第2話 脱出準備





「さぁ姉様。今日の夜のセレモニーに向けて、これからダンスを練習しに行きましょっか」


「えー。私ダンスとか嫌なんですけ……」


 ん?ちょっと待てよ。ここで逃げる時のルートとか見つけておかないといけないよね……。


 だって、私〝今日〟逃げないといけないんだし。


 何持っていけばいいんだろ……?意外と何も持たずに逃げても、普通に食い繋いでいけたりするのかな。


 その辺は後で考えるにせよ、やっぱり夜に逃げるのは確定だ。


 何のセレモニーかは知らないけど、夜にやるっぽいし、そこに警備が寄るだろうから、その隙を利用して逃げ出そう。


 服は、とりあえずドレスは論外だから、スリムな動きやすい服とか無いかな。


「あの、ドレス以外の服ってある?」


「な、ないですよ?奥様。」


 おう、まじか。じゃあ一番マシな寝巻きで行くしか無いじゃないの。


 早速逃げ出すための準備を始めながら、リリスの妹『リナ』に嫌々ドレスを着せられ、部屋を出る。





 ***



「ちょっと姉様。ダンス下手すぎませんか?こんな下手でしたっけ?」


「うっさいわね。やってるあげてるだけ感謝しなさい」


 このドレスがマジで邪魔すぎる。どうして貴族とか王女はきたがるのか本気で理解ができない。


 さっきから『リナ』も舐め腐り始めてきているし。


 ………落ち着くのよ私。相手は年頃の純粋無垢な女の子。冷静に、気品なリリスになりきるのよ。


「姉様違いますって。こっちですよ」


「チッ。もうやってらんないわ。外に出てますので。」


 ダメだ。元のリリスよりも態度が最悪になってしまっている。


 妹も使用人もドン引きしてしまっているし、さっさと外へ行って逃げるルートを探しに行こう。



「ふぅ、さてと。何処か抜け道はないか探しておくかしらね」


 一人で外、というよりもだだっ広い庭に出て、逃げ道を詮索し始める。


 ゲーム内では主人公の『サリア』しか殆ど映ってなかったから、こうして他キャラの邸を見るのはゲームの裏側を見ているみたいで結構楽しい。


「お、この木からならワンチャンよじ登って……」


「リリス様?何してるのですか?」


「うぶし!?!?」


 肩をちょんちょんと叩かれ、変な声を出しながら、後ろへ飛び跳ねる。


 はぁ、はぁ、心臓止まるかと思った。誰!?


「ふふ。面白い方ですね。」


「はぁ、なんで、ここに……」


 クスクスと笑いながら、イタズラな顔をして私を見つめてきた女は、なんと、このゲームの主人公『サリア』だった。


 おてんばだけど、お姉さん味に溢れている『サリア』生で見ると、美人すぎて思わず息が詰まる。


 て、てか、なんでここにサリアがいるの!?

 

 ゲーム通りで行くと、今頃サリアは王子とイチャイチャしている頃なのに。

 

 もしかして私がゲーム通りに動いて無いから、ゲーム自体が狂っちゃったとか……?


 まずい、それはまずい。狂い初めているのなら、私が毒で殺されるかも分からなくなるかもしれない。


 ダンス、は嫌だけど、ここは邸に戻るしか無い。


 そういや、リリスってそんなにサリアと接点なかったはず。


 強いていうなら、リナのセレモニーの時にサリナがリリスに話しかけてたくらいだろうか。

 

 つまり、私の記憶通りだと、セレモニーの時はサリナにも気を付けないといけないのか。



「そ、それじゃ姫様。さよなら」


「もういっちゃうんですか、ま、今日また会えますし、いっか」


 なんかサリアらしく無い言い草をしていたけど、多分私が関係しているはずだ。


 無愛想にしている私にもニコニコと笑いかけているサリアに変な違和感を覚えながらも、私は足早にリナの所へと戻っていった。





 

 

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