HOPE ~他人のスキルを奪って世界最強を目指せ~
@abarabone2424
第一話 はじまり
ここは平凡で小さな村『アルバリ』。周り一帯は森と山に囲まれており村人も50人程度しか暮らしていない小さな村だ。ある人は畑を耕し、ある人は木を伐採している。そんな平和な村。
村人の一人が畑に植えられた作物の世話をしているところに、一人の青年が歩み寄って来る。
「おはようございます。」
彼の名を『アレン』。この村で父『フォーセ』と二人で暮らしている、背丈の伸びた黒髪の好青年だ。
「おはよう。早起きで偉いな。今日もこれから父親の手伝いか?」
「はい。父が先に川に向かっているので今から向かうところです。」
がんばれよと手を振るおじいさんを背にアレンは父のもとへ向かう。ほかの村人の皆とも会話をしながら歩み慣れた道を歩き、森を抜けた先の小さな川に向かうと、そこには先に向かっていた父と、アレンの幼馴染である茶髪の女の子「エマ」が待っていた。
「あ!きたきた。おーい!こっちこっち!」
アレンの存在に気づいたエマが立ち上がりアレンのほうに手を振ってきたので、催促されるようにアレンは小走りで二人のほうに向かった。
「おはよう、って、なんだ。エマも来てたのか」
「なんだってなんだ。お前がくるのがおせーから、かわりに仕事の手伝いをしてくれてたんだぞ?そのおかげでもう今日やることは終わっちまってんだよ。」
「そーだよ!アレンの仕事はもうないんだからね。」
マジかよとつぶやきながら父の足元に置かれた籠を見ると、確かにその中は新鮮な魚ですでに埋め尽くされている。
「いや遅かったっていうけど、俺別に普段とここに来る時間たいして変わってねーだろ」
「でも俺とエマちゃんは実際お前より早くついて仕事を終わらせちまってんだから、お前が遅かったことに嘘はねーだろ」
「そんなの理不尽だろ!」
「ガハハ。確かにな。ところでエマちゃん。もうやることなくなっちまったし、今からおれたちいつものアレしていくけど、今日も見ていくか?」
足元に置かれた籠を背に背負いエマにそう尋ねる。
「ううん、きょうは儀式の準備の手伝いもしなきゃいけないから今日はここでいったん帰るよ」
「そういやもうそんな時期か」
「なんで忘れてんだよ」
村アルバリでは毎月儀式を行う習慣がある。詳しい内容は大人たちしか知らずアレン自身もあまりよくわかっていないのだが、この村を守る神『ヴァルド』に祈りをささげる大事な儀式らしい。いけにえを捧げるとかそんな物騒なものではないのだが毎月村人たちは欠かすことなくこれを行っている。今日はちょうどその日というわけだ。
「魚は特訓に邪魔だろうから私持って帰っちゃうよ。訓練で蹴飛ばしたりして魚がどっか行っちゃっても嫌だしね」
「おう、すまんな。エマちゃんは気が利いて助かるぜ」
「こんくらいどうってことないよ。じゃあまたあとでね。アレンも頑張ってね」
「お、おう」
エマは父から魚の入った籠を受け取り、手を振りながら村のほうに歩いていった。その姿を見送った後アレンと父はふたりで森の中に向かった。そこには父が昔作った秘密の訓練場があった。アレンがもっと小さかったころに作られたものでそこに備えられた道具の数々はかなり年季を帯びたものとなっている。アレンと父はここで特訓をするのが日々の日課となっているのだ。ここで長年鍛えられたことによってアレンは高い身体能力と経験を手に入れていた。
「よし、じゃあ今日は久しぶりに実践練習でもするか。」
「実践なんて久しぶりだな。最近はずっと基礎なことばっかやってたのに」
「ま、まあな。久しぶりにおまえが今どのくらいの実力なのか確かめてみたくなったな。」
アレンが腕組みをしながら訪ねると少し遠くに顔を向けながらそう答えた。
実戦練習とはいわゆる組み手のようなもので、父が攻撃することはない。まあたまに間違えて一発ぶん殴ったりしてしまうことはあるが。
二人は準備運動を済ませると実戦練習を行う時の定位置についた。
「よし。いつでもいいぞ。すきにかかってこい」
「じゃあお言葉に甘えて、行きます!」
合図とともにアレンは父に向かって走り出した。少し遅れて構えをとる瞬間、隙と考えた腹部に向かって右の拳を突き出したが、あっさりと片手で止められてしまう。続けて何発か攻撃を試みたがそれもすべて通用しない。
「いい突きと狙いだ。成長したな。ちょっとピリピリしたぜ。だがまだまだ甘いな」
「ちっ!」
アレンは一度後退しもう一度構えをとる。今回より前に実践を行ったのが7か月前。その時の反省会で気づいた時から温めていた作戦だったのだが全く通用せず、少し考える。昔からもちろん知ってはいたが改めてやはり父は強い。もっと頭を使わなくてはこの実戦練習でダメージを与えることはできないと悟った。
「なんだ。そんな黙っちまって。ちょっと防がれたくらいでビビってんじゃねえ!どんどんこい!」
「いわれなくても!」
そう挑発されるかのようにアレンはまた走り出し距離を縮めようとしたその時、
「!?」
