第二話 願え

「俺の名は『ヴァルド』お前たちアルバリ村の村人どもが進行している神だ。驚いたか?」


「あなたが、ヴァルド様...?」


 ヴァルドといえばアルバリ村で何百年も前から信仰されてきた神の名で、それを名乗る神が目の前にいることにアレンは驚きを隠せなかった。


 「本当に...ですか...?」


 「まあ証明する方法もないがな。信じないならそれでもいいさ」


 「いや、、、信じます」


 何も確証はないがアレンはこの人魂がヴァルド本人であると確信していた。先ほどの風や岩の出現などもきっとヴァルドの仕業であろう。そして極めつけはずっと放たれているこのオーラ、どちらにしても只者ではない。


 「あと、いい加減技解いていただけないですか?そろそろ本当につぶれちゃいそうです...」


 「ああ、すまん。すっかり忘れていた。うい」


 アレンの体全体にかかっていた力が消えアレンは立ち上がり、服についた泥を落とす。


 「ところでお前はなぜあんなところでウロチョロしていたんだ?」


 そういわれアレンはハッと思い出す。村が敵襲にあったかもしれなく自分がそこから逃げてきていたということを。


 「じつは、、、僕たちの村が敵襲にあったかもしれなくて。聞いたこともない爆発音がして僕はここに逃げて来たんです」


 「なるほどな。ふむ。....確かに今お前たちの村は何者かに襲撃されているな」


 「え!?っていうか、なんでわかるんですか」


 「まあ、神様だからな」


 神様なら何でもできるのかとツッコみたいのはさておき、


 「じゃ、じゃあ!みんなを助けてくれませんか!みんな、大事な家族なんです!」


 「それは無理だな」


 「な、なんで!神様なんでしょ!何でもできるんじゃないんですか!」


 「...」


 アレンが声を荒げた後数秒の沈黙が流れ、もう一度ヴァルドが口を開く


 「俺は今諸事象で魂だけの状態なんだ。今目の前に敵がいるならともかく、ここから離れた村にまで影響を及ばせることはできん。残念だがな。」


 「じゃあ!俺がみんなをここまで避難させれば!」


 「無理だな。見た感じお前にそれができる力量はないし、そもそも手遅れだ」

 

 「え...手遅れって...」


 「俺一人だけ楽しむのもお前に悪いな。目を閉じろ。今何が起こってるか見せてやる。特別だ。」


 アレンは言われるがままに目を閉じる。その瞬間アレンの脳内にアルバリの景色が広がった。しかしその景色はいつものあの姿ではなく、家が燃え、人々が倒れまさに地獄絵図のような光景となっていた。村のいたるところで仮面をつけた白い服の者たちが破壊と殺戮の限りを尽くしている。


 『なんだよ、これ...と、父さんは!エマは!』


 あたりを見渡すと、遠くの方で父親が仮面五人ほどを相手にして戦っている最中だった。うしろには村人たちが数十人固まっており、彼らを守りながら父は戦っているようだった。自分も何かしなくてはと足元にある木の棒を手にしようとするが、宙を空ぶってしまいつかむことができない。

 

 『無駄だ。これは俺が俺の脳越しにお前に見せている景色に過ぎない。お前はこの戦いに干渉できないし、体はさっきの場所に置いたままだ』


 『脳後しに...じゃあ俺は、この戦いを指をくわえてみてるしかないってのかよ...』


 そうこうしている間に父と仮面たちの戦いが終わり、目の前にいた五人全員を蹴散らした。村人たちは歓声を上げ父は雄たけびを上げ、残った仮面の者たちは少し後ろざる。


 「お前らごときが何人いようが俺たちは殺せねえ!さっさと引き下がってもらおうか!」


 『やっぱ父さんはすげえ!このまま全員やっつけちまうぞ!』


 『...いや、ここまでだな』


 ヴァルドがそうつぶやくと、父は急に顔色をかえ迎撃態勢を強めた。父はどこかをちらっと見た後もう一度前に視線を向ける。その先から誰かが歩いてきているのがわかる。仮面たちが道を開け、その中からとても派手で豪華な金色の服を着て、両腕を後ろにまわした長身の顎髭の男が出てきた。


 「はじめまして、アルバリ村にすまう庶民の皆さん。突然押しかけてしまい申し訳ない。私たちは『神の遣い』そして僕がそのリーダーの一人、『第10使徒 イグ・ノーチラス』以後お見知りおきを。 まあ私たちがどういう団体かなんてあまり興味はないですよね?わかっています。僕は頭がいいので。

 本当はもっと穏便に話を進めれたらと思っていたのですが、うちの子たちはかなりやんちゃでね。少し先走ってしまったみたいなんだ。本当に申し訳ない。これもみな神に認められようと頑張っているからなんだ。寛大な心で許してあげてはいただけないだろうか。」


 「やんちゃって... その行動でこの村の住人何人が死んだと思ってんだ。お前たちが誰だが知らんが..」


 「黙れ。私が直々に庶民のお前らに誤ったんだからその話はもう終わりだ。さて、本題に入るんだが、」


父の話を遮り男が話を続ける。


 「私たちの目的は一つだけ。この村に眠る神の魂の回収だ。大丈夫。場所さえ教えてくれれば私たちは勝手にそれを回収して勝手に帰るよ。そのことは約束しよう」


 神の魂とはきっとアレンが先ほど見つけた祠にいたヴァルドのことだろう。どこでその情報を知ったのかはわからないが、間違いなくこの男たちはヴァルドの魂を求めてやってきている。


