みに入る魔石であればどんな魔石でも問題なし。複数入れても、一個でもよいのだが、魔道具は稼働させる時にマナを多く使う。始動電力みたいなものと考えていただくとイメージがつくだろうか。

「大きな魔石であれば出力が高そうであるが、窪みに収まらないといけないか。なかなかに困難なのだな」

「水晶が原料の魔石だと難しい。大型の魔道具はオパールが最適だけど……」

「魔晶石でなく、魔石の所以だな。残念ながら水晶のものしかない」

「さっき見たアーティファクト店でもたくさんの水晶製魔石があったけど、他のがなかったんだよね」

 謎だ。なんで水晶のものだけ残っているんだろう。過去において水晶製魔石が最も多かったのだが、他も少しは残っていてもおかしくないのだけど……。

 特に水晶の次に多いだろう蛍石(フローライト)製魔石が一つもないのは違和感がありすぎる。

「マスター、これを使いますか?」

「お、おお。蛍石か」

 ペネロペが手の平に乗せたるはグリーン系の蛍石だった。ピラミッド型にカッティングされた一般的な充マナ式の魔石である。

「はい、今なら魔法陣魔法で充マナできるのでは?」

「いけそうだな」

 彼女から受け取った蛍石を握り込み、術式を構築する。

「術式構築 トランスファー」

 ぼおおと手が光り、蛍石に吸い込まれていった。

 本来、充マナをするにはマナを収集し、マナ密度をあげた個室に充マナ式の魔石を置いて、充マナ用の魔道具を使ってマナを流し込む。

 これだけマナがあればマナ密度を上げる必要もないから、マナを移動させる魔法陣魔法で事足りた。

「イデア、これが蛍石製の魔石だよ」

「蛍石……フローライトだな。一見するとただのフローライトと変わらぬな」

 蛍石製魔石を手のひらに乗せしげしげと眺めるイデア。

「内包するマナが段違いなのだけど」

「確かに中に力を感じる。だが、表面に遮られマナの流れが分からぬな」

 蛍石製魔石はもちろん自然界にある蛍石そのまんまではない。中に魔術回路を組み込んでいる。

 対して水晶は自然界にあるものも中にマナを溜める性質があるが人為的にマナを流し込むことが難しい。使ったマナはマナ密度が一定値以上になれば許容範囲までは吸い込む性質と聞いている。水晶の場合は、長い時間をかけ使ったマナが元に戻るってわけだな。

 宝石だけの価格でみると蛍石より水晶の方が断然高いのだが、魔術回路を組み込むという手間があり、蛍石製魔石の方が高価なのだ。

「それじゃあ、イデア、そいつを窪みに入れて蓋を閉じてみてくれ」

「私がやっていいのか?」

 あれやこれやと試行錯誤してきたのはイデアその人である。ならば、冷蔵庫を再稼働させるのも彼女であるべきだと思う。

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