村の方向からとても大きな爆発音がした。今まで生きてきて聞いたことのない音がした。
「なんだ!今の音!」
「わかんねえ。儀式の準備の最中に何かトラブルがあったってんならまだましだが...敵襲かもしれねえな...」
父の顔を見ると神妙そうな顔をしているのが分かった。アレンのように大きく焦ったりパニックになっている雰囲気は全く感じられなかった。その顔つきは何か考えているように感じられ、「今日なんだな...」とつぶやくとアレンのほうを向いた。
「俺は今から様子を見に行く。お前は川を下った先にある洞窟まで避難するんだ。いいな」
「いやだ!俺も行く!村捨てて俺だけ逃げれるかよ!」
「だめだ。何かあったときに邪魔になるだけだ。俺の言うことを聞け」
「でも...!」
しかしアレンに今の言葉に言い返すことなどできなかった。先ほどの実践練習で改めて感じたことだが父親と自分との間に大きな実力差があることは明白で、ただついていったって足手まといになることは明白だった。村にいち早く駆け付けたい思いは本物だが、その気持ちにアレンの実力がついてこれない。苦虫を嚙み潰したような顔をしてうつむいてるアレンの頭に父がポンと手を置いた。
「それにまだ敵襲って決まったわけじゃねえ。ただ村のばあさんがどでかいおならをしただけも可能性もあるだろ?それなら全部ok。何もなかったら、すぐにお前を迎えに行く。それに俺はこうみえて結構強いからな。仮に何かあってもそこら辺のやつになら負けねえ。安心しろ」
その言葉の正しさはアレンが一番知っていた。何年もその背中を見てきたのだから、外に出たことのないアレンでも自分の父親が世間的に見ても強いほうだということはなんとなく理解していた。
「わかった。村の皆を...お願いします...」
「おう、任せとけ。じゃあ行ってくる」
村の方向に走り出す父を見送った後アレンは指定された洞窟に向かった。
その洞窟とは川を下った先にある洞窟なのだが、その中に入ると唐突に頭の中に声が聞こえてくることがあると有名な場所であり、アレンも小さな子供の時に何度か肝試しで訪れたことがあった。実際声が聞こえたことはなかったが、なにか不気味なオーラで包まれており気味が悪くそれ以降近寄ることもなくなっていた。
道をしばらく歩き洞窟の前までついた。あの頃と風景は何も変わっていないが、子供のころから感じていたオーラが強くなっているような気がした。気を抜いたら息が詰まってしまいそうな気配にアレンは圧倒されてしまう。そんなこんなで洞窟の前でこの中に入るか入らまいかタジタジしていると、唐突に外から洞窟に向かって大きな風が吹き、アレンは洞窟内に吹き飛ばされてしまった。
「なんだ!今の突風!」
今まで感じたことのない風に驚きながら立ち上がろうとすると、今度は洞窟の入り口の床から鋭くとがった岩が天井向かって突き上がり、入口が完全に閉ざされてしまった。
何が起こっているんだと入口に向かい、塞がれた岩をたたいてみるがびくともしない。突然の出来事の連続に戸惑っていると、
(進め...)
「!?」
アレンの頭の中に突然低い男の声が流れ込んできた。その声に反応し反対側をむくと洞窟の奥の方から先ほどから感じていたオーラが流れてきているのが分かった。その禍々しい気配はアレンにこっちにこいと呼んでいるようにも見えた。
「何が起こってるのかよくわからないが、進むしかないか...」
決心を固めるとアレンは洞窟の奥に向かって歩き出した。でこぼこだが、ある程度整備された道をまっすぐに進む。前に進んでいくにつれて、こちら側に向かってくるオーラがどんどん強くなっていくのを感じる。そのオーラをかき分けながら進んでいくとやがて最奥に小さな祠のようなものを見つけた。
「なんだ...これ..」
正直質素というしかないほど地味な祠だったが、そこからは見た目とは異なりとてつもない気配が放たれていた。
ここまでたどり着いたはいいものの、自分を呼んだ声もあれからは一度も聞こえず。どうしたものかと立ちすくんでいると、祠の中央が黒紫色に光りだしそこから人魂のようなものが現れた。その物体(?)はふわふわと浮かんでおり先ほどから感じていた気配は、まず間違いなくこれから流れだしてきていた。
「お前が...さっきの声の主か?」
「お前とは言葉遣いがなってないな。少年」
「!?」
その瞬間アレンの体が地面にたたきつけられた。大きな重力に引っ張られたような感覚でアレンは地面に這いつくばりの体制になり動けなくなった。こいつはやばいと感覚で理解するとともに、無駄な言葉で神経を逆撫でしないようにせねばと心で決めた。村で何が起こっているのかもわからないのにこんな意味不明なところで殺されてられない。
「あ、、、あなたは、、だ、誰ですか...?」
そう尋ねると、人魂は満足げに鼻で笑った後答えた。
「ふん。まあ、いいだろう。
俺の名は『ヴァルド』
お前たちアルバリ村の村人どもが進行している神だ。驚いたか?」
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