第11話 アーティファクト店
モレイラは店の場所を記すだけじゃなく、紹介状まで書いてくれた。
過去のお金しか持っていない俺たちは一文無しである。過去のお金が使えたとしても、一文無しのようなものじゃないか、って声は聞こえんぞ。
そんなわけでさっそく向かったのは雷獣の毛皮を換金できる店である。
「全部で2万ドガードって言われてもドガードがどれくらいの価値か分からんな」
「予想はつきますよ」
相場も何もわからない俺たちは雷獣の毛皮につけられた値段に対し、言い値で売却した。
状態はそれほどよくないし、多少の路銀になればいいだろって感覚だったからね。街で暮らしていく気はないし、自然の恵みで食べていくことはできる。
本来なら魔道具類に金が必要なのだけど、この時代じゃ店で必要な魔道具は望めないだろうから。
いや、アーティファクト店に行くまでは決めつけるに早いか。
お次に向かうのはアーティファクトの店だ。どんな魔道具が置いてあるのか楽しみだ。
それにしても先ほどから漂ってくる香ばしい肉の焼ける匂いがたまらん。2000ドガードあれば露店で買い食いくらいはすることができるかな?
「ん、予想がつくって?」
「はい、ドガードは金と銀の合金のようです。割合を測れば私たちの価値には当てはめることができるのでは?」
「ふむふむ。もっと手っ取り早い確認手段があるぞ。そこの肉串を買えばいい」
「単におなかが減っているだけでは?」
「き、気のせいだ。ペネロペも食べる?」
「いただきます」
肉串一本で2ドガードだった。肉の量は300グラムほどはありそうだ。
1ドガードで俺たちの時代に使っていた貨幣であるドルグマ換算すると、1.5ドルグマくらいだろうか。
円換算なら100円から200円の間くらい?
となれば2万ドガードはなかなかの金額になるな。雷獣を狩って生活することもできそうだ。
それにしても、この肉串……。
「うめえ!」
香辛料たっぷりに醤油に似たタレと肉の相性が抜群だ。肉はイノシシかな?
ひょっとしたらこの時代になると、イノシシを家畜化しているのかもしれない。俺の生まれた時代は現代日本と遜色のないレベルの魔法文明を築いていた。
あくまで科学技術を魔道具技術と比べたら、の話である。
こと食に関しては日本とは天と地ほどの差があるのだ。調味料をはじめ料理の種類、食材に至るまで、もうわざとやってんのかってほどしょぼい。マナ密度が低かったのも要因の一つかもしれない。いやいや、それでもやりようがあるだろ。だったら日本食無双すりゃいいじゃないと安易に考えたら失敗するぞ。絶対だからな。
……って誰に向かって言ってんだよ、俺。いろいろ失敗したから、つい熱くなってしまった。
それに比べこの時代は――。
「食に関しては進化しているよな」
「私は拘りませんので分かりかねます」
「マナの味? みたいなものって変わった?」
「特には」
ペネロペは素っ気ない。魔法生物たる彼女は人間に比べ料理からとる栄養が遥かに少ない。豊富なマナがあるこの時代では更に食糧の必要性が更に低くなるよな。
しかし俺は見逃さなかったぞ。彼女の耳がピクリとしていたのを。
「お、今度はあのフルーツ行ってみよう。ハリーも食べる?」
『みゅ』
肩のところまで登ってきたハリーがすんすんと俺の頬へ鼻を寄せる。
オレンジにブドウを購入し、近くのベンチでいただくことにした。ハリーはオレンジを皮ごとむしゃむしゃしている。彼の姿に頬が緩みつつも他の露天をぐるりと見渡す。
彼の好物の甲虫が売っている店はさすがにないか。草むらや木を探せばいくらでも発見できるものの、甲虫類となるといざ探そうとしたらなかなか見つからないもので……。売ってないなら仕方ないか。甲虫は日持ちするからまだまだ魔道車に積んであるのでしばらくはもつ。無くなる前に採取しとくのを忘れないようにしなきゃね。
「ふう、それじゃあ魔道具……じゃなかったアーティファクトを見に行こう」
オレンジを食べ終わったハリーの口元を綺麗にしてから、歩き始める。
◇◇◇
モレイラには二つのアーティファクト店を教えてもらっていた。一つは今向かっている街一番の大型店舗で、もう一つは小さいながらも珍しい魔道具が置いてあるとのこと。
「おお、ここか」
こいつは確かに広い。店舗スペースだけでモレイラの家より面積がありそうだ。
店内は天井が高く、種類ごとに魔道具が振り分けられテーブルの上に乗っている。商品を手に取って見ることもでき、種類が分けられているので分かりやすい。 鉄製の格子にガラスを取り付けたショーケースの中に入っているものもあって、こちらは手に取ることができない。高級品なんだろうな、あのケースの中の魔道具は。
店内には俺たち以外にも10人以上の客がおり、店員が横に張り付く様子もない。呼べば来てくれるやり方のようだな。
さてさて、どんな魔道具があるのやら。
火を起こすライター的な魔道具、体温計、気温のみ測る魔道具、懐中時計……どれも安価で流通量が多いものばかりだな。
魔石類も色んな形のものが置かれていたが、充マナ式のものが見当たらない。マナ密度が低いとマナを魔石に補充するのもなかなか骨が折れる。
そんな背景があったため安価な魔道具の多くは使い捨て式の魔石が使われていた。だからこうして、この時代にも沢山の魔石が残っているというわけさ。
数が少ないとはいえ多少の充マナ式の魔石があってもいいものだけど、謎だ。
「厳重な格子のところは何があるんだろう」
「コンロですね」
「こっちはライト(灯り)だな」
「日用品のショーケースのようですね」
コンロやフロアライトといった魔道具がそれぞれ赤いクッションに乗って展示されていた。
お値段は……。
「たっか……」
一口コンロは日本の家電で近いものは一口のIHクッキングヒーターかな。なんと、お値段10万ドガードでござるよ。1ドガード100円として1000万だぞ。1000万のコンロとかありえん。元の時代と比べても1000倍くらいの値段になる。
貝殻に電球を乗せたおしゃれなベッド脇用のフロアライトも5万ドガードととんでもない価格設定だった。
時代の経過って恐ろしや、恐ろしや。
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