第4話 逃走失敗





「ん、うっ……」


 頭痛っ。え、なに、どうなったんだっけ?


 確か会場から出て、着替えていたところで……そうだ、逃げてる途中で何故だか知らんけど『サリア』に捕まったんだった。


 サ、サリアったらちょっとおてんばが過ぎるんじゃないの?


 と、とりあえずさっさとここから逃げ出して……


「ん?な、なにこれ」


 手を動かそうとしても動かせず、上を見ると、両手にガチャガチャと音を立てている拘束具みたいなのが繋がっていた。


 しかも結構しっかり繋がれているらしく、両手足とも動かせない。


 困惑したまま辺りを見渡すと、壁はコンクリートで覆われており、まさに独房というに相応しい場所にいた。


 床にはふわふわのカーペット一枚で、私は壁を背に座らされている状態だった。


 それだけなのに部屋は妙に暖かいのが、より一層気味悪さを際立てていた。


「な、な、嘘でしょ。」


 血の気がサーッと引いていく感覚がする。


 吊り上げられている腕が、痛覚が、実際に起きている事だと訴えてくる。


 地獄でしかない現実に困惑していると、前の方にあったドアからサリアが入ってきた。


「あら、起きてたのね」


「ちょっと、サリアこれ何なのよ」


「………芝居はいいよ。あなた、リリスじゃないんでしょ」


 な、何……?こいつ私がリリスじゃないって知ってるって事は、私が転生者だって気づいてるってこと……?


 そんな事、あり得るの……?


 信じたくないけど、こんなストーリーじゃ絶対にありえないことをされたら、信じる他なかった。


「………だったら、何なの」


「あら、あっさり認めるのね。ま、その方が話早いからいっか。」


 とか言いながら、サリアは私を見下ろしている状態から、四つん這いになってジリジリ近づいてきた。


「な、なに?」


「私、あなたの性格結構好きなの。だから付き合ってよ」


「は?」


 な、何を言ってるんだ?全く意味がわからない。


「ちょっとおてんばが過ぎるんじゃないの?遊びならいくらでも付き合ってあげるから拘束これ解いてよ」


「………現実逃避、ね。ま、普通の反応じゃないかしら。一応言っておくけど、私も転生してきたのよ」


「は???」


「どういう仕組みかは私も分からないけどね。その話は後にしましょ?私は今、告白の返事を聞きたいのよ」


 いやいやどう考えてもあんたの付き合いたい云々よりもそっちの方が重要でしょ。


 この世界に居すぎておかしくなったんじゃないの?


「で?付き合ってくれるかしら?」


「………嫌、に決まってるでしょ」


 イカれ女を睨みつけてそう言ってやると、目を細めてニヤニヤと気味の悪い笑顔を向けてきた。


「やっぱり私が見込んだ通りね。ますます欲しくなちゃった」


「は……?……んっ!?」


 急に距離を詰めてきたと思ったら、イカれ女は、私の顔を抑えつけてキスをしてきた。

 

「んうぅぅ!?ん、んぶ!?」


 首を振ってもがくも、更にガッチリ顔を押さえ込まれて、挙句、いかれ女は強引に舌を入れてきた。

 苦しい。はずなのに、頭が蕩けていくような感覚に溶かされて、心地が良いと思ってしまっていた。


「ん、ぇ……」


 視界がボヤけ始めた所で、イカれ女は名残惜しそうに舌を引き抜いた。


「ね?別に痛いことしたい訳じゃないのよ。これからは私は面倒見てあげるからさ、ここにいてよ」


「……はっ、い、やだよ」


 こんな奴とこんな所でこれから過ごすなんて、絶対に嫌だ。


 イカれゲロ女はあんな事しておきながらクスクスと笑い、部屋を出て何処かへいった。


「はぁ、はぁ。早く、逃げないと」


 イカれ女が出ていった所で、どうにか逃げ出せないかと辺りを見渡す。

 

 私が女にディープなキスされた程度で折れると思ったら大間違いだ。

 

「ん、ぐ、あと、ちょっと」


 とりあえず趣味の悪い手枷をどうにか出来ないかと、腕を捩ったところ、結構外れそうだったので今奮闘中である。


「っ、はぁ、よし、外れた!」


 ガチャ

 

「あ?」


「何してるの?外しちゃダメじゃない」


 タイミング悪く、手枷が外れたところでちょうどイカれ女が戻ってきてしまった。


 身長的に『リリス』の方が『サリア』より小さいんだよね。正面突破でいけるか?


「そこ退いてくれない?」


「退くわけないじゃない」


「あっそ。じゃあ力づくで行くし」


 イカれ女を睨みつけるも、ニヤニヤとアホ面を向けてきている。

 立ち上がり、一歩踏み出した途端。


「んぃっ!?な、なにこれ!?」


 ガチャンと壁からさっきと同じ手枷が飛び出てきて、また同じ場所に座らされた。

 

「私がこのくらいであなたが折れると思ってるわけないでしょ?どんだけ逃げようとしても無駄だからね」


「ひ、ぅ……」


 明るい笑顔から、途端に変わったオーラで圧をかけられて、強張らせていた体を縮こませる。

 

「怯えないで?さっきも言ったけど、別に痛い思いをさせたい訳じゃないの。ただここに居てくれるだけでいいの」


 それが嫌なんだよ。なんて言えるわけもなく、黙って頷くと、イカれ女はパァッと明るい笑顔を浮かべた。


「嬉しい。じゃあご飯持ってくるから待っててね。」


「……はい」


「言っておくけど、逃げるのは無駄だからね」


 そう変な釘を刺して、私の頭をポンと撫でながら独房を出ていったイカれ女。


 私が、諦めるわけないじゃん。


 




〜ずぼら転生女のわちゃわちゃ脱走劇〜


【続く……?】


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