第14話「衝撃の再会」

 店に戻ると、早速ユアはピーマンの肉詰め作りへ移った。

 こうや、とびら、ディンフルに開店準備を任せている間に順調に進み、短時間で完成した。途中、ピーマンと肉が離れるという肉詰めあるあるのハプニングがあったが、何とか乗り切った。



 開店し、ユアととびらが店先に立って一時間ほどすると、お客さんが入って来た。

 その者は、先ほど一緒にリンゴを拾ってくれた通行人の男性だった。二人は大喜びで彼を出迎えた。


「いらっしゃいませ! 早速来てくれたのですね!」

「あの、少々お尋ねしたいことが……」

「何でしょう?」

「すいません。盗み聞くつもりはなかったのですが、お二人の会話で気になる人物の名前があったので……」


 男性が続けようとすると、オプダットとティミレッジが騒がしく店の入口から入って来た。

 二人は弁当屋の世話にもなっているので、客用の入口ではなく勝手口から入らなければならない。ティミレッジが店の外からオプダットに注意をする。


「関係者だから、前から入っちゃダメだよ!」

「前から入るなってことは、“後ろ向きに入れ”ってことか?」


 解釈違いをするオプダット。

 ティミレッジがすぐに訂正しようとすると、待たずにとびらが「そうなるよね」と共感した。


「わかってくれるか、とびら?! 今のティミーの言い方じゃ、そうなるよな?」

「うん。私も後ろ向きに入っちゃうかも」


 オプダットにまさかの理解者がおり、「僕が悪いのか……」と落胆するティミレッジをユアは慌てて慰めた。

 その様子を、店に来た男性は興味深そうに見ていた。


「……ティミーと、オープンか?」


 名前を呼ばれ驚いた二人は、男性客を不思議そうに見つめる。

 そこへ厨房から、出来上がった料理を持ってディンフルがやって来た。合流した図書館組を見て「何をしている?」と声を掛ける。


「ディンフル?!」


 男性は怒鳴るように彼の名前を呼ぶと、帽子を外した。燃えるような赤色の一つ結びの髪があらわになった。

 正体はイマストファイブの主人公・フィトラグス。彼はディンフルに向かって険しい表情を浮かべていた。



「あぁーーーーー!!」



 まさかの人物に、ユア達は揃って悲鳴のような声を上げた。


「フィットじゃん! お前も来てたんだな?!」

「良かった~! 無事だったんだね!」


 明るく喜ぶオプダットと半泣きになるティミレッジだが、フィトラグスは再会の喜びをわかち合う気分ではなかった。


「“無事だったんだね”じゃない!! これはどういうことだ?! お前ら、何でディンフルと一緒にいるんだ?!」


 ディンフルと自分達は敵同士。

 弁当屋と図書館が忙しかったため、ティミレッジとオプダットはすっかり忘れていた。


「こ、これには理由があって……」

「わけあって、一緒に弁当屋と図書館で働くことになったんだ」

「その”わけ”を言え!!」


 焦りながら答える二人へさらに詰め寄るフィトラグス。


 一方でユアは、憤る彼に構うこと無く、感激の声を漏らした。


「生フィットだ……! ディンフルとのツーショットをこの目で見られるとは~!」

「俺を知っている……? 君は先ほど会ったが、自己紹介はしていないはず?」

「わ、私、ユアと言います! “イマジネーション・ストーリー”、略してイマストの大ファンなんです!」


 フィトラグスが素顔を現してから初めて言葉を交わし、ユアは興奮しながら自己紹介をした。


「”イマスト”って……?」

「僕らの戦いが、異世界でゲームとして出てるんだよ。ユアちゃんは僕らの作品のファンなんだ」


 イマストがわからないフィトラグスへティミレッジが解説した。


「ゲーム?! 俺らは、こいつに故郷を奪われたんだぞ! 何で娯楽扱いされてるんだ?!」


 フィトラグスはディンフルを指さしながら言った。

 家族だけでなく国の民も奪われるという辛い事情が、異世界では楽しみの一つになっている。怒りは当然である。

 再び激昂する彼をオプダットがなだめ始めた。


「まあまあ。お前も気付いているかもしれないが、この世界では魔法が使えない。ディンフルもそうなんだ」

「だから?」


 聞き返すフィトラグスに、ティミレッジが付け足した。


「フィーヴェに帰れないのは、僕達もディンフルも一緒なんだよ。だから今、異世界へ飛べる本が出て来るのを待っているんだ」

「本?」


 フィトラグスは異世界へ飛べる本についても初耳だったので、その説明もしなければならなかった。


「行き先はランダムだけど、異世界へ飛ばしてくれる本があるみたいなんだ。僕らも魔法が使えないし、それを使わないとフィーヴェに帰れないと思うんだ。今は見つかっていないから、敵味方関係なく、お世話になっているお店を手伝いながら待っているんだ。つまり、休戦中だよ」

