一人の研究者が博士に尋ねた。

「そもそも、どうすれば時空を超えることができるか?」


博士は答えた。

「音を追い越すには?  A:音速を超える」

「光を追い越すには?  A:光速を超える」

「時空を超えるには?  A:時間の速さを越える」

「すなわち、『時間の壁』を超えなければいけない」


博士が、また理解できないことを言い出したと、研究者たちは思った。

しかし、博士の研究ではよくあることである。

研究者たちはいつもどおり、理解はできないが納得することにした。

なぜなら、博士がそう言ったからだ。

何も問題ないのである。


また、一人の研究者が博士に尋ねた。

「『時間の壁』を超えるということは、時間の先に行く、すなわち未来。

 過去には行けず、一方通行、博士は元の時代に戻る事ができない。

 その手段はあるのか?」

「無い」と博士は答えた。

人類は恐れた、博士がこの時代からいなくなるのだ、その損失は計り知れない。

誰かに変わることができないのかと、多くの人が願ったが、聞き届けられることはなかった。


そもそも、博士は自分が『タイムトラベル』したいのだ。

誰かに代わってもらう気など、微塵もなかった。

過去だろうが、未来だろうが、時空を超えたいだけなのだ。

戻ってこれなくても何も問題はないのである。


次は『タイムマシン』の速度と強度だ。

どのような技術とエネルギーであれば『時間の壁』を超える速度を出すことができるのか?

どのような技術と物質があれば『時間の壁』を超える速度の衝撃に耐えることができるのか?

現在の技術・エネルギー・物質では、光速を超えること、また、その衝撃に耐えることすらできない。

新しく、その技術とエネルギーと物質を開発するしかなかった。


だが、これも博士によって解決されていた。

『ダークエネルギー』と『ダークマター』である。

今だ観測すらされていない、未知のエネルギーである。

博士はすでに、この未知のエネルギーを、観測、制御し、利用できるようにしてた。

ちょっと何言ってるか分からないと、研究者たちは思った。


研究者たちは、なぜ未知のエネルギーが利用できるのかと思った。

博士曰く、

『観測できれば知ることができ、知ることができれば理解でき、

 理解できれば干渉でき、干渉できれば制御できる』らしい、

研究者たちは、博士の言葉をめずらしくなんとなくだが理解できた。


そもそも『ダークエネルギー』と『ダークマター』とは何か?


『ダークエネルギー』またの名を『暗黒エネルギー』といい、

宇宙全体の、エネルギーのうち、約70%を占めるとされる、未知のエネルギーのことで、

宇宙全体に浸透し、宇宙の膨張を加速していると考えられる、仮説上のエネルギーである。


『ダークマター』またの名を『暗黒物質』といい、

宇宙全体の、エネルギーのうち、約27%を占めるとされる、未知のエネルギーのことで、

光などの電磁波で観測できない未知の物質を指す言葉で、

天文学的現象を説明するために考えられた、仮説上のエネルギーである。


博士は、『ダークエネルギー観測機』を使い、『ダークエネルギー』とは、

『ビックバン』発生による、宇宙の膨張に、つかわれなかったエネルギーであること。

『ダークマター観測機』を使い、『ダークマター』とは、『ダークエネルギー』と、

宇宙空間の干渉により発生したエネルギーであること。


『ダークエネルギー制御装置』を使い、『ダークエネルギー』は『タイムマシン』の推進力に、

『ダークマター制御装置』を使い、『ダークマター』は『タイムマシン』の障壁に利用できること。


そして、『ダークエネルギー』使い、『時間の壁を』超える推進力を生み出す『タイムマシンアクセラレーター』

『ダークマター』を使い、障壁を発生させる『タイムマシンバリアー』を開発していた。


研究者たちは、驚愕した。

博士の答えは、研究者たちの理解を超えていたからだ。


ありのまま、今思ったことを話すなら、

「私たちは、博士をとてつもない天才だと思っていたら、さらにとてつもない大天才だった。」

博士は、研究者たちが何を驚いているのかわからなかったが、

研究者たちも、博士に何を説明されたのかわからなかった。

頭がどうにかなりそうだった。

空想だとか妄想だとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてなく。

もっと恐ろしい大天才の片鱗を味わった。


研究者たちは考えることをやめ、「大天才!さすが博士、大天才すごい!」

と誉め称え、

この二つの不思議エネルギーを、摩擦熱の様なものと思うことにした。

『わからないものは、わからない』世界の真理である。


そして、『タイムマシン』が完成し、研究者たちが気づいた時には全てが終わっていた。


研究者たちは焦った。

自分達は、博士の力になるために集まったにもかかわらず、ただ博士の説明を聞き、

また理解できないことを言い出したと思い、「大天才!さすが博士、大天才すごい!」と

誉め称えただけで、なにもしていないからだ。

せめて、『タイムマシン』をロケットに積み、打ち上げる作業だけでもと、三日で準備を終わらせた。

ちなみに、博士は『タイムトラベル』衝動から十日で『タイムマシン』を作っている。


このように、わずか半月足らずの短期間で、何かよくわからないまま準備は完了した。

しかし、簡単そうにやっているが、『ダークエネルギー』と『ダークマター』は、

未知のエネルギーで、観測できたこと自体が世紀の大発見である。

それを、博士は制御し、なんと利用までしてしまったのだ。

世界は博士の功績を誉め称えた。


しかし、博士にとって、そんなことはどうでもよかった。

『タイムトラベル』の過程でしかないからだ。

それ以外のことは、些事にすぎない。


多くの人が熱狂する中、博士は一人、宇宙へと旅立った。

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