第2話 怪しい空気

「うわぁ、凄い数の墓石だね」

「うん」

「面白くない」


 私達三人は、トヨウラ墓地の中を散策。

 たくさんの墓石が立ち並ぶ中、知らなと文字がいっぱい書かれていた。


「当たり前だよ。ここはお墓だよ?」

「面白くない」

「演者がそれ言ったらお終いだよ、カラン」

「面白くない」


 カランちゃんはずっと「面白くない」の連呼だ。

 確かに何も起きないし面白くはない。

 でも、私は体が震える。何だが嫌な感じが、ずーっと向こうからする。


「ウルハ、この先は……」

「うおっ!」

「な、なに!?」


 私は咄嗟に刀を手にした。

 ウルハちゃんが突然声を出して驚いたからだ。

 一体何があったのか。私はウルハちゃんの肩越しに見つめた。


「ウルハ?」

「見てよ、二人共。こんな所に人の服が掛かってるよ」

「「えっ?」」


 目の前には墓石が置かれていた。

 そこに真新しい服が掛かっている。

 何だか気味が悪いけど、よくないことをしているのは確実だ。


「面白半分でこんなことしちゃダメなのに」

「そうだよ。絶対にこんなことしたらダメ」

「……汚い」

「「それもよくないよ」」


 真新しい服からは何故か腐臭がする。

 カランちゃんは臭いを嗅ぐと、険しい顔になる。


「でもどうしてこんな所に?」

「もしかして、昼間面白半分で誰かが置いて行ったのかな?」

「その可能性は……ないと思うけど」


 とは言え○とは言えない。

 だから私達は墓石に掛けてある服を剥がし、鞄の中に詰め込む。

 私の鞄は何でも入る。スッと納めると、次に向かった。


「そう言えば二人にはまだ言ってなかったね」

「「ん?」」

「この墓地で人が消えるって噂。あれ、一つだけ変なことがあるんだ」

「変なこと?」

「なにそれ」

「それがね……うおっと!」


 ウルハちゃんが声を上げた。

 今度は一体なんだろうと、私はソッと顔を覗かせる。

 すると顔が青ざめてしまう。仮面越しだから良かったけど、顔面が白くなっていた。


「なにこれ? 干物?」

「もしかして、噂は本当だったのかな?」

「噂って?」

「実はね、この墓地で行方不明になった人以外にもいるんだって。忽然と姿を消したんじゃなくて、いつの間にかそこにあったって。現場保存の観点で置かれていたみたいだけど、これ、本物だよね?」


 やめて、それ以上は言わないでほしい。

 私は心から願ったけれど、カランちゃんは空気を読まない。


「もしかして、ゾンビ? 人の死体?」

「カラン!」

「そうだよ、このゾンビがもしそうだとしたら、このゾンビは死体じゃなくて遺体。うっ、ごめんなさい」


 私は絶句して言葉が出ない。

 震えがピタリと止まると、全身を包む嫌な感じが本物になる。

 目の前のそれは本物の人間の遺体で、何故か干からびてしまっていた。


「ねぇ、これ試したい」

「えっ? うわぁ、ちょっと、ダメだって」


 カランちゃんは突然聖水を遺体にぶっ掛けた。

 慌ててウルハちゃんは配信を切った。

 危ない危ない。危うくチャンネルがBANされる所だった。


「なにしてる、カランちゃん」

「なにも起きなかった」

「起きないよ、普通に考えて!」

「普通ってなに? ダンジョンは普通もなにもない」

「そ、それはそうだけど……でも」


 確かに遺体に聖水を掛けて分かったこともある。

 それは聖水がまるで効果を成していない。

 聖水のイメージが固定化しているせいだけど、何も起きたりしない。


「意味なかったのかな?」


 そう思った私達は一旦この場所を離れる。

 より奥に、より先に。きっと何かあるはず。

 配信も再開し、私達は墓石の合間を潜ると、ゾクッと空気が震えた。


「ニエ、ニエ、ニエガホシィ」


 私は変な声を聞いてしまった。

 気のせいかな? そう思ったけれど、私はキョロキョロ視線を配る。


「ねぇ、いま何か聞こえなかった?」

「えっ、なにも聞こえなかったような?」

「分からない」

「そう? 変だな……」


 私だけがおかしかったみたい。

 首を捻り、落ち込んでしまう。

 豆腐メンタルの心がプルプル震えると、耳を塞ぎたくなる。


「ホシィナ、オナゴノタマシ、ホシィ」

「やっぱり聞こえる!?」

「「えっ?」」


 ウルハちゃんもカランちゃんも聞こえてない。

 だけど私には空気としてハッキリと頭の中に流れる。これは一体なに? そう思った瞬間、嫌な空気が頭を撫でた。


「二人共伏せて!」

「「ーーー!?」」」


 ウルハちゃんとカランちゃんはソッとしゃがんだ。

 すると真上に細長い何かが通り抜ける。

 薄灰色をしていた。あれはなに? そう思うのも束の間で、「チッ」と舌打ちでもない何かが聞こえる。


「今の、なに?」

「分からないけど、ありがとうアスム」

「……ねぇ、誰かいる」

「アレはなに?」


 カランちゃんが何か見つけた。

 視線を奪われると、墓石の裏側から何か出てくる。

 黒い布を被っている。だけど人間じゃない。白骨化した骸骨が歩いていると、恨めしそうに私達を見ていた。

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