 「そんなものはこの村にはない!こんな平凡な山奥の村に、そんな、神の魂なんて物騒なものあるわけがないだろう!」


 「そんなこと言われてもねえ。うちの確かな情報網がここにあるって約束してくれたんでねえ。そうか、困ったなあ。うーん。じゃあこうしよう。おい、この村で一番の年寄りは?」


 イグの呼びかけに父の後ろからこの村の村長である老婆が顔を出す。

 

 「この村で一番の年寄りはわしじゃが」


 「話は聞いていたと思いますが、この村に眠る神の魂のことは何かご存じですかな?この男性に聞いてもいい答えが返ってこなくてですね」


 「そんな話は一度も聞いたこともない。わし以外の老人に聞いて回っても同じ回答しか返ってこんじゃろうな。それがわかったらとっとと帰ってくれ」


 「ほんとうに?約束できますかな?」


 「約束じゃ」

 

 「そうですか。...残念ですよ」


 イグは不敵に笑うと右手を腰の横にだし、中指を村人たちのいる方向へ親指ではじいた。指の先から赤い光が飛び出し父の横をすり抜け後ろにいた村人たちに直撃し大爆発を起こした。爆風とともに返り血が父の背中にまとわりつく。


 『!?』


 「どちらにしても私たちの目的を知られたからには死んでもらうしかないんですけどね」


 「貴様!」


 声を荒げ父はイグとの距離を瞬時に詰めその体めがけて強く右腕を振りかざすが、なぜかその腕は宙を空振りした。


 「なんだ!?」


 「こっち」


 いつの間に後ろに回っていたイグが父の肩を後ろから左手でトントンとたたくと、もう片方の手で背中に向けて爆撃を放った。爆撃を直にくらった背中には大きな穴が開きそのまま父は仰向けに倒れた。


 『父さん!!!』


 ずっとブルブルと震えていたアレンの体は耐え切れず地面に崩れ落ちる。目の前に倒れた男の死を確認すると、イグは両腕をからだの後ろに戻しその死体を尻目に仮面の者たちの前に戻る。


 「とんだ茶番だったな、一度帰ろうか。変にカッコつけたせいで私の服が汚れてしまったし、彼が嘘をついていて私との約束を破っているというならそれ相応の償いをさせなくてはならないしね。」


 その言葉を聞いて仮面たちは後ろを向き森に向かって消えていく。それに続きイグも前に歩き出すがふと立ち止まる。


 「王国のやつらに何かかぎつけられてもめんどくさいし一応。」


 そうつぶやくと後ろを振り返り村に向けて光の球を放ちそれが大爆発を起こした。そこから巻き上がる煙雲を見て満足げに笑うともう一度背を向け森の中へ消えていった。


 神の遣いが消えるとともにアレンたちも元いた祠に戻された。アレンは声も出せず大粒の涙に顔を濡らしていた。


 「神の遣いだなんて初めて聞いたな。俺のことを探していたようだったが住民どもはなんでおれの情報を全く話さなかったんだろうな。...おいアレン聞いてるのか?」


 「...してくれ...」


 「あ?」


 「もう俺を殺してくれ!!!!!」


 大声をあげながらアレンは立ち上がり祠に向かってしがみつく。


 「びっくりしたな。いきなりなんだよ」


 「もう殺してくれ!俺のことを!あんたならできるだろ?神様なんだから!」


 「おい、一回落ち着け」


 「落ち着けるか!全員死んだんだ!父さんも村長も!きっと...エマも...!殺されたんだ!なのに、、、

俺は一人だけ村から逃げてみんなを見殺しにしたんだ!俺一人だけ生き残るなんて許されないんだよ!もういいよ、ころしてくれ...」


 ひとしきり叫びそのまま崩れ落ち10秒ほどの沈黙が続いた。


 「いやその理屈ならお前は死ななくていい。」


 「なにが!」


 「冷静に考えろ。もしお前が逃げずに村に駆け付けたとして何ができた。お前の父が手も足も出ていなかった相手のお前が本気で何かできたと思うのか?いや、結果は変わらなかっただろう。」


 「でも!...」


 ヴァルドは静かに語りアレンは言い返そうとするが反論の言葉は何も出てこない。たしかにヴァルドの言う通りアレンがあの場にいたところで結果は変わらない。そもそもそんなことはアレン本人も元からわかりきっていることだった。


 「お前が死にたいのは何もできない自分が情けないからだろう?悔しいからだろ?そしてそんな情けない自分から解放されたいからだろう?だが、お前にそんな選択肢はない。」


 「じゃあ,,,俺はどうすれば...」


 「簡単さ、願え。


  この俺を生き返らせろと。」


 「願う...?生きかえ、って...え?」


 「そうだ、心から願え。そうすれば俺はこの世に復活し、俺の力でお前の家族も村人も全員生き返らせてやる。ついでにあの金色のやつに復讐もしてやろう。」


 村人の皆を生き返らせるなんてそんな都合のいいことが本当にあるのだろうか?そもそもついさっきであったばかりのこの神を本当に信用していいのか。願うだけで本当に何か起こるのか。疑問点はたくさんある。だが、今のアレンに選択肢なんてあるはずがなかった。


「さあ願え。」

 



 

 


 


 

 


 

 


 


 

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