第三話 旅立ち

 「で、いつになったら復活するんですか!」


 「あ、あれぇ?」


 かれこれ10分ほどヴァルドを生き返らせろと願っているが、変化が全く見られない。本人も困惑しているように見え、本当にこいつは神なのかとアレンの心は不安になっていく。

 

 「条件が間違っているのか...?いいやそんなことはないはず...」


 「また死にたくなってきましたけど...」


 「いや待て!あと10分!いや、あと5分頑張ってみよ!大丈夫!俺を信じろ!」


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 「だめだったな」


 「おい!!!」


 結局なにも変化は見られなかった。かれこれ20分以上頭の中でヴァルド復活ヴァルド復活と心で願い続けたが、何か起こりそうな雰囲気すら全く感じられなかった。


 「そうか...うーん。じゃあ....面倒だが、、、かなり遠回りにはなってしまうが、、、別の策をとるとするか」


 「面倒...な?」


 「ああ、俺の復活が失敗した理由がいまいちまだよくわかってないんだが、こっちなら絶対たぶんうまくいく。」


 「絶対たぶんって…」


 しかし前の提案をした時に比べて口ぶりからかなり大きな自信を感じる。失敗した理由など何を言ってるのかわからないこともあるがこの神に全部任せるしかない。


 「その方法って?」


 「簡単だ。俺の力をお前に授ける。そいつを使ってお前は俺を生き返らせる方法を探しに外に出るんだ。ぞれで俺を生き返らせてくれれば村人たちは全員生き返らせてやるし、金色への復讐はなんならお前の手でやればいい。まあ、おれがやってやってもいいが。」


 「力を授ける…」


 神の力を授けられるなんて、本当にそんなことが可能ならとんでもない話だ。ヴァルドの復活が失敗した今、この村のために動けるのは自分だけなのは間違いなく今の自分の力ではそれがかなりの無理難題なのはわかっていた。しかし、神の力を手に入れることができるなら不可能ではなくなるかもしれない。


 「そうだ、世界最強の力だ。この力があれば目的を果たすことなんて簡単なことだろう。時間はかかるだろうがな。もちろん無理にでもこの提案を飲む必要はない。だが、今この村を救うために動けるのは他でもないお前だけだ。どうだやるか?」


 提案を飲む必要はないとヴァルドは言うが今この機会を逃してしまったら失った家族たちを取り戻すチャンスなんてもう二度とやって来ないだろう。アレンに悩む選択肢なんてなかった。


 「はい!お願いします!」


 「フフ…よしわかった。今すぐに俺の力を授けてやる。あとついでに一応心の中で力くれって願っとけ。」


 「…急に失敗する気がしてきたんですけど、なんかネタみたいになってません?」


 アレンは目を閉じ、心の中で願う。その瞬間アレンの体を輝きが包みヴァルドの魂がアレンの体と一体化する。数秒間輝きが続いた後目を開けると景色は何も変わらないが、唯一目の前に浮かんでいた人魂が消えている。


 「ヴァルド様…?」


 「ここだ」


 「うわ!びっくりした!え?今どこにいるんですか?」

 

 「今はお前の心の中にいるようなものだな。実体の姿を消してお前の脳内に直接俺の言葉を送っている」


 「よくわかんないですけど、まあ神様だからってことで納得します…ところで今度は成功したんですか?」


 「お前さては俺に対する信頼ゲージが下がってきてるな?大丈夫だ。俺は二度も失敗しない。」


 ということは今度は成功したということだろうか。しかし体にも心にも何か変化が起こったとは感じられない。自分が本当に神の力を与えられたのだったら強力な力を手に入れて身体能力も格段パワーアップしているのだろう。それを確かめるためにアレンは岩の壁の方を向き、思いっきり殴りつけてみる。が、


 「いった!!!」


 結果はヒビ一つ入らずダメージを負ったのはアレンだけだった。


 「いきなり何してるんだお前」


 「か、神の力を本当に手に入れたのか確かめてみたくて」


 「何言っているんだ。俺はお前に力を授けたと言ったが、それは俺の身体能力や力を全て授けたというわけではない。俺がお前に授けたのは俺の持つスキルだ。」


 「スキル…って?」

 

 「お前父親から何も聞かされていないのか!…仕方ない全部1から説明してやる。いいか、この世に生を受けた生き物は例外なく全員が特別な能力『スキル』を1つ持っている。例えば水中で呼吸ができるとか耳がめちゃいいとか、人によって多種多様だ。その中でも特に優秀で強力だとされるものが通称『ゴッドスキル』。これはこの世界でも限られた人間しか取得することのできないスキルでまさに破格の能力を持つ。ゴッドスキルなしにはこの世界で最強になるのは不可能だというほどにその力は絶大だ。そしてお察しの通り俺はそのゴッドスキルを所有している。


       その名を『HOPE』


世界最強のスキルだ。そしてこれを今お前に授けたのだ。」


 スキル…?ゴッド…?HOPE…?聞いたことのない単語が大量で頭がパンクしそうになる。


 「通常スキルというものは生まれた時に世界から与えられた一つしか所有するできない。だがこのHOPEはそんな常識を覆す能力だ。このスキルは複数のスキルを同時に持つことを可能とする能力なんだ。だから今のお前にはまだ何の変化を現れていない」


