〜ずぼら転生女のわちゃわちゃ脱走劇〜

ダイダライオン

第1話 脱出計画 





「ちょっと奥様、起きてください。」


「ん……あ……?」


 いつも通りクソうるさい目覚まし時計に起こされたのかと思ったのだけど、女の子の声が聞こえ慌てて飛び起きる。


「は……?あんた誰……?」


「ちょ、ちょっと奥様……?ど、どうなさったのですか…?」


 隣に居たかと思いきや、私がそう言うと泣きそうな顔をして慌てて部屋を出て行ったメイド。


 な、なに?どうなってるワケ?てかここ何処よ?


 あ、もしかして、仕事に疲れすぎてついに幻聴とか幻覚が見えるようになっちゃったパターン?


 ………なーるほどね。とりあえず、二度寝しよ。


 信じたく無い現実を見ないように、目を閉じながら無駄に広いような気がする布団に潜り込む。


 寝起き、という事もあって、早い段階でうつらうつらし始めた。


 ………ところで、誰かに急に腕をグイッと引っ張られ、ベッドから投げ出された。


「こら!姉様何してるのですか!今日は私のセレモニーがあると言ったでしょう!」


「は、え……?」


 腕痛っ。え、ど、どちら様で?セレモニーって何の話?


 寝起きで回らない頭を働かせ、状況を整理し始める。

 

 まず、私の部屋では無いことは間違いない。


 さっきから私を奥様というメイド服の女と、姉様呼びしてくるキラッキラの赤ドレスを着た女の子。

 

 妙に洒落た室内を見て、嫌な予感がし、慌てて立ち上がりながら横にあった鏡を見る。


「う、そ、でしょ……?」


 そこに映っていたのは、私の顔、ではなく、昔好きでやっていた異世界乙女ゲームの、悪徳令嬢と言われる『リリス』が映っていた。


 確かリリスは、王子だっけかが好きだったんだけど、王子は隣国の王女『サリア』が好きで、それに嫉妬したリリスが使用人に当たって——……とかっていうストーリーのゲームだったはず。

 

 あぁそっか、だからさっきから使用人達がビクビクしているのか。


 そういえば、最後は普通に王子と隣国の姫が付き合って終わるんだったけ。

 

 ……あれ?リリスは、最後どうなるんだっけ?


 あぁそうだ。そうだ。リリスの暴虐に耐えられなかった使用人に毒盛られて、早い段階で死ぬんだった。




 ……………。






 ………………。






 え。ちょ、私死ぬってこと?


 しかも、さっきリリスの妹『リナ』がセレモニーとか言ってたよね?えっと、リリスが毒を飲んで死ぬのは……え、きょ、今日?


 リリスが死んだ日にはリナが関係していた気がするから、多分、今日だ。


「うわぁぁぁぁ!ちょ、誰か助けてぇ!?」


「ね、姉様!?」


「どうなさったのですか奥様!?」


「あ、いや、何でもない、わよ………」


 危ない危ない。お淑やかに、リリスになりきるんだ自分。


 よくよく考えれば、死に方を知ってるんだし避けばいいだけのこと。

 口に食べ物を入れさえしなければ、毒で死ぬわけないし。


 でも……それで死ななかったとしても、もし別の方法でまた殺しに来られたら?



 そうなったら、もう対策できない。



 

 ………うん。逃げよう。仮に生きられたとしても、王女の狭苦しい生活に耐えられる気はしないし。


 何処かの家に住んで、普通の庶民になって、普通にくらそう。


 絶対死なずに逃げ出す。そう決心して、私の脱走計画は始まったのだった。

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