第3話 脱出





 やっと、地獄みたいなダンスの時間が終わった。もう二度とやりたく無い。ただでさえ運動音痴なのに。

 

 でもまぁ、いい時間稼ぎにはなった。そろそろ夜が訪れる。


 外は空が暗くなるにつれ、人々の賑わっている声が聞こえてくる。


 なんだ?今日は舞踏会でもやるのか?そんなイベント、この乙女ゲームにあったけ?


 ま、何だろうが私には関係ないけどね。


 メイド達にキラキラのドレスを着せられ、リナと私は馬車で会場に向かっていく。


「姉様、変なこと企んでたりしませんよね?」


「え、な、何を言うのよ。な、そんな、変なことなんてするわけ無いじゃない。」


「本当ですか?信じますよ」


「え、えぇ。信じてちょうだい」


 何この子。めっちゃ勘鋭いじゃん。リナの前では変な挙動見せないようにしないと。


 開始早々バレかけた事に肝を冷やしながらも、二人で会場へと向かっていった。






***




 いざ会場についてみて分かったのだが、結構広い。これならいくらでだって抜ける隙はできそう。


 ついでに悪い知らせが二つ。今日のセレモニーは、王子『アルガ』と姫『サリア』の二人も来るらしい。


 この辺りはゲーム通りだ。


 そして今日のセレモニーは、リナが主役の、なんだっけ。司会者が変な顔してて耳に入ってこなかったんだよね。


 ま、いっか。んな事どうだっていいし。


 私は、リリスは案の定周りから嫌われているから、誰もよってこないし、誰かに気づかれる心配はしなくてよさそう。


 逃げる時の服は、寝巻きの中で番マシなやつにした。

 そんで荷物だけど、めんどくさくなったから結局何も持たずに逃げる事にした。


 ま、私ならどうにかなるでしょ。


「公爵様。わたくし少々席を外しますわね。」


「あ、あぁ。」


 なんだ?そんなキョドらなくたっていいのに。

 あ、もしかして王女がわざわざ公爵に外出る許可貰うのはおかしいとか?

 

 正直地位とか全く分からないし、この異世界乙女ゲームもそこまでハマってた訳じゃないから分からない。


「はぁ、態度悪い奴多くてほんとやんなっちゃうわ」


「………」


 極力目立った行動を見せないように、使用人が運んでくる料理をつまみ食いしながら出口へと向かっていく。


 思ったより楽勝。あとは何処で着替えるかだよね。まぁそこら辺の草むらでいっか。


「リリス王女。どちらへ行かれるのですか?」


「あ?あ、あぁ。ちょっと酔いを覚ましに夜風をあびてくるわ」


「承知しました。どうぞお気をつけて」


 警備のやつらも難なく潜り抜けて、そそくさと会場を出ていく。


 くる時に潜った無駄にデカい門を抜け、大体5分くらい歩いた所で足を止めた。


「さっさと着替えよっ」


 なんか怪盗ごっこしているみたいで結構楽しい。


 着替えた後、これからどうしよっかな。とりあえず下の方に村があった気がするから、そこまで行くか。


 手際よくパッパとドレスを脱いで、ドレスに隠していたネグリジェみたいな寝巻きに着替える。


 ふぅ、やっぱりドレスよりも身軽な格好の方がいい。少し寒いけど。


 着替え終わり、草陰から頭を出して、キョロキョロと辺りを見渡す。


「よし、誰もいない。」


 何故だろう。すっごい心臓がバクバク鳴ってる。

 

 ま、ゲーム上イケナイ事をしているんだから、無理もないか。この体は元々『リリス』の物なんだし。


 ワンチャン死んだら生き返れるとか無いかな。


「何、してるのですか?」


 ごちゃごちゃ考えながら、草陰から出たところで後ろから人の声がして、ビクッと体を強張らせる。


 終わった。嘘でしょ。ここまで順調だったのに?


 いやいや、何を諦めているんだ。


「なんでも、ないです!」


 確実に手遅れだとわかっていながらも、私はそのまま話しかけてきた人に吐き捨てるようにそう言い、全力で走り出した。


「んぐぇ!?」


 モタモタ走り出した所で、前にいた誰かにおもいっきしぶつかって転んでしまった。

  

 その拍子にお尻をぶつけて、痛みに苦しむ。


いったいんですけど!??」


「そんな慌てて逃げるからですよ。リリス様」


 後ろからカツカツとヒールの音を立てながら近づいてきたのは、あの、主人公にして隣国の姫の『サリア』だった。

 

 な、なんで!?


「リリス様。嫌でしょうが私と一緒に来てもらいますよ」


「いやいや。ってちょ……!?」


 講義を唱えようとしたところ、私がぶつかった奴に後ろから羽交締めにされた。


「離せ、って、んぐぅ!?」


 バタバタ暴れている私の口に、サリアは布切れを押し当ててきた。


 これじゃ息が、出来ない。


「ん、んぅ……」


「ここはもう、あなたの知る王国ではないのですよ」


 ぼやけていく視界の中、サリアの口が動いていたけど、私にサリアの声はもう、聞こえなかった。

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