 なるほど。だからさっき岩を殴ってみても、身体能力に変化があった感覚を感じられなかったのだろう。それにしても通常一つしか持つことのできないスキルを複数持つだなんて…。

 

 「それってめちゃくちゃ強いじゃないですか!」


 「だからゴッドスキルなのさ」


 「す、すごい…!」


 ヴァルドの話にアレンは顔を輝かせる。本当にそんな能力を手に入れてしまったのなら、みんなの復活も本当に夢じゃなくなる。スキルを複数持つための方法がいまいち思いつかないが、戦いの中で増えていくとかそんなかんじなのだろうか。


 「そして肝心なスキルを複数持つためのHOPEの能力だが、」

 




 「それは相手を『殺して』相手のスキルを『奪う』それだけのことだ。」


 「…え?」


 思っていた答えと全く異なるヴァルドの返答にアレンを動揺を抑えられなかった。


 「いやいやちょっと待ってください。殺す…?奪う…?本当に?」


 「ああそうさ、殺して奪う。強いスキルを持った人間を殺して奪って強くなる。そうすればお前は簡単に世界最強の戦士になり目的を果たすことができる。簡単だろう?」


 「いや、でも…他人を殺して強くなってみんなを生き返らせたって…!確かにそれで俺は満足できるかもしれないけど、俺にそんなこと…」


 「できるできないじゃない、やるんだ。じゃあどうする。どちらにしたって外の世界に出るんだったら人間同士の殺し合いは避けられない。みんな自分が生きるのに必死なんだ、自分のことで精一杯なんだ。どちららにしたって、相手のことなんて考え続けていたら殺されるのは相手じゃなくお前だ。それとも今ここで他人に殺される前に死ぬか?村人たちの無念も晴らさずにか?」


 確かに、ヴァルドの言う通りだ。外の世界の話は父親に聞いただけのことしか知らず、アレンは村の外に出たことすらない。外の人間全員が村人のみんなのように優しいわけもなく、中には他人の命を平気で奪うような輩もいるだろう。それこそ村人たちを殺した神の遣いのような集団のように。アレンは覚悟を決めるしかなかった。


 「わかりました…おれやります。村人のみんなを…父さんを…マナを…救うためには今の俺はなんでもやるしかない…!」


 「よく言った。合格だ。正直この話を受け止めてくれるかが1番の懸念点だったんだ。助かるよ」


 「でも、実際そんな場面に遭遇した時に人を自分の手で、なんて…できる自信ありません…」


 「その点は大丈夫だ。すぐに慣れる」


 慣れるということはヴァルドは今までにたくさんの人間を殺してきたということだろうか。今までにたくさんの神技のようなものを見せつけられたが、これも全てゴッドスキルによって他人から奪ったものだとすれば納得がいく。つまり、ヴァルドの持つスキルの数だけ犠牲になった人たちがいるということだ。アレンが思っている以上にこのヴァルドという男は危険な男なのかもしれない。


 「幸いまだ日が登ってからあまり時間も経っていない。ここから1番近い町にも日が落ちる前にはつけるだろう。早速出発するとするか。」


 「あの、できれば、父達の遺体を埋葬してからにしたいんですが…」


 「…個人的にはそれはやめといた方がいいと思うな。イグと名乗る者の攻撃によって村そのものが原型を無くすほどに崩壊してしまっている。見ただけで誰かわかるほどの綺麗な死体なんて残っていないだろう。行っても無駄さ。」


 「でも…」


 「大丈夫だ。お前が俺を生き返られせてくれれば、俺が全員生き返らせるんだ。何も気にすることはない。お前が1番優先するべきことは俺の復活の遂行だ。」


 確かにヴァルドの言ってることは間違いではないかもしれない。が、最後までみんなに何もしてあげられなかった自分の無力さにアレンは胸が苦しくなる


 「じゃあ行くぞ。町は洞窟を出て左の森の中を道なりに進んで3000m先右方向でうんぬんかんぬんだ。」


 必ず村のみんなを生き返らせてみせる。この神は正直全く信用ならないが今は彼を信じるしか道はない。強くなってみんなを助ける。イグはこの手で必ず倒す。アレンはそう強く心に刻み、洞窟の外へ向かう。 

 ここから俺とヴァルドの長く過酷な旅が始まる。



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 アレンたちがアルバリを出て5時間ほど後


 「それにしてもひでえ有様だなこりゃ」


 平地となったアルバリの中心に赤い騎士風の服を来た青年がたちすくんでおり、周りでは同じように騎士の装いをしたものたちがあたりを散策している。


 「何者か知らんが完全に先を越された。アレだけビンビンに光ってた強者のオーラが完全に消えた。」


 あーっ!と叫びながら頭を掻きむしっていると、同じような服を着た黒髪の女性が近寄ってくる。


 「解析のできそうな遺体の回収と辺りの探索は一通り終わりました。一度帰還しますか?」


 「ああ、そうしよう。これ以上ここに残っててもやることもないだろうしな。」


 その返答を聞いたのちに女性は帰還の命令を兵隊たちに出し、ずらずらと引き上げていく。他の兵士たちがいなくなった後、青年は空を見つめながらつぶやく。


 「待ってろよ『破壊の勇者ギアス』

 この俺『勇者ヒロト』様から逃げられると思うなよ。かならず殺してやる。世界最強は俺だ。」

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