第10話 フェンブレンの街

 街の中は遠目で見た時の想像通り、これぞ剣と魔法の世界って感じの街で大満足である。

「街並みは……さ」

「何かおっしゃられましたか?」

 隣を歩くペネロペがコテンと首を傾げ尋ねてきた。単なるボヤキだったので、セリフを拾われるとちょっとばかし気恥ずかしい。

 いやいや、と自分の恥ずかしさを誤魔化すように小さく首を左右に振る。

 そんなアンニュイな俺の横を鎧姿の兵士らしき男が通り過ぎた。反対方向からは大斧を背負った髭もじゃの冒険者とローブ姿が談笑しながらこちらに歩いてくる。

「やっぱ、気のせいじゃないよな」

「何か懸念が?」

「物々しい人が多くない? フェンブレンの街が冒険者の一大拠点になっていたりするのかな?」

「私には冒険者というものがよくわかりません。職業名なのですか?」

 おっと、ペネロペは冒険者というものに馴染みがなかったか。

 俺もモレイラから冒険者という単語を聞いて勝手に想像しているに過ぎないけど、きっと合っている。アーティファクトを集めに行っていると聞いたし。

 俺の想像した冒険者とは、前世の知識によるものだ。

 といっても日本には冒険者なる職業は一般的ではない。ファンタジーな小説や漫画で登場する「冒険者」をイメージしている。

「冒険者は街の便利屋みたいな感じで、街から集まってくる依頼をこなして金銭を得る仕事って感じかなあ」

「魔道具も魔法陣魔法もなく、マナで元気いっぱいのモンスターが、となりますと、流通が滞ります。そこに冒険者が活躍できる素地があるのですね」

「そんなとこかな」

 あくまで俺の想像する冒険者だけどね。実際は違うのかもしれない。たぶん、だいたいあってるはず。

 ぼーっと街の様子を眺めていてが、そろそろか。

「モレイラの店は確かここを右だっけ」

「大通りを進み、三本目を右に折れ、三件目と聞いております」

 モレイラ父子は馬車だったから、街の入口で先に進んでもらうことにしたのだ。

 俺たちの魔道車は丘の上に置いてきたから、こちらは徒歩になるし。

 入口で門番に止められるかも、と思ってモレイラと共に入ったが、門番は特に俺たちへ注目することもなく素通りだった。

 門をくぐった順はまずモレイラ父子の馬車、次に俺とペネロペ、それとハリーである。

 万が一呼び止められるようなことがあったら、モレイラがフォローしてくれるようにしていた。

 この分だと、特に注意することもなく次から俺たちだけで街に入ることができそう。

 ええと、右に曲がったぞ。

 一、二、三……あれかな。

「あの青い屋根がモレイラさんのお店かな」

「おそらくは」

 漆喰の白にオレンジ色のレンガの模様がいい味を出している。看板は黒猫をイメージしたものらしく、猫の目とくるんとした尻尾が愛らしい。

 店の名前は「ティーラン修理店」と描かれていた。長い年月が過ぎても文字が同じだったことはありがたい。

 言語も全く同じだったものな。それで遥かな未来にきたことを確信できるまで時間がかかった。

 ところどころ単語の意味合いが異なるから、言葉が通じるからといって意味を確認しないと大きな勘違いを生んでしまう。

 魔道具関連や魔法に関しては特に。

 それじゃあ、さっそくお店に入ってみようかな、としたところで家の裏手から回り込んできたらしいダリオの声が耳に届く。

「ケンイチさん! ペネロペさん!」

 ダリオが店の扉を開けてくれて、中に入れてもらった。

 店はカウンターと椅子、テーブルが2セットあり、壁に備え付けられた棚に鍋などの調理用具、壁にはクワなどの農具が立てかけられている。

 修理用のサンプルなのか、と思ったが値札がついていることから整備した道具も売っていることが分かった。

 武器もあるのかな、と見渡すも刃物は包丁くらいしか見当たらないな。

 あれだけ多くの兵士や冒険者が歩いていたから、武器や防具の修理依頼は結構ありそうだから、販売していないだけで修理のみなのかも?

「ここに座って、お水もってくるね!」

 言いながらパタパタとカウンター奥にダリオが引っ込んでいった。

 カウンターの奥から先は居住スペースぽいな。外から見た感じ二階建てだったので、一階奥は工房で二階が寝室とかなのかも。

 魔道具が発達していれば二階にキッチンを持ってこれそうだけど、炊事洗濯は一階で間違いない。厩舎まであるし、家屋には十分なスペースがある。

 一階に工房と炊事選択の場が集中していても、特に窮屈さを覚えることもなさそうだ。いいなあ、広い家って。

 俺の店はモレイラの店の半分の広さもないんだもの。それでも、ペネロペが整理整頓してくれていたから、修理中の魔道具が散乱している、ってことはなかった。

 俺一人だとモノで溢れかえり、廃業していたかもしれない。よくもまあ、俺のような修理店でペネロペが働いてくれていたものだよ。

「何か?」

「いや、なんでもないよ」

 自然とペネロペへ視線がいっていたらしい。眉を一ミリも動かさずに「何か?」はちょっと怖いってば。

 人間基準だと不愛想なのだけど、彼女の種族は表情があまり動かない種族なので、俺に冷たい視線を送っているってわけじゃないのだ。ないよね?

 少しばかり不安になったところで、カウンター奥からダリオではなくモレイラが息をきらせて登場した。

「お待たせしました!」

「お水持ってきたよ」

 モレイラの後ろからひょっこりと顔を出し、お盆を掲げたダリオがにひひと笑う。

 彼も帰ってきたばかりで荷ほどきとか、店の準備で忙しいだろうから手短に聞くとしよう。

「雷獣の毛皮を売ることができる店とアーティファクトを取り扱う店の場所を教えていただけますか?」

「毛皮を扱う店はここがおすすめです。アーティファクトはこことここ、が」

 モレイラはサラサラとモレイラの店、大通りを描き、店の位置に丸をつけてくれた。道中で店の位置を教えてほしいことは伝えていたのだけど、場所は実際に街に入ってからの方がよいと思ってさ。事前に今みたいに場所を描いてもらっても、ここで再度聞いていただろうから。それに、大通りを歩いてきたから、距離感もイメージがつく。

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