「……へーえ。仲間だと思ってたのに、寝返ったか」

「ち、違うよ! ディンフルも今のところ協力的だし、本の情報を最初に持って来たのは彼なんだ! 後から来た僕達は、藁にもすがる思いで乗っただけだよ。別に寝返ったわけじゃないから!」


 さらに説明するが、フィトラグスはどうしても納得がいかなかった。


「寝返ったつもりじゃないなら、ディンフルと一緒にいることに抵抗はないのか?」

「最初はあったけど、今はそんなことを言ってる場合じゃないし……」


 ティミレッジは怖じ気つき、最後へいくにつれて小声になった。


「俺はないぜ。むしろ、ラスボスと主役側が共同作業って感動しねぇ?」


 逆にオプダットは堂々と答えた。


「しない! お前は前から言ってたよな? “ディンフルとも仲良く暮らせる世界にしたい”って戯言たわごとを!」

「でも、ディンフルも話せば、わかってくれると思うぞ!」


 ここでようやくディンフルが話に入って来た。


「わからぬ。そのぐらいでわかり合えるなど甘すぎる! お前らのような下等と一緒になるつもりはない!」


 フィトラグスは冷静に捉えた。


「やっぱりな。こんなのでも仲良くしたいのか、オープン?」

「あれ? 昨日はもう少し優しかったはず……?」


 まだ一晩だけだがラスボスとトラブルなく過ごせたので、彼の否定にオプダットは動揺した。

 ティミレッジが呆れながら指摘する。


「ディンフルが人間を嫌ってるの、知ってるでしょ……?」

「でも、ユアとは仲がいいじゃん」


 オプダットの指摘にユアは顔を赤らめた。


「照れるな!! 店の為にお前の尻拭いをしているのだ! 戯れてなどいない!」


 ディンフルは精一杯、否定し続けた。

 やりとりを見たフィトラグスは「ディンフルが、人間が経営する店の心配を……?」と心の中で驚く。

 そして、世界を脅威に陥れる彼に対し照れるユアが信じられなかった。


「君。俺らの戦いを知っているなら、事情も知ってるよな? ディンフルがどれだけ悪人かも」

「え? まぁ……」


 ユアがやや押され気味に答えると、横からとびらが話に入った。


「ユアはディンフルのことが好きなんだよ!」


 空気がさらに変わった。

 ティミレッジは「余計なことを言ったな……」と思い、フィトラグスは今度はユアへ怒気を向け始めた。


「ディンフルが好きだと?! 俺達の故郷がどうなったか知ってるんだよな?!」

「す、好きだけど、フィットのことも気の毒に思ってるよ……」

「ウソをつくな!!」


 おどおどし始めるユアに向かって、彼はさらに怒鳴った。


「異次元へ送られた人達は今どうなっているかわからないんだぞ! 命が掛かっているんだ! もしや、世界征服に手を貸したりしてないだろうな?!」

「し、してないよ!」


 疑わしく思われたユアが否定すると、続いてティミレッジとオプダットも「ユアちゃんは関係ない」、「ディンフルが好きなだけでただの人間だ」と彼女を庇った。

 ディンフルも否定に加わった。しかし、先の二人と違ってユアを庇う様子は見られない。


「冗談じゃない。世界征服の手伝いなら、もっとまともな奴を雇っている。私がここにいるのは、異世界へ飛ぶ本の為だ! 魔法を使えぬ現状では他に手がないし、店の手伝いなども好きでやっているわけではない! 勘違いするな、人間共め!」


 ユアは「またいつものツンデレだ」と思ったが、それにしては言い方がきつすぎる。

 ディンフルはさらに続けた。


「この女もお前の仲間も、魔法が使えればとっくに消している! 特に女の方は、初日から付きまとわれて鬱陶しかった!」


 続けて、ユアに向かって言い放つ。


「この一週間、手を貸す羽目になったが、お前の為ではない! 何故、人間を癒さねばならぬ?! 奴らの愚行は星の数ほど見て来た故、お前も信用出来ん! 大嫌いだ!」



「大嫌い」……面と向かってはっきりと、それも推しから言われてしまった。

 ユアの頭の中は真っ白になった。

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